ハ ル シ オ ン
一般名:トリアゾラム
短時間型
ベンゾジアゼピン誘導体
15分で効果発揮、持続作用3時間
ぱたりと本を閉じてベッドに横になる。
半分以上空になった壜が目に入る。
横になったまま隣の机の上に置いてある壜へ手を伸ばした。
ガタン
触れた指先は壜を捕まえる事ができず壜は重力に従ってゆっくりと床に落ちた。
気だるそうには首だけを回して蓋がきちんと閉められていなかったのだろう床へ散らばった薬の錠剤を眺めた。
不規則に散らばった錠剤はまだ惰性を伴って廻り続けるものもある。
延ばされた指は今度はしっかりと壜を捕まえた。
持ち上げてみればまだ20錠近い数の錠剤が壜の中に押し込められていた。
蓋を取るのが億劫で壜を口へと近づけた。
ザラリ
口の中一杯に入った錠剤。
ガリと噛み砕くと苦味が舌を走る。
ほぼ空となった薬の壜を床へ落とした。
左手で僅かに身体を持ち上げると右手でミネラルウォーターの壜を持ち上げた。
唇に壜の口をつけて錠剤を飲み込む。
ごくりと喉の奥に流れ落ちる錠剤に意識もこうやって落ちていくのかなどと他愛もないことを考えた。
舌の上を炭酸が僅かに痺れを伴って弾けた。
それに僅かに眉を寄せる。
日本人には外国の炭酸入りのミネラルウォーターは合わない。
フランス人はワインを水のように飲むというが薬のときもワインだろうか。
最後に考えたのはそんな他愛もないことか。
落ちていく感覚の中手のひらからゆっくりとミネラルウォーターの壜が落ちた。
「・はどうした」
地下室の魔法薬学の授業中、スネイプはいつもの席が空いていることに眉間に皺を寄せながら聞いた。
本人が不在の席は酷く寒々しい。
隣にいる女生徒がぽつりと言葉を落とした。
「そういえば今朝から見ていないけど・・・」
まさか寝坊?
ありえないという響きを持ちながらそれともどこか悪いのかと授業の選択が違ったらしく呟かれた。
「大広間にも来ていないのかね」
朝食の場にもいませんでしたという他の生徒の言葉にますますスネイプの表情は強張った。
「では教科書306ページから350ページまでを読んでいるように。後で質問した時に答えられない者は居残りだ」
一斉に生徒達は教科書へ顔を突っ込んだ。
居残りなどしたいものなどいないのだから。
そしてスネイプは扉を開いて廊下を足早に歩いていった。
「アロホモラ」
生徒用の鍵だから簡単に開いた。
生徒の自治に任せている事もある。
本来ならば立ち入る事もしなかったろうがスネイプはその部屋の扉を開け足を踏み入れた。
「ミス・?・・・・・!!」
スネイプは絶句した。
監督生の一人部屋。
他の生徒より少し広い部屋に少し大きいベッド。
そのベッドの上に倒れている少女。
床には散らばる白い錠剤と薬の入っていたらしい壜。
机の上には服用の際に飲んだらしいミネラルウォーターの壜が転がっていた。
慌てて近寄り身体を抱き寄せた。
喉に手をやればかすかに脈はあった。
呼吸もしている。
そのことに少しだけほっとして身体を下ろすと床に落ちている壜を拾い上げた。
中の錠剤を見て少しだけ舐めて確かめる。
「・・・・トリアゾラムか」
錠剤の表面には薬品名かハルシオンと書かれていた。
「全く・・・・」
ベッドの上で眠っているを抱き上げると医務室へと連れて行ったのだった。
「胃洗浄しますか?」
マダム・ポンプリーがチューブを持ってきた。
スネイプは頷いて眠ってるを起こそうと耳元で言った。
「ミス・、そろそろ起きてくれないかね」
「・・・・・・ぴくりとも反応しませんわね」
「!!」
マダム・ポンプリーの呆れたような声に同じ気持ちで耳元へ叫んだ。
「・・・・・・スネイプ教授」
「校長を呼んでもらえますかな?」
耳元で叫んだというのに反応しないに不安を抱きつつ校長を呼んでもらったのだった。
「これはどうしたことかね」
一応胃洗浄までしたのだがぴくりとも動かないを囲んで校長とスネイプとマダム・ポンプリーが話し合っていた。
「薬品の効果は切れてもいいはずですが・・」
マダム・ポンプリーはそういって眠り続けるを心配気に見た。
「何かの魔法がという事はないのですかな」
「いや、そのような痕跡はないが・・・・なるほど」
髭を撫でながらふむとダンブルドアはどこか困ったような面白いような表情をした。
「マダム・ポンプリーは席を外してもらえるかな?」
その言葉にポンフリーはでは薬草園に暫く出てますわと素直に従い残されたのは校長とスネイプと眠ってるだけ。
「マダム・ポンプリーがいたら都合でも悪いのですか?」
「いや・・・うむ。そうともいえる」
歯切れの悪い校長にスネイプはずばりと切り出した。
「どうすればは目覚めるのです?」
「それはなセブルス。ココロの問題じゃ」
「外因性の原因はないと?」
そんな馬鹿なと返せば困ったように笑うダンブルドアの姿。
「まあ薬のせいで少しは不安が増長したかもしれんが自身が起きたくないと起きれないと思っとるのだろう」
その言葉に苦々しい表情を作りスネイプは息を吐いた。
「傍迷惑な・・・」
「そういう年頃は誰にでもあるものじゃ」
覚えがあるじゃろと言われてはあと生返事を返す。
「まあ眠り姫を起こすのは王子の仕事じゃからな」
パチン
ウィンクをして去る校長にどこまで知っているのだろうかと思いながら扉が閉まるのを見ていた。
静寂の中すぅすぅと規則正しい寝息のみが聞こえる。
そっと顔の傍に近づく。
「。起きろ」
「起きて我輩を見ろ」
軽く額、頬と唇を落としていく。
「愛してる」
軽く啄むキスを繰り返すとゆっくりと頑ななまでに閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がった。
「私も・・・愛してます」
にこりと微笑むに今度は深い口付けをして。
薬のせいか少し苦いキスに表情を顰めた。
「お前が苦いとキスする気にならん」
これからはこんな薬を飲むなと告げてもう一度キスを交わす。
二度目は薬の味ではなく。
「との甘いキスを我輩は気に入っているのだからな」
そういわれたはこくりと頷いて。
ハルシオンの導きによって見た夢よりもずっと現実の方がいいと呟いた。
それから暫くの間薬をやめる為に少女を起こすのはスネイプの役目となったのだった。
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