暗い・・・暗い牢獄で差し込む月明かりさえ訪れない場所でただ過ぎ行く時と世界の闇と自らの憎しみばかりを見つめていた。
瞼を閉じれば輝く太陽はかすんでいて暁星のように輝いていた君の笑顔も上手く思い出せない自分が憎らしい。
考えるのはただ一つ。
俺の太陽を殺した裏切り者への復讐だけを。
うんざりするような家に生まれてしまった。
そう思っていた。
何をしても付いて回る家名。
ブラック家の長男というくだらないものを背負わされて苦しかった。
母親は血を誇るばかりで従順な弟を好んだ。
その不満がはっきりと形となったのはグリフィンドールに入ってからだ。
いや、正確に言えばジェームズと出会ってからだ。
グリフィンドールは純血主義的なスリザリンと相対する寮だ。
其処に選ばれた俺は必然的にブラック家の不出来な者と思われた。
傷つかなかったと言えば嘘になる。
だが同時にその寮で俺は太陽を見つけることが出来た。
ジェームズ・ポッター。
性格的に難があると思われていた俺はしかし資質は低くなく成績は悪くなかった。
けれどそんな俺が勝てない者。
考えも頭脳も行動力も。
いつだってその視線は前へと向けられているようであり隣にいることで俺は救われていた。
「リリーと結婚する」
そう言った時の幸せそうな顔を思い出す。
羨ましいと思った。
マグル出身のリリーは聡明で美人で家族に少し問題がなくもなかったけれどきっと二人で暖かい家庭を作るのだろう、そう思った。
時々ジェームズは遠い目をした。
そんな時俺は同じものを見れたらいいと願った。
けれどそれは到底無理な話だった。
当たり前だ。
俺は俺でしかないしジェームズはジェームズという別個の人間なのだから。
ホグワーツ。
いとおしく愚かしい青春の日々。
馬鹿な事もした。
羽目も外した。
俺が俺として生きるものを培ってくれた学び舎。
そして其処には裏切り者もいた。
あの輝かしき日々に潜む一つの汚点。
それが俺の世界を闇へと突き落とした。
何故、俺が俺の太陽を殺さねばならない。
理不尽な想いが身を焼くようだ。
こんな牢獄で手も出せずにいるのにあいつはのうのうと暮らしている。
ハリーは・・・ハリーはジェームズもリリーも奪われて一人になってしまったというのに。
いつか俺もジェームズ達みたいな家庭を持てたらと思っていた。
俺の生まれた家みたいではなく暖かい笑いと愛に満ちた家庭を。
隣にいて笑っていてくれるのがジェームズにはリリーであるように俺の隣で彼女が笑っていてくれたらと。
。
君は今泣いているだろうか。
俺を恨んでいるか。
君の親友のリリーを奪ったとされている男を。
それとも信じていてくれるだろうか。
何年が経っても君が一人で泣くくらいなら誰か他の男と幸せになって欲しいと思う。
それがあの蛇野郎でも構わない。
俺はもう君が笑っていてくれたらそれだけで。
きっと俺は君を幸せにできないから。
此処を出たら裏切り者を殺してしまうだろうから。
俺の太陽を殺した卑劣な裏切り者を引き裂くだろう。
そんな汚れた腕で君を抱きしめることなんて出来ないから。
瞼を閉じれば君の笑顔が浮んで消える。
もうずっと泣いている顔しか思い出せずにいるのはディメンターのせいだろうか。
それとも君が泣いているからだろうか。
獣染みた思考に占めるのは復讐と憎悪がほぼ全てで優しく暖かい思い出は星の瞬きよりも僅かに過ぎない。
だからこそ狂うことがないのだが。
。
君は俺の暁星だ。
こんな暗闇の中でも。
泣いていても。
ここから出たら俺は罪を犯す。
かつて友と呼んだ愚かな裏切り者に手を掛ける。
そんな俺だけど悲しまないで欲しい。
そしてどうか幸せに。
幸せになって。
瞼の裏で暁のようにチカリと星のような笑顔が浮かんで消えた。