優しい笑顔の素敵なひとでした。
たった一人で見知らぬ土地にいる私を見つけてくれたひとでした。
温かな手を持つひとでした。





私の恋はあっさりと終わりました。
私の家は異国にありながら生粋の魔法族で闇の魔法に精通し例のあの人に関わる家だったのです。
だから少なくなっている魔法族を増やすために私は学生でありながら嫁ぐことになりました。
未成年で世間も知らぬ子どもです。
親の意見に逆らえるほどの勇気もなく私は私に与えられた縁談をのみました。
両親はこの婚姻によって与えられる名誉と命の保障に喜んでました。
子どもを愛していないわけではないのです。
ただ子どもとは彼らにとって自らのための駒であり彼らが与える幸せをただ黙って受け入れるべき存在なのでしょう。
私の婚姻相手は私の父と幾らも変わらぬ男でした。
見知らぬ相手と思っていただけにその人を見て驚愕したのは言うまでもありません。
通っている学校で教鞭を取る相手でした。
彼は私を蛇が獲物を見つけたような視線で射抜きました。
私は気を失わなかったのが不思議なほどに動揺しました。
じっとりと腋や背に嫌な汗が流れます。
腕は押さえなければ小さく震えて本当に獲物のようだと自分の事を他人事のように思います。
彼、スネイプは何かを両親に告げました。
両親は酷く恐縮しながら何か言いながら部屋から出て行きました。
教会で華々しく結婚式を挙げない理由は色々あります。
この宿屋はこの集まりに合わせて例のあの人への忠誠を誓う集会の会場になっていました。
だからこそ魔法族の普段は付き合いのない貴族の方々が私の姿を見てにやにやと笑うのです。
彼らが例のあの人に忠誠を誓って居る時に私は与えられた部屋で私の家の為にスネイプに抱かれなければならないのですから。



シャワーを浴びたいと願っても男は叶えてくれませんでした。
大人のしかも男から私が逃げれるとは思っても居ません。
けれど少しでもその時を先に延ばしたかったのです。
唇に喰われるような口付けを受けて抵抗しようにも顎を掴まれ逃げられず舌が絡め取られます。
歯列の隅まで舌で舐められればぞわりと背中に何かが走ります。
身体をよじれば寝台のシーツだけが心のように乱れるだけ。
肌の上を滑るてのひらは慣れたように私のナカにある熾火に勢いをつけるのです。
思ってもいなかった場所から生まれる熱に私の口からはしたない獣じみた声が漏れていきます。
男はそれを楽しげに嘲笑うように見つめます。
蔑まれるような視線に何故と疑問に思いながらも高められた熱がふわりと意識を奪い去って気付けばくたりと寝台に弛緩してました。
どうやら意識を飛ばしてしまったようだと気付いた時にはスネイプも私が目覚めたことに気付いてました。





「恋した相手でもない男に犯される気分は如何かね」





なんて残酷なことをいう人だろう。
私は淫乱な女なのだそうです。
恋した相手でなくとも身体を開き快楽を得ることの出来る女だそうです。
そう言われる度に悲しくて苦しくて泣きたいのに漏れる声は嬌声と呼ばれる類のものでした。
大好きだったあのひとの笑顔を思うことすら出来ません。
だって目の前の残酷な男から受ける痛みや快楽が大きすぎて掴むものはシーツだけで心もとないのです。
腕を掴まれ背中に廻せとばかりに伸ばされます。
シーツ以外で掴めるものは確かに彼だけでした。
悔しさとなんだかよくわからない気持ちから私は彼の背中に爪を立てました。
男は少し眉を顰めてそれからまた喰らうような口付けをしてきます。
嗚呼、私の恋は終わったのです。
夫となった男に与えられた現実に絶望しながらそれでも温かい身体に縋りつくしかないのです。
幼い恋は幻想でしかなかったのですから。

























幻想にさよなら