「今日はなんか風が違うな」

「そうか?俺にはわかんないけどなー」

親友に呟きを聞かれて肩をすくめた。

「シリウスにはわからないさ。占い学も寝てばかりだろ」

「ジェームズが正しい」

苦笑混じりのリーマスの言葉に2対1では分が悪いとシリウスは近くにいたピーターを引き寄せた。

「ピーターは俺の味方だよなー」

じゃれてる彼らを見て笑っているのに心は騒めいて落ち着かない。

「ちょっと飛んでくる」

一言残して箒で空に舞い上がった。

「なんかいつもと違うんだよな」

風が強いわけでもない。

何かが違うだけだ。

「わかった・・・鳥がいないんだ・・・な、なんだっ!」

びゅううううう

いきなりの突風。

木の葉のように箒は舞い上がったが振り落とされずにすんだのはジェームズの箒の腕前が一級だったのが幸いしたのだろう。

「落ちるぅぅぅー」

ひゅんっ

一息ついたジェームズの横を落ちていったのは人間だった。

慌てて箒を下降させる。

あと少し・・・。

ドサッ

「・・・痛っ」

地面に叩きつけられる寸前に手首を掴むことができたがバランスを崩して地面に転がった。

一応受け身は取ったがと腕の中の人物を覗き込んで暫らく硬直した。

それは可愛い女の子だった。

「あ、大丈夫だった?」

自分と同じくらいか少し年下の少女に問い掛けた。

「い・・・生きてる」

信じられないと言った口調に少しだけ笑う。

「うん。もうちょっとでぺちゃんこだったけどね」

その言葉を口にしてしまったと思うが後の祭り。

ぶわっと大きな黒い瞳から涙が溢れた。

「ごめっ・・・な、何か気に障ること言った?」

同じ年のリリー・エヴァンスに散々口が悪いだのデリカシーがないだの言われているため心配になる。

「い・・生きててよかったぁー」

ボロボロと大粒の涙を零している少女に自分が泣かした理由ではないと知りほっとしてそっと頭を撫でてやったのだった。

「空からどうして落ちることになったんだい?」

「私にもさっぱりわからないの」

本を読んでたはずなのだけどという彼女が何処から来たのかさえわからず取り敢えず校長に会いにいこうと

少し離れた地面に転がってる箒を跨いだ。

「後ろに乗って」

「え・・・それ箒じゃない」

躊躇う彼女にマグルかもと予感が過る。

「いいから」

「わかった。これでいいの?」

躊躇いがちに腰に回された腕は箒が高度を増すごとに強くしがみついてくる。

「恐い?」

「凄い!貴方、魔法使いなのね。箒で空を飛ぶのは恐いけど一度乗ってみたかったの!」

大喜びしながらもしっかり回された腕がなんでか嬉しくて箒のスピードを上げた。

いつのまにかいつもと同じく鳥がはばたき風がもどっていることにジェームズは気付かなかった。

「ミス・は多分旅人じゃな」

ダンブルドアはにこにこと笑いながら自己紹介の後に驚いたに言った。

「ダンブルドア先生、私はいつ帰れますか?」

「わからんのじゃがまあ長くても一ヵ月くらいかの?」

「校長先生、をグリフィンドールで歓迎してはダメでしょうか?」

行くところもないようですしといえばあっさりと了解が出た。

「ホグワーツには昔は紛れた旅人を客人ともてなしたようじゃし。がよければジェームズ、君に頼もうかの」

どうするかねと問われた少女はジェームズを見てよろしくねとほほえんだ。

「こっちがシリウスでこっちがリーマス」

「よろしくなー」

「よろしく」

簡単に友人をに紹介する。

「シリウスはタラシだから気を付けること。リーマスは甘いもの好きだからチョコが食べたくなったら言うといいよ」

ひでーぞ親友と喚いてるシリウスと苦笑してるリーマスを余所に紹介を続けた。

「でこっちがピーター」

「・・・よろしく」

は僅かに引きつらせた笑顔でピーターにあいさつした。

「ジェームズ。ねえ、彼は?」

薬草学の時に見学という形で参加することになったが興味を示したのはスリザリンの生徒だった。

「彼はセブルス・スネイプだよ」

の頬が少し赤くなったのをジェームズは見逃さなかった。

「ねえ!スネイプ・・・君、暇があればなんだけど私と話してくれない?」

薬草学が終わって放課後になるチャイムの後に扉から出ていく背中を追って走った

「・・・僕がなぜグリフィンドールの連中と仲良くしなければならないんだ」

の頬はますます赤くなった。

「あの、その、どうしてもダメ?」

セブルスの頬も赤くなって満更でもなさそうだ。

「スニベルス!お前、を毒牙にかけんじゃねーよ!」

そんな雰囲気を壊したのはシリウスだった。

