ゲームはスタートした

その言葉が始まり







愛してる

その言葉はいつも人の奥底を開く鍵だった。

好意を寄せる者に冷たくできる者など少数で。

幼い頃に覚えた稚拙な技は面白いくらいに効いていた。

「ねえ・・・愛してるわ」

少し伏せた睫毛が微かに揺れてきっと淫靡な笑みを浮かべているだろう自分。

しかし相手には少しも感銘を受けた素振りを見せないばかりで苛立ちはつのる。

そっと紅を薄くひいた唇を寄せて唇を重ね合わせる。

ねっとりとした感触に快感を覚えながら瞼を開けるとそこには蔑んだ笑みを浮かべ佇む彼。

・・・・いや、教師がいた。

「なんのつもりだね。ミス・

きっとこの怒りっぽくて嫌味な教師は真っ赤になって怒るだろう。

もしかしたら容易く私という一生徒の仕掛けた罠に嵌るかもしれないし容易くいかないかもしれない。

容易くないほうが面白いと思った。

時間がかかる方が落とし甲斐はあるし獲物が利口なほど猟は楽しい。

だから生徒のいなくなるこの時間帯を狙って地下室へ赴いたのだ。

この獲物と定めたセブルス・スネイプという男を狩るために。

案外簡単だと思った。




好きだと言って

今は愛していると囁いて

腕を獲物の頭の後ろにかけ

瞼を伏せて唇を奪った。





でもそこには何もなかった。

怒りでも羞恥でも罵りの言葉さえなく獲物ですらなかった。

あるのはセブルス・スネイプというただの男で

その男が見ているのはというただの女だった。

「なんのつもりだ。ミス・

その声にはっと我に返る。

その瞳にはなんの感情も見えずにただ怖いと思った。

男が本当に怖いと思ったのだ。

「答えられるのなら言ってやろう」

やめて――

「お前は―」

やめて――――

「我輩に―」

やめて―――――――











地下室を逃げ出した少女に男が笑って呟いた言葉は届かない。

ゲームは本当にスタートしたのだ。