「エイプリルフールなど無くなってしまえ」
苦々しい声が地下室に響き渡った。
ホグワーツでもその日は四月馬鹿な嘘が飛び交う。
諸悪の根源はまたしてもグリフィンドールの双子だ。
忌々しいことに悪戯仕掛け人二代目を暗というには馬鹿馬鹿しいほどに名乗り初代を越えようと励んでいる。
が、唯一の救いは奴らよりはまだ甘さがあるということだ。
それでも頭が痛いことには変わりは無いが。
ダンブルドア校長の髭には杖からローブから分厚い本まで収納されているとか
ドラコ・マルフォイはカツラだとかパーシー・ウィーズリーの眼鏡の下は数字の3だとか。
果てはスネイプが女生徒を狙っているとか。
その噂のお陰で授業で生徒に当てる度にその生徒が女生徒だった場合は大騒ぎだ。
当てられた生徒はぶるぶる震えたり泣きそうだったりで周りは興味津々で授業にはならなかった。
苦々しい思いはその嘘が嘘ではないからにほかならない。
真っ青な顔をして俯いていた少女はきっと嘘を信じ自分に指名されるのを恐がったに違いない。
嫌われている事は承知していたがこうもはっきりと態度を見せ付けられて傷つかなかったと言えば嘘になる。
正直これほどまで彼女に心奪われているとは思いもしなかった。
エイプリルフールを呪いながらスネイプはレポート済用紙の端にサインした。
嘘に紛れてというのは卑怯以外の何者でもないけれど。
突然流れた妙な噂。
なんでもホグワーツの魔法薬学担当教授であるセブルス・スネイプが思いを寄せている相手がいるらしいという噂だ。
それも女生徒相手だ。
恐怖の的ともいう彼の心を射止めてしまった不幸な生徒は誰だと皆興味津々であったがは別の意味で落ち着かなかった。
噂を知らない訳ではないだろうが否定するわけでもなく女生徒にも指名する彼を見れば当てられた友人達の中に
彼の想い人がいるのだろうかと胸がチクチクと痛くなる。
俯いてノートだけをじっと見つめていた彼女はスネイプの視線には気づかなかった。
「失敗しても嘘って事で済ませばいいよね」
地下室へと向かう足取りは決して軽くはない。
けれど思いを伝えないままに失恋はしたくなくて目の前に現れた扉に手を伸ばした。
コンコン
「空いている」
中からの声に一つ息を吸って中へ足を踏み入れればレポートを親の敵のように睨みつけているスネイプ先生の姿を見つけた。
「あ、あの!」
視線が交わった瞬間驚いた表情をしたスネイプには戸惑い言葉を飲み込んだ。
視線を上げたら悩みの源とも言える少女、・が居たので驚いた。
質問でもあるのかと思ったが教科書の類は持ってないようで違うらしいと推測する。
「何か用かね」
声を掛ければびくりと身体を竦められて嫌われたものだと自嘲の笑みが漏れた。
「いえ、あの・・・」
俯きがちだった顔が真っ直ぐに向けられて何かと見つめ返せばうっすらと頬を染めた彼女の口から信じられない言葉が聞こえた。
「好き・・・好きなんです」
「・・・くだらない嘘は止めたまえ。ミス・」
うっかり本気にしそうになったが今日はエイプリルフールの四月一日だ。
嘘を吐くのを許される日としても悪戯けが過ぎると苦々しく思ったのが顔に出たようだ。
少女は後悔しているようで顔色が優れない。
「気が済んだら帰りなさい」
レポートへ視線を落として退出を待つが気配は消えることなく其処に在る。
「聞こえなかったのかね」
視線を向けずに問えば震えた声が鼓膜を叩く。
「・・・どうすれば嘘じゃないって信じて貰えますか」
嘘ではない。
そんな都合のいい言葉を信じられるものかと黙っていればは続けて言った。
「失恋しても嘘に誤魔化せるって思って告白した私が悪いのはわかってます。でも好きなんです」
迷いの無い言葉を放つ彼女を信じたいと思う愚かさを振り切れない。
「其処まで嘘を吐き続けるか。覚悟は出来ているのかね」
近付いて顔を近づけて問う。
この距離で愛の言葉を囁けばきっと彼女は恐ろしさで逃げ出すだろうと意地の悪い考えだった。
「・・・大好きです」
「!」
一瞬だけ触れて離れた暖かい感触に止まった思考。
その間に少女は逃げてしまっていた。
「明日は覚悟しておくのだな」
本気でなくとも留めていた想いを解き放ったのは彼女なのだから。
スネイプはそう心を決めて先程までとはうって変わった上機嫌でレポートの束を片付けたのだった。