長期休暇はやけに長く感じた。
日頃の騒々しさから解放されて自分のしたい事を自由に行えるというのに。
なんだ、この寂寥感は。
ぽっかりと身体の奥に穴が開いて冷たい風が吹きぬけて抜け殻にでもなったような不快感。
居もしない人間の気配を其処此処に感じてしまうのは。



「・・・手紙の一つくらい寄越せば可愛いものを」



ぽつりと呟いてから休暇前に言った言葉を思い出す。
『無駄に連絡を寄越すくらいならせめて課題を終わらせてからにして欲しいものですな』
それは守られることはないと思ったから放った言葉だった。
いつだって少女は自らがつくった壁を軽々と越えて来たというのに。



「・・・手間のかかる」



零した言葉はコポコポと火にかかった鍋の音に落ちて消えた。
















「スネイプ先生から電話なんて貴重なものを頂けるとは思っても見ませんでした」




僅かな沈黙の後、呟かれた失礼な言葉に苦々しく思いながら内心で我輩もだと返した。

「我輩は非常に有意義な休暇を送っている。いつも五月蝿い誰かがいないのでな」

課題は進んだかどうか確認せねば我が寮の汚点になると本心を隠して言葉を紡ぐ。

「相変わらずつれないですね。お元気そうで安心しました」

「・・・どうした、夏風邪でも引いたかね」

いつも煩わしいほどの陽気さが影を潜めているように思えて、それでも皮肉を交えて問う。

「元気ですよ。課題も順調です」

またしても、沈黙。

「言いたいことがあるならさっさと言いたまえ」

どんな事でも良かった。

些細な日常の様子を彼女の言葉で伝えて欲しかった。








「・・・会いたいです」








「・・・な」

絶句した。

「会いたい。先生に会って邪魔だって怒られたい。会って触れたい。・・・寂しい」

ごめんなさい、我侭言って。
そんな言葉を伝え続ける機械をガチャンと置いた。
静寂の中、涙声の言葉が耳を心を突き刺す。
そしてスネイプは瞼を閉じた。













浮かれていたのかもしれない。
初めて、先生から電話を貰った。
フクロウ便でいくつか手紙を貰ったり送ったりした事はあるけれど電話は初めてだったから。
電話の使い方を知っていたんだなと切れて機械音が漏れる受話器を置いた。
甘えたことを言ってしまった。
本当は言わないつもりだった。
これがフクロウ便ならば上手く取り繕えたかもしれない。
けれど耳に愛しい人の声を聞いて耐えれなかった。










会いたい。
会って話したい。
触りたい。
抱きしめて欲しい。
ローブから香る薬草の匂いも、低い声も、優しいてのひらも。
全てが。










会えないことがこんなにも苦しくて切ないなんて知らなかった。
いつから好きという境界線を越えたのだろう。
いつから好きと切ないが天秤に掛けられていたのだろう。

「呆れられただろうなあ」

はあ、と溜息を吐いても零れた言葉は戻せるわけもない。
せめてこれが携帯に掛かって来たのなら折り返し電話して今のは冗談ですよと誤魔化せたのに。

「古い機種だもんね」

表示機能なんて付いてない家の電話に仕方ないと笑って。
電話をくれたことだけでも嬉しいと少しだけ出た元気。

ピンポーン

「はーい!」


数十分後、少女が玄関を開けた時また一つ何かが変わった。