冬、である。
凍て付く寒さの中震えるのは季節柄仕方ない・・・とはどうしても思えなかった。
「冬なんて大嫌いだ!!」
少女の声は冷たい空気を揺らしていたのだった。
「寒い。寒い。寒いったら寒い」
死ぬ、かもしれない。
冗談ではなくマジで。
本気と書いてマジと嫁。
ああ、違う嫁じゃなくて読め、だ。
寒さから脳の回転が低下している気がした。
糖分が欲しい。
それよりもまず暖を取りたい。
行き倒れで凍死なんて本気で勘弁だ。
すぅっと息を吸い込む。
喉に冷たい冬の空気がチクチクと刺す。
痛い。
でもこれしか方法は無いのだ。
「だ・・・誰か・・・たすけてぇぇぇぇェ」
絶叫。
多分これ人間の声に聞こえなかったかもしれない。
でもこれが今の私に残されたポテンシャルだ。
奇声を発する怪奇現象の謎に興味を持った生徒がいたら助かるかも・・・と考えて失敗を悟る。
「あー・・・面倒ごとは避けるよねー」
奇特な人がいますよーに。
もう駄目とばかりに寒さから忍び寄った睡魔に死さえ覚悟してはゆるゆると瞼を下ろしたのだった。
あ、死んだな私。
本気で思った。
なんていっても寒くなかったから。
天国はいい所なんだなあと思う。
地獄はむしろ熱いといい。
寒い地獄なんて認めない。
むしろ今は暖かいと嬉しくなってしまう。
「うふふ。あったかーい」
ぎゅっ。
びくり。
ん、なんだ?
今何か揺れたような?
これはあれか。
小動物とかが怯えたのか。
この腕の中にいる温い動物と思われる物体サイズなら大動物かもしれない。
すりすりっとその暖かさに頬擦りして幸せ一杯で目覚めた。
嗚呼、なんて幸せな目覚めなんだ・・・ろー・・・・。
急転直下。
この四文字熟語を此処まで上手く表現出来ることはもうないと思う。
「目覚めたか。」
腕の中に居たのは可愛らしい円らな瞳の小動物でもなければ毛皮を持った大動物でもなくて。
凍死できそうな視線を持ったスネイプ先生でした。
ぎゃふん。
「あ、あのー。助けてくださったんですよね」
それは間違いないだろう。
あのままでは凍死一直線だったはず。
しかし何故この体制にと疑問符やら恐怖がぐるぐる頭を回っていく。
腕の中にいるというのは気のせいで正しくは私が蝉のごとく張り付いて体温をせびり取っていて、落とすわけにも行かず
渋々背に腕を回しているスネイプ先生、というのが正しい。
でもあれだよ、大動物は当たってた。
それが人で異性でしかもスネイプ先生なんて考えもしなかったんだけど。
「ご迷惑をお掛けしたようで・・・すいません」
「全くだ」
にべも無い言葉に反論の言葉もない。
すいませんと誤っていれば再び冷たい視線。
「おい。悪いと思うなら早く離れろ」
「え・・・えと」
離れろと言われ確かにと思うのだ。
思うのだが此処はスネイプの部屋で地下室で暖炉に火が入っているにも関わらず、やや寒い。
寒いのは嫌だ。
「・・・ヤ、です」
ノーの言葉に眉がくいっと釣り上がった。
恐い。
恐いけど寒いのよりはマシ。
究極の選択の末の結果である。
「・・・襲うぞ」
耳元で囁かれた言葉にドキリと心臓が跳ねた。
確かに人気の無い部屋に男女が二人きり。
密着していればそんな気分にならないわけないかもしれない。
しかし私の頭に浮かんだのは襲われるという貞操の危機ではなかった。
「いいですよ。いいですね!じゃあちゃっちゃと脱いでください!」
寒い寒いとローブの端を巻くりあげてあったかーいと喜べばスネイプは酷く動揺した。
多分うざったい小娘を追い払おうとしたのだがこんな反応が返ってくるとは考えてもいなかったのだろう。
「ほら、先生。私にくださいよ」
その台詞にスネイプが慌てた。
何を慌てるんだ。
早く早く。
寒さからより一層遠くなると理解したの脳に恥じらいという言葉はほんの僅かにしか残ってなく、それは今発揮されることは無かった。
「先生、スキデス」
その体温が。
と言わなかったのだがスネイプの顔にカッと朱が上ったのを彼女が見ることは無かった。
ローブの下に身体を寄せて体温摂取していたから。
「出て行け!」
その後、散々身体を弄ばれたスネイプが我に返り、湯たんぽと共に少女を寒さ厳しい廊下に放り出したのは言うまでも無い。
寒さでおかしくなるヒロイン。
教授は落ちてますがヒロインは体温に落ちてるだけです。
この後教授は告白しますが振られます。