サヨナラ

その言葉はいらない

聞きたくもない

それが想う相手ならなおさら













彼はその部屋の持ち主で多分今はレポートの採点か次の授業の準備をしていた。

コンコン

ノックが聞こえた。

「開いている」

そう答えるとゆっくりと扉は開かれた。

「お久しぶりです、スネイプ教授」

その声に本棚に向かっていたスネイプは視線を向けた。

「ミス・。今日来るとは聞いてなかったが?」

確か連絡はなかったがと思ったままを言えば彼女は苦笑した。

「すいません。連絡しなかったんです」

その言葉に眉を顰めながらも教え子であるに腰掛けるようにすすめた。

「座りたまえ」

目の前に杖の一振りで用意したティーセット。

「グリフィンドールの卒業生がここでお茶を頂く事なんて少ないでしょうね」

すすめたソファーに腰を下ろしながら笑うに目を奪われる。

「相変わらずスリザリン贔屓なんですか?」

フンと嘲笑うかのように鼻を鳴らしてスネイプは答えた。

「グリフィンドールの者とは基本的にあわないだけだ」

は笑っていった。

「変わってませんね、先生は」

そういったは昔以上に美しくなっていた。

もともと笑顔が愛らしい娘だったのが今では大人の女性としてスネイプの前に立っている。

しかしそれは表面的な部分のほんの一部分だけで本質といって良いモノは全く変わってない。

「お前は綺麗になったな」

世辞などではなく本当にそう思った。。

驚いた様子のに笑いが漏れる。

「そんなに我輩が褒めたのが意外かね」

くっくっと低く笑うと動揺のために頬が染まることに気がつく。

「だっ・・だってスネイプ先生にそんなことを言われると思っても・・みませんでした」

動揺を鎮めようとローブの腰の辺りを握り締める癖はまだ抜けてないらしい。

クシャリ

何か軽いものがつぶれる音がした。

「あっ!あの!この話なんですが」

がポケットから差し出した手紙はスネイプには見覚えのあるものだった。

それもそのはず彼がつい先日出したものだったのだから。

「ああ。考えてみてくれたかね」

その言葉にはスネイプの闇を塗りこめたような瞳を見据えた。

「はい。・・・いいえ。私は返事をしに来ました。そして言わなければいけない事も」

言えなかった言葉とは何だろうと思った。

返事はYES以外は聞くつもりはなかったが気になった。

の思いつめたような表情がことさら。

嫌な予感がした。

の瞳がスネイプを写していた。

「私は―――助手にはふさわしくありません」

その言葉に感情が走った。

何故だという問い、理不尽な怒り、大量の失望。

何か言われる前にと思ったのかは矢継ぎ早に言葉を紡いだ。

「先生の提案は嬉しかったです。助手に推薦していただいて誇らしくありました。ただ・・」

「ただ?」

先を促す言葉が口をついた。

「私は先生に言わなければいけませんでした。・・・・さよなら。って」

別れの言葉。

いらない。

欲しくない言葉。

想う相手からのいきなりの言葉に思考が凍結する。。

どこか身体の奥深くで何かがはじけようとしていた。。

はあ。

深呼吸が聞こえた。

その後の言葉も。

「すいません。それだけです。あーすっきりした!!」

じゃあ用事も済んだし帰りますねと立ち上がったをソファーに押し倒していた。

「いい加減にしろ!」

どなりつけていた。

「は?」

の瞳がとても近い。

瞳の中にある感情は驚きと困惑だろうか。

「黙って聞いていればさよならだと!勝手に区切りをつけてすっきりしただとふざけるな!!」

ドンと肩を両手で押さえた。

「我輩がっ!我輩がどんな気持ちでお前を待ったかわからないというのかっ!!」

搾り出すようにしないと言葉が出てこない。

もっと言いたい事があったはずなのに今はただ彼女に対する怒りと理不尽な感情が荒れ狂っていた。

「スネイプ先生?」

「何も言うな」

そっと髪をかきあげた。

瞼を閉じれば長い睫毛が影を落とした。

唇に触れる温かい感触。

「・・・・っふ・・」

初めてのとの口付けは衝動的なものから深いものへと変化していった。

最初は怒りとこれ以上否定の言葉を聞きたくなくて口付けたのだが甘やかな口付けに受け入れてくれた事が嬉しかった。

ゆっくりと背に廻された腕を感じて怒りはゆっくりと解けていった。

どれくらい経ったかわからないがスネイプが唇を離したときにはは混乱しているようだった。

「で、考え直したかね」

入れた紅茶を一口飲んで落ち着いたかと切り出した。

「えっと・・・期待してもいいんですか?」

が心配そうに尋ねてくる。

今にもスネイプの気が変わるとこれが夢の中だと恐れるかのように。

「期待の定義がどんなものかは知らんが我輩は気に入らない者を周りに置かん」

その言葉に少しだけ嬉しそうに微笑んだがいとおしい。

少しだけ苛めたくなってニヤリと笑った。

「ついでに付け加えるなら惚れてもない女に口付けするほど酔狂でもないぞ」

どうする?

またNOといわれるかと内心不安だったのだが。

「助手にならせていただきます」

その言葉に満足げに微笑むスネイプの姿を目撃できたのはだけだった。















「助手を辞めたくなったらいつでも言え」

「今でもですか?」

「我輩の所へ永久就職することになるがな」

「今はイイです」

「・・・・・そうか」

今は、と付け足したに苦笑しながら地下室の主は頷いたのだった。