世間はクリスマス・イブであった。



日本はイブの方が盛り上がるんですよ、と教えたの言葉通り嫌になるほど街は盛り上がっていた。

右を見れば赤と緑のクリスマスカラー。

左を見ればサンタコスのチラシ配りのお姉さん。

前後左右には恋人同士や家族連れの大混雑。

人混みに酔いそうになりながらも右手で掴んだ服の裾を離すまいと必死だったりする。

一応、日本の地理やら自分の部屋で男の仮宿の住所やら自らの携帯番号を書いたメモを渡してあるし、覚えさせている。

だから最悪迷子になれば警察か近くの人に教えてもらえと言ってあるが不審者として職務質問されれば身元証明できないのでなるたけ避けたい。

異世界人は辛いよと思うのだがとりあえず指の力で距離60センチを死守していたのだが。

「服が伸びる」

あっさりと苦情を言ったスネイプはするりとの腕を自らのそれに絡めた。

なんだこれは。

私はこんな大きなストラップを付けた覚えは無い!

そんな擬似携帯体験かと突っ込みたかったが不毛に過ぎるので止めた。

周りは自分達をどう見ているのか非常に不安だ。

お父さんと娘には少々歳が近すぎる。

恋人同士にしては年齢差があるし。

願わくば不倫カポーや犯罪臭漂う関係に見えないことを切実に願いつつ歩く。

入ったのは地元でも有名なデパートである。

日頃は素通りして同じ階の本屋に行くのだが今日は違う。

メンズコーナーであれでもないこれでもないと見繕い、スネイプに似合うような服をいくつか選ぶ。

できれば安くて着心地の良さそうな服と思っていたのだが運良く不況のお陰でセールが早まっていた。

なのでいつもより多分にお買い得価格での購入に成功してたりした。

デパ地下は戦場ですから避けましょうと言ってデパートを出る。

クリスマスプレゼントを買いなさいと貰った仕送りの一部がスネイプの服に消えたが着た姿を考えるだけで笑みが浮かぶ。

「来た道はこちらではないのかね」

「夕飯の買い物して帰りますから」

両手一杯の荷物だったのだが流石、紳士の国出身である。

スネイプが自分で持つと言って自らの右手で持ちまた腕を組めといわれた。

そんなに人は多くなかったが嫌ではなく、むしろ大歓迎だったので喜んで応じた。

スーパーで二人で買い物をして近くの駅前にある美味しいケーキ屋でケーキを買った頃には日も暮れ始めていた。

「イルミネーション、綺麗ですね」

街路樹に飾られた青い光。

それを隣で見る人がいる幸せに浸りつつ呟く。

「・・・帰るぞ」

「・・・はい」

名残惜しいなと思いながらもそれでも一人だけではない帰路に疲れたはずの足取りが軽かったのは気のせいではないと知っていた。