薬草の匂い
静かな空気が身体を包む
壁には一面のホルマリンに漬けられた魔法界の標本
ここが私の初恋の場所
足は自然と階段を降りていった。
住み慣れた場所。
四年も住んだ場所は卒業したあの日から少しも変わらないように見えた。
扉を前にして一呼吸する。
生徒の時には足を踏み入れる度にドキドキして深呼吸していた。
今もまだ慣れていない。
きっと慣れることなどないだろうとは思った。
左手に彼によって三年前に嵌められた指輪があったとしても。
コンコン
ノックをすると不機嫌そうな声。
「レポートはそこの机に置いておけ」
部屋の主は視線を上げもせず机の上にある書類、多分レポートにペンを走らせている。
静かに入って机の前。
彼の前に立つ。
「用がすんだなら出て行け・・・・・?」
不機嫌そのものといった声が疑問の色を帯びて発せられた。
「忙しいなら帰りますけど?」
肩を竦めていきなり来てごめんなさいと謝れば慌てて立ち上がっているスネイプ。
「いや、忙しくはない。ただグリフィンドールの生徒がまた文句でも言いに来たかと思ったのだ」
こっちに座りなさいと勧められたソファーに腰掛ける。
隣に座ると思ったスネイプは魔法でティーセットを出した後向かい側の一人がけのソファーに腰掛けた。
「大学はいいのかね」
「試験が終わったので来ちゃいました」
試験休みですと言えばそうかと一言。
「途中でフクロウ便出そうかと思ったんですけど私の方が早く着きそうだったから。
ビックリしました?」
くすくすと笑って言えば腕を組んで確かにと答えられる。
「だがこの驚きは嫌ではない」
ウィーズリーの双子のイタヅラよりはよっぽどましだと言われる。
「グリフィンドールの生徒には相変わらず評判悪そうですね」
「馬が合わん」
にこりと笑った恋人に問う。
「何がそんなに嬉しい?」
自寮を貶されて嬉しいものではあるまい?とスネイプらしからぬ言葉。
「だって先生と恋愛できる生徒なんて勇気のグリフィンドールしかありえませんから」
浮気の心配なかったかなーって。
満面の笑みで嬉しさを表現する恋人に愛しさが募る。
「我輩を信用しなかったのかね」
「信用はしてますけど離れてる時間が多いですから」
だから来たんです。
そう笑う表情はスネイプが見初めた昔のままの純粋な笑み。
「初恋は実らないっていうから・・・」
まだ信じられないんですよ。
そう呟いた。
両親にわざわざ挨拶に来てくれて。
大学卒業したら結婚したいと言ってくれて。
毎年ホグワーツが休暇期間になると日本に会いに来てくれる。
指に光る指輪もあの日言ってくれた言葉も変わることなく輝いているけれど。
「恋する乙女は不安なんです」
「不安など我輩が消し去ってやろう」
そういってようやく隣に座った恋人はにしっかりとキスをした。
「・・・・・・っ」
「浮気などする気もないし出来ないから安心しろ」
お前以外に興味はない。
そう囁かれてまた唇を奪われた。
「よく父親が許してくれたな?」
暫く経った後言われた言葉に苦笑した。
父親のあの日の言葉を思い出して。
「『娘から離れろ、虫歯菌!』は今でも忘れられないからな」
「父さんも先生の事認めてはいるんだよ?」
ただし素直になれないだけでと言えばまあ仕方ないと笑いあう。
「だが結婚を反対されても来年には必ずするからな」
「はい」
迷いの振り切れた微笑みを浮べたにスネイプは囁く。
「いつまでいれるのだ?」
「ハロウィンまでかな?」
ハロウィンまで残り二週間。
「ではダンスパーティーに参加してくれるかね?」
左手の指輪にキスを送られて良いですよと了解したはハロウィンの日
一足早くホグワーツの皆にウェディングドレス姿をお披露目したのだった。