幼い頃から夜空に浮かぶ月にずっと恋してた
今は月より遠いあの人にありえないほど恋してる
ホグワーツの騒がしい一日の終わり。
少女はいつものように塔へと上った。
天文学で使用する教室の窓から塔のさらに上。
屋根へと出ると黒いローブを脱ぎ去った。
全身に月光を浴びて少女は満足げに腰を降ろす。
この場所はホグワーツでも格別に気に入っている場所であり月に一番近い場所。
「あの人から一番遠い場所・・・」
月を見上げる姿がどんなに儚げか少女は知らない。
男がその光景に出会ったのは正に偶然だった。
いつもならばレポートの採点やら自らの実験等で一日の終わりには疲れ果てベットに倒れこむようにして眠るのだが。
その日に限って眠りは訪れようとしない。
身体はくたくたに疲れきっているのだがと男は仕方なく校内の見回りにでも行くかとローブを羽織る。
一通り校内を回ってみても眠気は訪れてくれず男は塔へと足を延ばした。
何故塔へ向かったのか?
と聞かれればはっきり答えがあるわけもなく。
ただ回っていない場所であり気付かないうちに、昔の事をほんの僅かばかり懐かしいと思ったのかもしれない。
塔のある場所に隠された部屋。
今現在知るものは自分とダンブルドア位だろう。
ウィーズリーの双子ですら知らないであろうこの場所。
それを思うたびにあの男の呆れるほどの勘の良さや憎らしいまでの頭の良さを感じる。
「まだ息子の方がマシか」
それとも実力がない上、行動する分父親の方がいいのだろうか。
どちらにしても好意は持てない相手であることは確かだと不毛としか思えない思考を打ち切り外からは見えない窓から外を眺めた。
そして言葉を奪われた。
男が見たものは屋根の上。
脱ぎ捨てられたローブ。
月光を全身に浴びるワンピース姿の少女。
白い袖から月へと延ばされた細い腕。
風に揺れる裾からすらりと覘く白い脚。
ドクリ
血が騒いだ。
何かが目覚めたのを感じた。
久しく覚えなかった飢え。
「・・・・・面白い」
くるりと踵を返し塔を去る。
眠ることなど頭から消えうせていた。
今は獲物を彼女を手に入れることだけを。
カツカツと男の足音だけが暗闇へと吸い込まれていった。
魔法薬学の時間はグリフィンドール生にはただ過ぎ去る事だけを考えて過ごす時間だ。
スネイプに恋してるにとってもそれは同じ事で。
ただ少し違うのはスネイプの後姿をじっと見つめること。
見つめることしかできない。
「・・・・ではペアで作りなさい」
薬の説明を終えたスネイプの声に一斉にペアが出来て作り始めようとしていた。
「ミス・」
「は・はいっ!」
「ミスター・ロングボトムと組むように」
口答えは許さんという視線に急いでネビルの隣に行く。
後ろには失敗を待つようなスネイプ先生。
ネビルが緊張して失敗しない理由がない。
「あっ・・・・・駄目!!」
ボンッ!!!
大鍋から煙が立ち込めて真っ黒なローブの中に引き込まれてた。
「・・・怪我はないな」
じっと見つめられてありませんと震える声で返事する。
先生のローブには焼け焦げた跡。
ネビルは・・・・・無事みたいだ。
「グリフィンドールから10点減点。ロングボトムは怪我が無いなら片付けをしろ。他の者は出来た薬品を提出」
レポート一巻きは休日前に提出するように。
片付けが終わった者から帰って良いという言葉に皆急いで片付け始めている。
「ミス・は我輩と来るように。煙を吸ったであろう」
そういえばと喉が少し痛いような気がして歩き出したスネイプ先生の背中を追いかけた。
「これを飲みたまえ」
差し出されたのは少量の薬を水に溶いたもの。
受け取るとカップに口をつけこくりと喉に流し込む。
すっと喉の痛みが引いてすっきりする。
スネイプを見ればが薬を飲んだのを見ると棚からいくつかの壜と包帯を取り出した。
「あ、私がします」
そう言えば上着を脱ぎ始めたスネイプ先生に頬が染まるのを止められない。
「男の裸など恥ずかしいものでもあるまい」
そういって右腕を出すスネイプにそっと言い訳を心に浮かべる。
好きだから恥ずかしいのだと。
右腕には赤く腫れた火傷。
そっと消毒液をつけた後言われたとおりの薬をつけ包帯で巻いた。
少し手間取ったが綺麗に巻けたとほっと息を吐く。
「グリフィンドールに5点だ」
上着の釦を留めているスネイプに言われてえ、と視線を向けた。
「手際もなかなか良かったからな」
そう言われて嬉しくなると共にお礼も言ってなかったとぺこりと頭を下げた。
「私こそかばって頂いてありがとうございました」
ローブの中で抱きしめられた感覚を忘れないとは思った。
「所でミス・は消灯後ホグワーツを歩く事がいけない事だと理解してるかね」
いきなりの話題の転換についていけなくて理解した時にはの顔から血の色が引いていた。
「何か理由でもあるのかね」
「そ・・・それは・・」
言葉にできない。できる訳がない。
貴方に恋してるのが辛くて切なくて耐え切れなかったからとは。
「言えません」
はっきり告げた言葉にスネイプの表情はきつくなった。
「ほう、言えない程の理由とはなんであろうな」
暫く静寂が続いた後何も言わないに対してスネイプが告げた言葉。
「今夜、あの塔へ来い」
が去っていく足音を聞きながらスネイプは一人薬品棚へと手を伸ばした。
手に入れると心を決めて。