「別に貴様には関係ないだろうブラック。僕は生憎相手ができるほど暇ではない」

立ち去ったのを満足気に見送るシリウスと対照的なのがだった。

「シリウス・・・どうしてそんなひどい事いうの」

「いや、だってあの根暗野郎・・・」

女の子に涙目で睨まれてはシリウスとて負けが決まってる。

「シリウスなんて大嫌い!」

駆け出したを見送ってジェームズは大嫌いの言葉に崩れ落ちたシリウスを溜息混じりで介抱したのだった。

「なーはスネイプの何処がいいんだろうなー」

俺の方が断然男前なのになと腐るシリウスに少しだけ腹が立つ。

「僕、ちょっと飛んでくる」

またかよーなんて言葉を背にして箒で空へと舞い上がった。

!」

セブルスが女の子と笑っているのなんて初めて見た。

何故だか胸がもやもやする。

「ジェームズ〜!」

木陰に座って手を振るの傍に降りるとセブルスは立ち上がった。

「僕は課題がある。・・・またな」

「うん、セブルスまたね」

セブルス。

いつからファーストネームで呼ぶほど仲良くかったのか。

、箒で寄り道して帰ろうか」

「うん」

もやもやを吹き飛ばそうと軽いを後ろに乗せて速度全開で空を飛んだ。

「ジェームズはを好きなんじゃないの?」

リーマスは肩を竦めて言った。

「リーマス、君は違う?」

ジェームズの問いに多分ねとリーマスは返事した。

「僕はが好きだよ。可愛いし優しいし。でもドキドキしないし他のジェームズやシリウスやセブルスと話していても苦しくならない」

君は?と言われて納得する。

と他の男が話すのが僕は嫌だったのか」

呟いてみてぴたりと当てはまる。

まるで欠けてたパズルのピースみたいに。

「僕、ちょっと行ってくる」

を中庭に見かけたというピーターの言葉を受けて寮を飛び出した。

・・・」

彼女を目の前にして何も言えなくなる。

「何?ジェームズ」

セブルスから借りたという本を片手にはジェームズの言葉を待っていた。

「僕はが好きだよ」

まるでクィデッチが好きだとか朝のパンプキンパイが好きだみたいにあっさりと

言葉がこぼれた。

「え・・・それってどういう・・・」

戸惑いを浮かべる彼女にもう一度言葉を紡ぐ。

「僕はが好きなんだ」

恥ずかしいけれど見つめたら真っ赤になってでも必死で言葉を返してくれた。

「あ、ありがとう。ジェームズの気持ちは・・・凄く嬉しい」

続く言葉は容易に想像できてた言葉。

「でも私はその・・・セブルスが好き・・なの」

ごめんねと泣きそうな表情。

僕が見たかったのは君の笑顔だったのに。

「泣かないで。頼むからさ」

本当なら泣くのは僕だよとふざけて言えば益々泣かれてしまってデリカシーがない自分が恨めしかった。

その日は突然来た。

が来て二週間と四日目。

「また鳥がいない」

なんだかザワザワとして落ち着かない。

授業も身が入らず何度か注意されてしまった。

「帰っちゃうんだね」

「うん、私の生きる場所は向こうだから」

表れた場所に行きなさいと校長から言われを連れて初めて会った場所に連れてきた。

が好きだよ」

どんなに離れても。

ゆっくり頭を撫でる。

「ジェームズありがとう」

泣き笑いの表情を浮かべた彼女は突風に巻かれて、いつのまにか消え去っていた。

「ジェームズ!何落ち込んでんだ?」

がいないと淋しいなって思ってさ」

?お前好きなやつでもできたのかよ?」

シリウスの言葉にだと食って掛かった。

「覚えてないのか!」

「なんのことだよ?」

リーマスも覚えてないらしい。

ジェームズはきっとあの場所にいるはずの彼の元へ走った。

「セブルス!」

「ポッター、貴様にいつ僕が名を呼んでいいと許可した?」

不機嫌な表情。

彼女が隣にいた時は少しだけ柔らかく笑っていたのが嘘みたいだ。

「君は覚えてるだろう」

「なんのことだ」

・・・のことだよ」

震える声が情けないと思うけど不安は消せない。

「誰だそれは」

セブルスの言葉にふらりとその場を後にした。

「夢、だったのかなあ」

こんなにも彼女の笑顔や温もりを思い出せるのに。

「皆が忘れても僕は忘れない」

少しの間だけホグワーツに来た優しくて可愛い少女を。

「僕は君が好きだよ」

ジェームズの声は誰もいない丘に静かに落ちた。


















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あとがき
異世界トリップヒロインでジェームズ夢。ヒロインはハリポタファンです。
親世代は好きだけどジェームズ夢は無理だと心から思いました。