サヨナラ

その言葉がいえなかった

喉の奥に張り付いて

今でも何処かで詰まってる













「次は箒だから急がなきゃ!!」

慌てる子供達にくすりと微笑む。

懐かしさについつい思い出す遠く懐かしい日々。

こうしてホグワーツの廊下を歩く事なんてないと思っていたのに。

気まぐれな階段をゆっくりと地下室へ向かって歩いてく。

姿現ししたら楽なのだがホグワーツではできないし懐かしい場所だったから歩くのもいいかと思ったのだ。

現れた扉は昔と変わらず大きく古く人を寄せ付けない威厳に満ちている。

「彼に似てる」

彼、とはその部屋の持ち主で多分今はレポートの採点か次の授業の準備をしているのだろう。

コンコン

ノックを二回すると中から声が聞こえた。

「開いている」

懐かしい声にゆっくりと扉を開いた。

「お久しぶりです、スネイプ教授」

その声に本棚に向かっていたスネイプが視線を向けた。

「ミス・。今日来るとは聞いてなかったが?」

確か連絡はなかったがと告げられ苦笑する。

「すいません。連絡しなかったんです」

その言葉に訝しげに眉を顰めながらも部屋の主であるセブルス・スネイプは腰掛けるようにすすめた。

「座りたまえ」

目の前に杖の一振りで用意されたティーセット。

「グリフィンドールの卒業生がここでお茶を頂く事なんて少ないでしょうね」

すすめられたソファーに腰を下ろしながら笑う。

「相変わらずスリザリン贔屓なんですか?」

フンと嘲笑うかのように鼻を鳴らしてスネイプは答えた。

「グリフィンドールの者とは基本的にあわないだけだ」

その言葉にちくりと痛みを感じつつもは笑っていった。

「変わってませんね、先生は」

そう彼は全く変わってなかった。

確かに眉間の皺などは前よりも深くなっているようだしこの部屋も前に比べて蔵書が増えたように思える。

しかしそれは表面的な部分のほんの一部分だけで本質といって良いモノは全く変わってない。

「お前は綺麗になったな」

言われた言葉に驚いた。

スネイプ教授はお世辞をいうような人間ではなかったし生徒の美醜をことさら気にする人物でもなかった。

「そんなに我輩が褒めたのが意外かね」

くっくっと低く笑われ動揺のために頬が染まるのを感じた。

「だっ・・だってスネイプ先生にそんなことを言われると思っても・・みませんでした」

動揺を鎮めようとローブの腰の辺りを握り締めた。

クシャリ

何か軽いものがつぶれる感触と音と共にここ、ホグワーツまで来た理由を思い出す。

「あっ!あの!この話なんですが」

が差し出した手紙はスネイプには見覚えのあるものだった。

それもそのはず彼がつい先日出したものだったのだから。

「ああ。考えてみてくれたかね」

その言葉にはスネイプの闇を塗りこめたような瞳を見据えた。

「はい。・・・いいえ。私は返事をしに来ました。そして言わなければいけない事も」

そう。

いえなかった言葉。

いわなければならなかった言葉を。

自分の何処かで燻っている想いと共に吐き出したかった。

スネイプの瞳がを写していた。

「私は―――助手にはふさわしくありません」

その言葉にスネイプの瞳に感情が走った。

何か言われる前にとが矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

「先生の提案は嬉しかったです。助手に推薦していただいて誇らしくありました。ただ・・」

「ただ?」

先を促す言葉にそっと口をひらいた。

「私は先生に言わなければいけませんでした。・・・・さよなら。って」

別れの言葉。

いえなかった区切りの言葉。

あんなにも練習して。

涙が涸れ果てたはずの後だったのに。

喉の奥に張り付いたままずっと燻っていた言葉と想い。

はあ。

ひとつ深呼吸してもう一度瞳を見つめる。

「すいません。それだけです。あーすっきりした!!」

じゃあ用事も済んだし帰りますねと立ち上がったはソファーに押し倒されていた。

「いい加減にしろ!」

「は?」

黒い瞳がとても近い。

瞳の中にある感情は怒りと困惑だろうか。

「黙って聞いていればさよならだと!勝手に区切りをつけてすっきりしただとふざけるな!!」

ドンと肩を両手で押さえられた。

「我輩がっ!我輩がどんな気持ちでお前を待ったかわからないというのかっ!!」

搾り出すような言葉に心が震える。

待っていたと彼は今言ったのだろうか?

「スネイプ先生?」

「何も言うな」

ふいに近づけられた端正な顔。

瞼を閉じれば唇に触れる温かい感触。

「・・・・っふ・・」

どれくらい経ったかわからないがスネイプが唇を離したときにははただ驚きと混乱と恥ずかしさでいっぱいだった。

「で、考え直したかね」

折角入れてくれた紅茶を一口飲んで落ち着くとそう切り出された。

「えっと・・・期待してもいいんですか?」

がおずおずと尋ねる。

今にもスネイプの気が変わるとこれが夢の中だと恐れるかのように。

「期待の定義がどんなものかは知らんが我輩は気に入らない者を周りに置かん」

その言葉に少しだけ嬉しそうに微笑んだにニヤリと笑った。

「ついでに付け加えるなら惚れてもない女に口付けするほど酔狂でもないぞ」

どうする?

答えは言えなかった言葉を忘れ去ったかのようにするりと出た。

「助手にならせていただきます」

その言葉に満足げに微笑むスネイプの姿を目撃できたのはだけだった。















「助手を辞めたくなったらいつでも言え」

「今でもですか?」

「我輩の所へ永久就職することになるがな」