月のない夜は星達が主役となる。
闇夜をチカチカと瞬く星は遠く、強く、光る。
肌寒い空気の中で生死のやりとりがなされていた。
闇に慣れた視界は相手の居場所を微かな星の灯りだけで察知する。
ぬるりと手に握る杖が滑りそうになる。
汗のせいだ。
寒さと緊張から指にはもう杖を握りしめる余裕さえ失われつつあった。
闇を切り裂くような光が放たれて身体を突き抜けた。
どさりと自分のものではないような緩慢な身体に内心舌打ちする。
受身さえ取れず無様に地に這い蹲った。

「・・・無様なものだな」

頭上から掛けられた声は何処か憐憫さえ篭っているような声だった。

「殺すなら殺せ」

吐き捨てるように告げる。
男の足元しか見えないがそれもまたいい。
死ぬ前に相手を見て絶望の中死ぬよりはかつての記憶の中にある彼を思いながら息絶えた方が余程ましだ。

「誰が殺すと?」

殺すのならば最初の一撃で仕留めていると言われカッと血が上った。
生け捕りにされどんな苦痛を屈辱をあわされるのか。
そう考えただけで悔しさに身体が震えた。

「お前は危険過ぎる」

その言葉の意味がわからない。
スネイプはそう告げてから動かない体に腕を伸ばし抱き上げた。

「何処へ連れて行く気だ」

答えるつもりはないだろうと思いながらも聞く。
この腕を懐かしいと思う自分を打ち消すために。

「隠れ家だ。我輩に殺されたと思って全てが終わるまで養生していろ」

その言葉にはかつて愛していた男の名残があって戸惑う。
失われた星達のようにあの不器用で優しかった彼も失われたものだと思っていたのに。

「セブルス?」

呼びなれていた名前をおずおずと口にした。
それはが愛した、いや今もなお愛し続けている男の。

「我輩にお前を殺せるわけがなかろう」

そう言って抱く腕に力を込めた男に彼女もまた身体を預けた。

「私だって殺せるとは思ってなかったよ」

小さく呟いた言葉は男の耳にしか届かなかった。
その日、一人の魔女が殺されたという。
しかしその死体は何処にもなく。
闇の帝王が失われた後にとある場所で無事発見されることになる。
これはまだもう少し先の話。