見上げれば満天の星

凍てつく空気に吐息が白く染まった

肌を撫でる北風に首を竦めながらも

もっと高い星を見たくて

瞬きすら

惜しいと思った









ホグワーツの冬は寒い。

基本的に暖房というものはないのだ。

救いは魔法で隙間風が入ってこないこと。

周りには日本のように。

大都市に広がる高層ビル街なんてない。

過疎の村の明かりよりも真っ暗な世界が広がる。

「だから星が綺麗なんだ」

小学校の時夜間登山なんてものをさせられて。

でも意外と楽しかったのを覚えてる。

目が悪くて満天の星は見えなかったけど。

地上に輝く明かりの一つに自分の家が、帰る場所があるのだと思ったのだ。

ネオンは綺麗で赤やピンクや様々な色があるけれど。

ホグワーツの夜空は点々と白い光を放つ星。

「何万光年って凄いよね・・・」

今、その光る星は消滅しているのかも知れないのに何万光年も前に放った光を今自分が見れているという偶然。

「羨ましいな」

自分は死んだらただの土くれと戻るだけ。

きっと風化して誰の心にも残らないのだと思うと星が羨ましいと思えた。

キラリと最後まで存在を高らかに宣言できるのだから。

じっと視線を向けていれば首が痛くなってローブが汚れるのも構わずに芝生の上に横になる。

仰向けのまま両手を伸ばす。

高く

高く

あの高い宇宙を漂う星へ届くように。

「何をしている」

「うわっ!」

視界にいきなり入った人物に驚いて起き上がる。

真っ黒なローブのせいか近寄った事もわからなかった。

「夜更けに寮を抜け出すとはグリフィンドール十点減点」

「・・・・・・星を見てたんです」

減点かと溜息を吐くにスネイプは鼻で笑った。

「酔狂な事だな。風邪を引いて寝込むのがせきの山だろう」

まったく我輩が見つけなければどうなっていた事やらと文句を言ってるスネイプの足元まであるローブを座ったまま引っ張った。

「先生も一緒に見ませんか?」

その言葉にますます軽蔑したような視線を送る。

「まだ減点されたいのか?我輩にはこのような場所で夜を過ごす趣味はない」

その言葉に掴んだローブをそっと離した。

「そうですか。・・・私もう少ししたら絶対帰りますからもう少し居てもいいですか?」

その言葉にウンザリとした表情のスネイプ。

「星ってきっと誰かの心に残って光り続けるんでしょうね」

少女の言葉に羨望の色を読み取った。

再び横になった少女に真意を問う。

「何が言いたい」

「いえ。ただ、私が今いなくなってもきっと誰の心の中にも残らないんです」

悲しんでくれるといいなあ。

そう呟く少女の瞳から涙が溢れて目尻から流れた。

「な・・・・何を泣く」

「あはは・・・耳に入っちゃいました」

仰向けになっていたせいかな?と恥ずかしそうにごしごしと目尻を拭く少女にどういう意味だと問いただした。

「そうですね。今私が死んだらきっと忘れられると思ったのが悲しかったんですよ」

そういう年頃ですからと笑う少女は酷く儚げに見えた。

「・・・・・・・どこか悪いのかと思ったぞ」

スネイプの言葉にへらりと笑う。

「良くもないですけどねー」

実は私、二十歳まで生きられないそうなんですよ。

その言葉はスネイプを酷く驚かせた。

「今は結構健康なんですけどほらほら生命線が切れてるでしょ?これが原因ですよ、きっと」

左手を差し出したに視線を向けてスネイプが見たもの。

「・・・・っ・・」

「これは・・・何をしているっ!」

見つけたものは左手首のナイフ傷。

「大丈夫です。もうしませんから」

いつか死ぬんですからと笑う少女がわからない。

「おかしなものですよね。ずっと死にたいって馬鹿の一つ覚えで考えててやめられなくって。

でも二十歳までに死ぬって言われた途端世界が綺麗だって事に気がつくなんて」

げんきんですよねと笑うには死の影は見えない。

「世界は・・・・綺麗だったのか?」

「私ずーっと楽になりたいって思っていたんですよ。でもいつか死ぬんだって言われてから気がついて。

ああ、もう無理に死ななくたっていいんだって思ったら急に世界の色が変わったんです」

モノクロからカラーというくらいの衝撃。

膜をいつの間に自分は世界に掛けていたんだろうと後悔した。

「で、ですね。星が一番好きなんです。あんなに綺麗だったらずっと残りますよね?」

記録とかじゃなくて誰かの中でひっそりと息づく思い出の中。

それが羨ましいというにスネイプは言った。

「残る残らないは本人の努力次第だろう」

家族や友人の中に生き続ける人。

そんな人物を知っている自分がいうのだとスネイプは思った。

「二十歳まででも生きれるのならばこれから死ぬまでに何が出来るか考えるほうが生産的だと思うが?」

「先生の口から生産的なんて言葉が出るなんて思っても見ませんでした」

驚きですというに嫌味な笑顔を向けてそろそろ寮へ戻ってもらえるかねミス・と言ったのだった。

















数日後。

スネイプは窮地へ立たされていた。

「だから何で我輩なのだ!」

「いいじゃないですか!?先生が言ったんですよ、本人の努力次第だって」

が言うには誰かの星になりたいかと考えた時に助言をくれたスネイプがうかんだという。

「だから私と付き合ってください!」

先生の星になってあげますからと宣言した少女がスネイプの隣に座るのはその数年後。

後日談として『二十歳までの命』というのは四月一日(エイプリルフール)に

の両親が友人の医者を巻き込んでついた嘘という事実がわかったことをここに明記しておく。