蝉の声が狂ったように鳴いている。

ジーワジーワジーワ

部屋に篭った主は茹だるような暑さにも構わずくるりと大鍋の中身を一混ぜした。















「何日目だっけ」

レポートが進まないのでぼーっとペンを行儀悪く口に咥えてカレンダーを見れば残り少ない夏休み。

それよりも気になるのは同じ屋根の下に住んでいるというのに姿を見せない同居人。

「兼、婚約者??って感じよね」

婚約者というよりははっきりいって保護者に近い。

しかも研究しだしたら何も聞かなくなるのだから立場が逆転しているとは思った。

「えーっと食事を運んだのが1回2回・・・・18回だわ」

夕食は物凄いスピードで食べてまた篭っているから朝昼だけのカウント。

だから正確に言えば今日で研究室に篭り始めて10日目ってことだ。

「こう毎日だと仏様にお供え物している感じ・・・・」

相手は神様でも仏様でもなくてどちらかと言えば魔王とかに容貌は近いと思うのだけど。

レポートはマグルの文化についてであって適当なことを書けばいいかと自分の部屋に戻った。

テレビが置いてあるのは自分の部屋で友人から貰ったDVDを見ようとセットする。

ジジジジジジ

「あれ・・・調子悪いな?」

何故スネイプ家でマグルの機器が使えるかと言えば自家発電に他ならない。

電気ウナギと太陽電池。

そして最終手段にマンパワー!!

「先生が研究中じゃなかったらしてもらうのになー」

仕方ないかとテレビの横に置かれた自転車に乗る。

「いっけー電力ー」

ついでに体重も減ってくれるといいなと思いつつ暑い中ギコギコとペダルを漕いだ。

ピ・・ピピピ

いい感じで電力は溜まっているらしかった。

「若いっていいね。スネイプ先生だったらこんなに早く溜まんないよ」

若さ万歳と暴言を吐いた瞬間悪夢が来た。

「・・・・・何が言いたい」

ギィィィ

ゆらりと影のように立っていたのはスネイプ先生で研究やつれか怒りのせいかとてもこの世の者とは思えない形相だった。

「ギャー!!」

キャアでもキャーでもなくギャア。

色気のない叫び声を上げたはぐらっと身体が傾いたのを感じた。

「おいっ」

ガターン

「あいたたた」

ぷすぷすと繋いでいたコードは切れて無残な状況。

しかもなんだか煙臭い。

「・・・・・・火がっ・・・119番でいーわこれっ!!」

いいわこれは1050だろっと心の中で一人ツッコミ。

ボフン

モクモクモクモクモク

「うわっ・・な・・ゲホゲホっ」

本格的に出てきた煙に咳き込む。

「ゲホっ・・・・此処は・・・」

煙の向こうから現れた人影に驚く。

どこの仮装大賞狙ったのかわからないが滅茶苦茶に胡散臭い男の人が翼?を背負って立っていた。

「アイアム メタトロン。アイアム メタトロン。アイアム メタトロン!」

「誰だ!」

いや、自己紹介してますけど。

が突っ込む前に視界が急に暗くなる。

目の前にあるのはスネイプ先生の背中で庇われたのだと悟る。

少し嬉しくてちょっとだけ悔しい気分。

「あー・・・ちょっと待ってくれ」

キョロキョロと空を見回して不審人物は神よ、とかブツブツ言っていた。

「お前は誰だ」

杖を突きつけていうスネイプ先生の背後から抜け出してその人の前に立つ。

「こんにちは、私はって言うんですけど・・・英語わかります?」

っ!」

スネイプ先生の焦ったような声とは裏腹にウンザリした表情の不審人物はパンパンと汚れをはらって答えてくれた。

「あー・・・わかる。私はメタトロン、神の声だ」

これが証拠だというように広げられた八枚の羽。

うわー・・・・嘘臭っ!!

スネイプ先生も思ったようでちょっと引いてる。

でも悪い人には見えない。

「そのメタトロンさんがなんでここに?」

「私は天使なのだが神を捕まえようとしたら逃げられた」

ぶちぶちと文句を言っている自称天使にスネイプ先生はとっても懐疑的だ。

「天使だと!?誰がそんな嘘を信じる」

ふんと鼻で笑われたのにムッとしたのかメタトロンの表情が一層悪くなった。

「では証拠を見せてやろう」

カチャカチャ

ベルトを外している。

・・・・・・・ベルト!?

