続・お見合い大戦線〜恋に落ちたら命懸け〜その3


「悠舜さま!!」

嬉しくて思わず駆け寄って悠舜の胸へとダイブする。

!!嗚呼、朝に会ったぶりですね、元気そうで安心しました」
「悠舜さま、何かご用があったのでしたら出かけにでも言って下さったら良かったのに。
ただでさえ、悠舜さまがお忙しいの解っていない訳では無いんだから。
それよりも、悠舜さまには出来るだけゆっくりしていて欲しいんです」
、何て優しいのでしょう。いえ、実はね、何だか急に君に会いたくなったんですよ。
それにちょうど鳳珠にも普段の君の様子を聞きたいと思っていた所ですしね」

悠舜はの髪を優しく撫でながら、ギュと抱きしめた。

それは傍から見れば、とても仲の良い父娘の微笑ましい光景の筈なのに
何故か見ている鳳珠と景侍郎は背筋が薄ら寒く感じた。

思わず””と呼びかけようとした声が喉の奥で萎えて止まる。

いつもなら、と柚梨と自分で楽しいお茶の時間が待っている筈なのに。
そして、仮眠室でほんの半刻程の時間だけだがと共に昼寝なんかもするのに。

何だろう、あの悠舜の背後に浮かんでいる様に見える黒い塊の様なものは。

笑顔なのに、笑顔でそこに悠舜はいるのに絶対零度の殺気の様なものに阻まれる。

気功の達人の鳳珠をもってしても、迂闊に動いたらヤバイと思わせる程に。

(私は何だって、自分の場所なのに戸部にすら入れないんだ?
それには私の部下じゃなかったか?名前すらも呼ぶ事が出来ないのか?)

したたかな癒し系である景侍郎もあまりの悠舜の凄さに言葉すらも発せられない。

(…鄭官吏が伝説だと言われる訳が、良く解りました)

政に優秀な、先だっても秀麗とそして新妻と一緒に来てその手腕の一端をを見せてはくれたが
彼にとってそんな事よりも100倍、いや一生の中でもそれに勝る物は無い位の
大事な、かけがえのない存在が目の前にいるいつも共に働いているなのだと。

悠舜ならばきっと”もしもの時”が来たら世界とを引き換える事も厭わないだろう。

溺愛どころの生易しい覚悟じゃない、これは。

喋る言葉、ひとつひとつが彼の中で取捨択一されていくのだろう。
下手な事を言えば、こっちの命が間違いなく無い。

まさにに恋をする事は、悠舜を敵に回す事なのだと身に染みて解った2人であった。

「そうだ、
「何ですか、悠舜さま」
「君は今、一番親しいと思う男はいますか?」

悠舜の問いかけに訳が解らず、小首を傾げる
少し、斜め上を見上げる様なその視線は側で見ている2人にとっても抱きしめたい位。

「え?仰る意味が解りかねるのですが」
「いいんです、君が普段一番、良く顔を会わすなとか、お世話になってるなって方で。
別に一人じゃなくても構いませんよ。父として大事な娘がお世話になっているんですから。
お礼の一つも言わないようじゃ、やっぱりいけない事だと思いますからね」

悠舜に笑顔でそう言われたら、とて言わない訳にはいかない。

「えっと、一番お世話になっているのはやはりここの鳳珠さまと景侍郎ですね。同じ位、府庫の邵可様。
お邸を貸して下さっている藍家のご当主様と藍将軍、それから龍蓮?あ、でもあれはお世話してる?
あとは、工部の管尚書と欧陽侍郎も凄くお優しいんです。武官の皆さんも親切なんですね!!
藍将軍の直属の部下の皐武官なんかも、とってもお世話になっています」

の言葉を聞いた悠舜の瞳が、驚きに見開かれる。

工部の管飛翔と欧陽玉?あの六部一仲の悪い尚書と侍郎が優しい?
悠舜は一瞬、自分の耳が可笑しくなったとかと思ったが違っていたらしい。
あの2人は女だとか男だとかには拘らない筈ではあるが、その分でとても基準が厳しいのだ。
突然、降って沸いたかの様な女人受験にも最後まで反対していたと言うし…それが何故?
でも、唯一つ救いと言えるのはと良く似ているあの男の名前が無い事。

とりあえずはまだ、出会っていないらしい。
それだけは悠舜は心の底から安堵していた。

は頭に疑問符が浮かびそうな勢いの悠舜に、はにかみながら答えた。

「予算の関係上、工部には良くお邪魔するんです」
「そうですか、沢山の人が君を助けてくれているのですね。
、どうもありがとう。その方達に後日、私からもお礼を届けておきますね。
そうですねぇ、日記にでも出来そうな綴じ紙をお渡ししましょう」
「日記に出来そうな???…悠舜さま、お届けになる際は言って下さいね」
「ええ、が渡してくれればきっと喜んで下さる筈です。
拒否なんかしたら、どうなるかは解っているでしょうからねぇえええええ?」

ピカーンと怪しく、ともすれば紅くさえ光りそうな目で悠舜は鳳珠を見た。

清く正しいお付き合いは、交換日記から。

交換日記じゃなきゃ、きっと悠舜には認めて貰えない。

しかも、悠舜に毎回の様に採点されると言う厳密に言えば悠舜との交換日記。

もしくは文通?手紙のやり取り?多分、逢引の約束すらも悠舜に許可がいる勢いだ。

悠舜が貴陽に居る間は、周りが騒がしくなりそうだと思いながら鳳珠はため息を付いた。

悠舜に阻まれるのが先か、それとも鳳珠の粘り勝ちか。

とりあえず、今はまだ色んな事を黙っていようと思う鳳珠なのだった。

本当の敵は送られて来る縁談ではなく、娘のほんの直ぐ側にある事に
今は気付いていない悠舜が、その事実に気付くまで。

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80000hitのキリ番を踏んで下さいました久我ユウコ様に捧げさせて頂きました

リクとしては悠舜VSヒロインちゃんの上司・知人・友人(男)な感じと言う事でしたが
…出来上がってみたら無駄に長く、悠舜が何時にも増して暴走してしまいました(苦)

(ちなみに上司=黄尚書と景侍郎、知人=皐武官、友人=龍蓮のつもりです)

うちの悠舜にヒロインちゃんを語らせたら、きっと広辞苑なみの分厚さになりますね
彩雲国の中で欧陽侍郎が黄尚書のご尊顔を称えて、毎日詩を諳んじるとか言ってた事も
悠舜にかかれば、一日で何千編と出来てしまう位の勢いです

これでもうちの悠舜、最初はヒロインちゃんを優しく見守るパパの筈だったんですが(^_^;)
歳月は人を変える、という言葉を良く体現しているのでは無いでしょうか

今回は、あえてオチを付けませんでしたが
機会があれば後日譚や外伝なんかも書きたいなと思っております

題して「悠舜パパの妄想ヒロインちゃん日記」

ユウコさん、ホントにありがとうございました
今後ともどうぞ、末永く宜しくお願い致します

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「divya yandha」の管理人様でお友達の睦月莉音さんから80000hitのキリ番リク作品頂きました。
パパと交換日記の様子も気になりつつ。
莉音さん素敵な作品をありがとうございました。
こちらこそ宜しくお願いします。