幼い頃から夜空に浮かぶ月にずっと恋してた

今は月より遠いあの人にありえないほど恋してる









呼び出された塔へ向かって暗い廊下を歩いてく。

もう何度も歩いた場所。

最初は月を見に。

彼を好きになってからはその思いを昇華させるため。

いつ見られたのかはわからないけれどきっとスネイプ先生は寮を抜け出したことを知ったのだろう。

何故すぐに減点され厳重注意されなかったのか。

何故今日塔に呼び出されたのかも。

全ては会えばわかるだろうと足を進めた。





いつもと違う雰囲気に足を止める。

何処か違うとふと壁の隅に隠し扉が開かれているのを見つける。

中へ入ると毎夜焦がれていた男の姿。

「スネイプ先生・・・」

「来たか」

中は思ったより広く窓からは塔の先が見えた。

「ここからお前が見えたのだ」

スネイプ先生の視線はテーブルの上のカップ。

紅茶を注ぎいれてカップをに差し出した。

「身体が冷えたであろう。飲みなさい」

両手で受け取れば指にじんわりと伝わる温かさ。

「・・・・ありがとうございます」

こくりと飲むと冷えた身体に熱が戻る。

、目を瞑って聞いて欲しい」

何?と問う前に言葉がスネイプの口から紡がれる。

「我輩は卑怯にもその紅茶の中に惚れ薬を入れたのだ」

聞いた事実に何故!?と疑問が浮かぶ。

彼がそんな事をする理由がわからない。

「何故、と思うだろうな」

フッ、と自嘲気味にスネイプは口の端に笑みを浮べた。

手をの頬へと伸ばしそっと顔を上げさせる。

伏せられた睫毛の繊細さに心を動かされながら。

「我輩はここからお前を見つけたのだ。月光を浴びて寂しそうに笑うお前を」

耳元へ口を寄せてそっと囁く。

大事な思いを伝えるのは口下手な自分には酷く難しいと実感しながら。

「欲しいと思ったのだ。お前を」

はっと鋭くが息を呑む。

瞼が閉じられているおかげでその瞳に映っているだろう拒絶の色を見なくて済んだことに安堵する。

「笑え。我輩はお前の父ほどもあるというのにお前に、生徒に心を奪われたのだから」

すっと手の離れる感覚に嫌だと思った。

「惚れ薬の効力は酷くは無い。一時間もすれば切れる。それまで・・・我輩と共にここにいてくれないか?」

目を瞑ったままという言葉に嫌だと首を横に振った。

「先生・・・・私を見て下さい」

の言葉に顔を見れば黒曜石にも似た瞳が自分を映す。

「馬鹿がっ!!聞いていなかったのか!!」

罵倒されて離れようとするスネイプの首に抱きつく。

「効きませんよ。惚れ薬なんて」

その瞳に写る感情がまだスネイプには伝わらない。

「・・・・私が好きなのは先生なんです」

だから惚れ薬はこれ以上効きようもありません。

その言葉に驚きとともに自らの浅ましさで少女から離れようとしたスネイプの身体をはその細い腕で抱きしめた。

「先生が今日呼んでくれなかったら私、先生への気持ちずっと隠したままでした。だから後悔しないで下さい」

嬉しいんです。

そう涙ぐむ少女の優しさにスネイプは愛おしさを感じた。

「月を見ながら茶会でもするかね」

を抱きしめたまま椅子に腰掛けると片手はの背にし、片手で惚れ薬入りの紅茶を注いだ。

「我輩にも効きはしないのだがな」

こくりと紅茶を嚥下してに笑いかけた。

、これからはそう呼んでもいいかね」

少女の答えはわかりきったものだった。

その後が塔へ上ることはなくスネイプのいる地下室へ暗い廊下を通うことになったのはホグワーツの壁を飾る絵達のみが知る事実である。