「な・・・貴様、何をしているっ!」

「キャー!!」

慌てている先生といきなりなストリップに興奮して声を上げてしまった私。

いや指の間から見るよりもまじまじと見てしまいました。

「な、天使だからモノがないのだ」

「・・・・・そう自慢げにいわれても・・・」

ちょっとガッカリしている私とありえないと凝視しているスネイプ先生。

見ている先がいい年した渋いおじ様の股間なのだからよく考えたら(よく考えなくても)凄い光景だった事だろう。





















「で、メタトロンさんは神様にいつも逃げられてるんですね」

「ああ。神は素早いのだ。あと私のことはメタトロンでいいぞ」

和気藹々な不審人物と婚約者の少女を前にして家の主であるスネイプは不機嫌ゲージが今にも振り切れそうだ。

いつもはこんなに楽しそうではないのにと自分の研究漬けは棚に上げて腹を立てているらしい。

そんなスネイプの様子にも気がつかずはこの妙な客人と意気投合している。

「天使さんなのに・・いいんですか?」

みたいに私のことをすぐに信じてくれる人になら構わない。料理も美味しい」

さらりと口説き文句かそれはと言いたそうなスネイプは黙ったままぐさりとメインの肉をフォークで突き刺した。

「嬉しいです。スネイプ先生はちっとも美味しいとか言ってくれないんですよ」

本当の事なので何も言えない。

「これでテキーラを飲めたら良いんだが」

「テキーラありますよ?」

「・・・・天使も酒を飲むのかね?」

嫌味半分、興味半分で聞く。

自称、天使のメタトロンはこれまた見事にウンザリしたという表情で言った。

「いや、飲めない」

「は!?」

が出してきた瓶とグラスと氷であっというまにテキーラが用意された。

「飲めないならなんで飲みたいなどと?」

スネイプの疑問はすぐに霧消された。

「いや、だからこうやって」

「・・・・・あー・・それなら飲んではないですね」

メタトロンの口からグラスへと戻されたテキーラにあははっとの乾いた笑いが響く。

「いい加減な規則だな」

「私もそう思う」

意気投合したのかカチンとグラスを傾けて笑う二人には苦笑したのだった。















「じゃあ私残りの宿題しますね」

と二階へと戻っていったを見送って男?二人は話していた。

神の世話も大変だとか生徒が馬鹿なことをしてくるとか神の声は独り言も駄目だとか婚約者に虫が寄りやすいとか。

「そういえばあの時は急いで何処かに向かっていたのはの所か?」

「いつのことだ?」

メタトロンの言葉に以前に出会ったかと記憶の欠片を探して思い当たる。

「あの時の不審な奴か!」

「どちらかと言えば苛ついていた分だけお前のほうが怪しいと思われたのだろうな」

だらーっと口からテキーラを戻している男には言われたくないと思いつつスネイプはまあいいと頷いた。

久々に人と飲む酒の美味さを味わったせいかもしれない。











コンコン

「どうぞ?」

の声にメタトロンは部屋へと足を踏み入れた。

「綺麗な部屋だな」

女性の部屋とはこういうものかと呟くメタトロンには笑った。

「メタトロンだって汚い部屋より綺麗な部屋の方がいいでしょ?」

あんまりこの家にはいないしと荷作りをしているにメタトロンはベッドを指差した。

「座っても?」

「どうぞ、神の声さん」

何かもってこようかというを止めて隣に座るように言った。

「私は神の声でつまり神の代弁者だ。は神に何か聞きたかったんじゃないか?」

メタトロンの問いかけるような声にはそうだなーと首を傾げた。

「メタトロンに言うのも悪いんだけど私、日本人なんだ」

正確にはハーフだけどという少女の微笑にメタトロンはしばしの間見惚れた。

表現するなら慈母のような笑み。

かつてのマリアのようなと言ったらいいだろうか。

「神様は唯一神として信じてないし神様も仏様も混同してるしゆるーい風土で育ったからこういうことメタトロンの神様に聞いてもいいのかわからないけど」

ちょっと口ごもってそれから躊躇うように口にした。

「皆に、全世界なんて言わない。私の大事な人のために私は何が出来るのかって聞いてみたかったんだ」

メタトロンは自分を召喚した切欠となった少女に笑った。

「それは神が言う前に君の中に答えがあるはずだ」

「それは神様の言葉?それともメタトロン自身?」

少女の言葉にメタトロンはウンザリした表情をした。

「もちろん私自身の独り言だな」

「ありがとう」

少女の優しい言葉にメタトロンはゆっくりと口にした。

天使として口にしてはいけない言葉。

「私と一緒に来ないか?」

「・・・天国ってこと?」

天使が天命も尽きていない人間の少女でしかも婚約者持ちを誘惑するなんてとんでもない堕落だと思いつつも誘ってみた。

「私の寿命が来たら行ってもいいけどまだあるよね?」

不安になったのか聞いてくる少女に頷く。

たっぷりとあるよと詳しい事は言わないが早死にしない程度にはと告げた。

「じゃあまだ行けない。私を生んでくれた人に会ったとき何も言えないから」

「それに彼を残して行けないからだろう?」

メタトロンはそっと呟いて天使でも失恋するんだなとウンザリした表情だ。

手には神の力で出したマラカス。

、これを振ってくれるかい?」

は渡されたマラカスをはあ?と疑問まじりに振った。

シャカシャカシャカ

「私と過ごした数時間は消える。君も彼も楽しい時間を過ごしただけ覚えているはずだ。幸せに。暇な時は見守っているよ」

メタトロンはそういい残して消えていった。












「あ・・あれ?」

が気がついたのは自分の部屋で何故だか両手にマラカスという不思議な状態。

「何していたんだろう」

覚えているのは火事になりそうだったこと位まで。

御飯がいつもより美味しかったくらいしか思い出せない。

見てみればホグワーツへの荷作りもほぼ終えて記憶にないレポートも数点。

「私って凄い!」

半ば感動して階段をマラカス振りながら降りていくと屍のようにソファーに寝ているスネイプ先生。

テーブルには一人で飲んだのか空いた酒瓶が三本。

「スネイプ先生〜?風邪引きますよ。今日はお布団も干したし自分の寝室に寝てください」

手を引いてふらふらと歩くスネイプに笑いを堪えつつスネイプの部屋へと連れて行く。

ぽふっとほらふかふかでしょうと自慢げに布団を押していたら手を引かれた。

「す・・スネイプせんせ〜・・・」

抱き込まれてるんですけどと思っていたらベッドに押し倒された。

「・・・・・・・寝てるよ」

ちょっとアルコールの匂いのするスネイプ先生の隣でまあいいかと瞼を閉じた。

答えは全て私の中にあるんだと誰かに教えてもらえたような夢を見た。

翌日二日酔いの中なんで自分とが一緒に寝ているんだと記憶の無さにうろたえるスネイプの姿があったという。