「これが例のものです」
手渡したものの交換に貰ったもの。
それを手に入れた少女は顔色を変えた。
「そんなこと・・・っ!」
ばたばたと慌しく走り去った少女の背中を彼は温かい眼差しで見守っていた。
「ふう」
大鍋の中身をゴブレットと瓶に詰め替えて一息をつく。
授業が終わってからずっと火にかけていた大鍋を下ろして紅茶をカップに注ぐ。
カチャリ
紅茶の温もりで気がつかなかった疲れを癒しているスネイプは廊下の騒音に眉を顰めた。
ばたばたばた
バタン!
「スネイプ先生っ!」
飛び込んでいた少女は抱えていた荷物ごと大鍋へ突っ込んだ。
ガシャン!
「グリフィンドール10点減点。貴様は何度ノックをしろと言えば理解するんだ」
「あいたたた・・・ってあああ!」
全く聞いてない様子の少女に深い溜息をつく。
わたわたと箱のようなモノの中身を確認してる。
「聞いているのかね」
深い深い溜息つきのスネイプには思い出したというように瞳を向けた。
「先生、これ受け取ってください」
箱を差し出されて受け取ることを躊躇う。
今までにされた数々を走馬灯のように思い出す。
服のボタンが全て取られていたとかローブに変なにおいが付けられていたとか。
部屋の中に食虫植物が生息していたとか。
思い出した数々に思い出すのではなかったと後悔する。
ローブの部分に植物の液で穴が開いてハートでピンクの布で塞がれたことを思い出したのだ。
「いらん。さっさとそれを持って此処から出て行け」
冷たい言葉は常のことで。
それでもこの少女は壁を作る自分に近づいてくるのだ。
「駄目です。これはスネイプ先生の誕生日ケーキなんですから」
お誕生日おめでとうございますvv
にこりと笑顔で差し出されるとうろたえてしまう。
机の傍に置いておいた日付を見れば確かに自分の誕生日で。
「我輩がこんな年になって自分の誕生日を祝うと思っていたのかね」
受け取ってしまった箱を睨みつけながら言えばそれすらさらりとかわされる。
「いいえ。でも私がお祝いしたかったんです」
箱を机の上に置きソファーへ腰を下ろす。
この少女を返すにはこの箱の中身を僅かでも口に入れなければならないのだろうと覚悟を決めて。
「じゃーん!」
嬉しげに開けた箱からは見た目は普通の手作りケーキ。
「・・・・・お前が作ったのか?」
何かでつついて見たかったがそういうわけにも行かなかった。
「そうですよ。校長先生にレモンキャンディと交換して誕生日のこと聞いたんです」
何でも校長は日本のキャンディが気に入ったらしくにスネイプの情報を渡す代わりといってはなんだが
C1000のレモンキャンディを手に入れていたらしい。
「あの・・・・・・っ!」
上司であり魔法界の大先輩を罵るスネイプの言葉を綺麗に無視してはケーキを切り分けた。
「はい、どうぞ」
スネイプの目の前に差し出されたのは綺麗な切り口の見える美味しそうなケーキ。
「ああ・・・・」
まじまじと見つめていたのだがキラキラ見つめるに仕方ないと腹をくくる。
パクリ
「・・・・・・・美味い」
「本当ですか!?」
口の中に入った時のクリームの滑らかさとかスポンジの口当たりとか甘さも控えめでスネイプ好みにするためか僅かに洋酒の味がする。
意外だと紅茶を一口啜る。
「・・・・・・何を入れた」
「え?」
口の中にケーキにはありえない苦味と頭の芯が麻痺しそうな甘い匂いがする。
「普通のケーキの材料ですよ?」
何かいれたかなと首を傾げるに怒鳴りつける。
「この味と香りはそんなモノではない。後に引く甘い味は薬品だろう!」
薬品?という風に考え込んでいたはああ、と声を上げた。
「確かもらったバニラエッセンス入れたんです」
これです。と差し出された瓶のラベルを見てスネイプは眉を顰める。
「・・・・・これは誰から」
「え?フレッドとジョージからですけど」
スネイプの指先はラベルの端を抓むとペリと音を立てて剥がした。
「やられた」
ラベルの下から現れたのは催淫剤。
「このラベルが本当なら早く出て行け」
「何でですか?」
何もわかっていない少女に薬の廻り始めた身体を意識しながら応える。
「これはその気にさせる薬だ。身の安全は保障できん。かなりな量を使っているようだからな」
だから部屋からさっさと出て行けと告げればにこりと笑って答が返ってきた。
「安全じゃない方が嬉しいって言えばいさせてくれます?」
私もスネイプ先生が欲しいです。
ゆらゆら揺れる眼差しにチッと舌打ちする。
「味見をしたのか」
「勿論です」
先生に上げるものですからと笑うはとても綺麗に見えた。
「後悔しても知らんぞ」
鍵をカチャリと掛けるて振り向く。
これが最後通告。
「後悔なんて私はしません」
大好きです先生。
耳元で優しく囁かれた言葉はケーキよりもずっと甘かった。
「Happy birthday」
それからスネイプが薬が切れた後も少女を受け入れるようになったのは言うまでもないことである。