沢山のラッピング
色とりどりのリボンに包装紙
詰まっているのは溢れ出す気持ち
踏み出すには一歩分の勇気が必要
「バレンタインはどうするの?」
恋人がいる友人に聞くとカードを送るという答え。
「カード?チョコレートは?」
「チョコレート?花束なら貰うけど」
噛みあわない内容に詳しく聞けばイギリスではバレンタインはチョコレートを送る日、ではないようである。
「日本のお菓子会社の陰謀って本当だったんだ」
騙されていたと思いつつ用意しているチョコレートをどうしようかと迷いが生じる。
ミルクチョコとかホワイトチョコとかビターとか。
どうしてもイギリスのチョコレイトは納得できなくて日本から送ってもらったチョコレートで作った甘さ控えめのチョコレート。
トリュフには少しブランデーを加えて仕上げた大人の味。
ラッピングは懲りすぎないように注意して色もピンクとか赤とかの華やかなものではなく深い青の包装紙。
リボンは銀。
「カードつけた方がいいかな?」
「つけた方がいいわよ、私いくつか余ったのがあるから上げるわ」
友人の勧めでいくつか貰ったものの中から真っ白のカードを選ぶ。
「あとね、書くときはこの魔法を使うと良いわよ」
インクがキラキラ光るのだという魔法を教えてもらってかけてからラッピングのように深い青のインクで文字を綴る。
「・・・・・・できた」
たった一文だけど書いた後は手のひらに緊張のためか汗をかいていた。
「名前はいいの?」
覗き込んだ友人から言われて頷いた。
「彼氏いつの間にできたの?」
「えっ!」
「だって名前書かなくってもわかる相手なんでしょう?」
なんでも名前がなくても贈った相手がわかる贈り物は素敵、らしい。
友人に言われて慌てて誤魔化した。
あの人にわかるわけなんてない。
だってただの片思い。
「あ、私行かなくちゃ」
時計を見て出て行った友人を羨ましく思いながらリボンにカードを挟んだのだった。
「誰もいないよね」
辺りを見渡して廊下に誰もいないことを確認する。
コンコン
勇気を出してノックをするが返事はなかった。
「失礼します」
こっそり中に入ると主は出かけているようで不在だった。
ローブの中に隠し持っていたチョコレートを置くとそそくさと扉に向かった。
告白などできそうになどないから良かったかもと思っていたのだけれど。
カチャリ
「・・・・スネイプ先生」
「ミス・。勝手に我輩の部屋に入って何をしていたのかね」
軽蔑するような眼差しに何も言えなくなる。
告白したってきっと同じ眼で見られておしまいだろう。
「いえ、別に」
嘘をついた。
「ほう。・・・・其処の机に乗っているのは何かね?」
我輩が部屋を出るときにはなかったように思えるがと手にとって不審物のように見られてる。
「誰かが持ってきたんじゃないですか?」
「ふむ。カードにも名前はない、我輩にはこのようなモノを貰う云われはない」
捨ててしまおうかという言葉に否定する。
「駄目ですっ!」
「何故に駄目なのかね」
「だってきっとスネイプ先生を好きな子が想いを込めて贈ったに違いないです」
その言葉にふんと鼻で笑われる。
「名前も書かずにかね」
「書けなかったんですよ」
「我輩は無記名の投書等は信用しないことにしておってな」
「そうですか・・・」
やはりカードなんてつけるのではなかったと思う。
「だがこのセンスは悪くない、ミス・」
「え・・・・」
言われた言葉に視線を上げるとにやりと笑うスネイプ先生。
「我輩が推理するにこのセンスは我輩に好まれたいと思う者が悩んで買った物と思われる。
このインクにかかっている魔法は今流行りのものだから生徒に間違いなかろう。
中身はカカオの匂いがするから多分チョコレートであろう。
バレンタインにチョコレートを男性に贈る習慣があるのは日本だけだ。
そしてなにより・・・・・この筆跡に覚えがあるのだよ」
嘘はやめたまえと笑うスネイプ先生に真っ赤になってしまう。
「・・・・ごめんなさい」
もう駄目だと思った。
この想いは告げる前から箱に閉じ込めて深く遠くに捨てなきゃいけないのだろう。
忘却という時の流れに。
「嘘をついたことに対する謝罪は受け取ろう。で、ミス・は我輩に何の用があったか聞いても構わないかね」
嬲るような言葉に溢れそうな涙を押し留めて呟く。
「スネイプ先生にチョコレートを渡しに来ました」
「チョコレートは媚薬という効果もあることは知っているかね」
その言葉に戸惑う。
「カードの言葉を我輩に贈ってはくれないのかね」
「・・・・・・・・好きです」
カードに書いたのはたった一言。
想いの全てを一言に込めて告げた。
ぎゅっと眼を瞑る。
断られるか笑われるか怒られるか。
答えはそのどれでもなかった。
「やっと言ったな」
そうスネイプ先生は言って苦笑を浮べた。
「・・・・返事は貰えないんですか?」
柔らかい表情に僅かな希望が芽生える。
「その気持ちは有難く頂いておこう」
我輩からの気持ちも受け取って頂けるかねと差し出されたのは小さな花束。
「私に、ですか?」
ああと頷くスネイプ先生にありがとうございますと受け取った。
季節外れの匂いスミレはとてもいい香りがした。
「我輩も好きだ、」
少女がスネイプの不在の理由が自分かを探しに出ていたと知ったのはそれから一ヵ月後のホワイトデー。
バレンタインデーにチョコレートを贈る事がホグワーツで大流行するのは次の年からである。