愛するものを手に入れると人は弱くなるのだろうか?











怖い。

その感情は別に昔から存在していた。

闇の陣営に入った時も恐怖に似た感情は心の底で燻っていた。

じりじりと焦げるような臭いをさせて。

けれど今は違う。

かつては燻っていた火種が心の大きな部分で燃え盛る。

怖いと。

死んでも別に構わなかった。

生物として生まれた以上死にたくはなかったが死と隣り合わせになっても仕方ないと思っていた。

悲しむべき人はいなかった。

自分の死を喜ぶ人間が幾人かいてそいつらを喜ばせるのも癪で生きていた。

自分の死の上に世界の平和が訪れるならば、なんて大層なことを考えたわけではない。

英雄になりたいなどと考えて行動するほど愚かでも純粋でもなかった。

誰かがしなければならない事だからと割り切っていた。

けれど今、自分は死を恐ろしいと感じている。

そして生き残ることを。

たった一人生き残ってしまう事を。

「やめて、そんなことしないで」

はその夜泣いた。

大きな瞳から溢れる止まらない涙に眼が溶けてしまうぞとからかった。

離したくはなかった。

だけれどホグワーツが一番安全だと知っていた自分は自分の傍よりここに残す事を決意した。

「ポッターとかかわるな」

闇の帝王が望むのはかの生き残った少年を抹殺し魔法界全てを世界を手に入れること。

「やつに関われば危険が伴う」

できるなら誰もいない、誰も知らない場所に閉じ込めて置きたいほど愛しい少女。

「関わらないと約束してくれ」

擦れた声で告げるとは泣きながらも我輩を見上げた。

「生きて・・・生きて帰って来てください」

ぎゅっと抱きつかれる。

その温もりが愛しい。

「先生は私のものなんだから。誰にもあげないんだから」

絶対私の元に帰って来ないといけないんです。

震える声で告げられた言葉はとても優しい。

生きて帰れと愛を込めて悲しみを込めて突きつけられた一方的な約束。

、我輩は怖いのだよ」

腕にすっぽり入る細く柔らかい身体を抱きしめて内心を吐露する。

「我輩が死んでしまうのはまだいい。お前が誰か他の者と幸せになってくれるならばあの世からそいつを呪い殺したいが我慢しよう」

想像するだけで吐き気がしたが言葉を続けた。

「だが、我輩一人で生き残るだけは・・・・・・耐えられそうもない」

頼む。

小さく呟いた言葉はの涙を止めていた。

「先生は確かにしぶといですからね」

油虫並みに生き残りそうです。

言われた言葉の酷さに顔を顰める。

「誰かと幸せになってもいいなんて馬鹿なことをいうお返しです」

涙に濡れる瞳には紛れもない怒りがあった。

「私は絶対にスネイプ先生と幸せになるんです」

そのしなやかな少女の強さにああと呟いた。

ホグワーツを出る時がいるであろう寮を見上げた。

あの灯りの一つに彼女がいて自分のすることがきっと彼女の日常や幸せを守る欠片となるのだと信じる。

「人は愛する者がいて強くなれるのだな」

死を恐れつつ、別れを恐れつつも帰ってくることの出来る強さ。

帰るべき場所はお互いなのだ。

彼女の帰るべき場所を他の誰かなんかに譲れるほど自分は人間が出来てない自覚がある。

前とは違う強さを持ってスネイプは闇へ消えていった。

きっと帰ると心に決めて。