カウントダウンを小さく刻み続ける時計
カチカチカチと規則正しく刻んでいくそれを見ていて思い立つ。
「どこ行くのー」
「ちょっとー」
気にしないで、と言えば友人はそんな無茶なという表情をしたが気付かない振りをした。
わらわらと本来ならば終身時間であるのだが談話室に今日ばかりは人の気配が絶えることは無い。
一年に一度の年越しの瞬間を一人で過ごす者は生憎とこのホグワーツにはいなさそうだ。
そう思うのはこれから向かう先であるあの人の対応がわからなかったから。
追い返されれば彼と私が一人で年越しを向かえた人物となるだろうなと思いつつ歩調は緩むことはなくむしろスピードを増していた。
ひやりと冷気の満ちた地下へと辿り着けば扉から少しだけ暖かそうな灯りが見えて飛び込んだ。
「お邪魔しますっ!・・・って時計は・・・」
カチカチと動く秒針を見れば僅かにまだ猶予はある。
「いきなり・・・何の用かねミス・」
「えと・・・あ、先生ハッピーニューイヤー!!」
カチリと合さった瞬間にカーンカーンと新年の始まりを告げる鐘が鳴り響いた。
シンデレラの帰宅時間。
そして新年の始まりの時間だ。
「それを言うために来たのかね」
呆れたような口ぶりにそうですよと笑えば寄せられた眉間の皺がますます深まった。
「用が済んだのならさっさと帰りたまえ」
「はい、失礼しました」
ちょっと無理矢理だったけれど新年一番最初に居ることが出来たので満足だと扉から出ようとして足を止めた。
「先生は何処かにお出かけですか?」
ローブを羽織って後ろから出てきたスネイプに問う。
「見回りだ。付いて来たまえ」
これは送ってくれると自惚れても良いのだろうかと悩みつつも並んで歩くことが出来たことが嬉しくて堪らない。
あっという間に寮の前についてしまったのが残念だったが初夢はいいものが見れそうだなと扉に手を掛けた。
「 」
「はい?」
聞こえた言葉に振り向けばさっさと行かないかと言った表情のスネイプが居た。
「あ、おやすみなさい。スネイプ先生」
「ああ」
踵を返した背中を見つめて何故だかさっきの言葉は幻聴ではないと確信することが出来た。
「ハッピーニューイヤー、です」
貴方にとって良い年でありますように。
そっと願い暖かい談話室へと足を向けた。
聞こえたのは彼からの祝う言葉。
それは小さいけれどしっかりと少女に届き暖かな光を灯したのだった。