年齢を減るごとに一段ずつ昇り重ねてゆくもの。
その先の何処かにある扉を開け人はいつか死への別れへと旅立って行く。
大事な友人達は息子を一人残しあまりにも早く駆け抜けて行った。
知らせを聞いた時やはりと思った。
その日はジェームズ達の亡くなった日によく似ていたから。
よく晴れた日だというのに心は晴れない。
落ち着かなくて何も手に付かない。
虫の知らせというやつだったのだという確信はセブルスの無表情と淡々と話す口調と何よりその内容より生まれた。
あまりにも早く駆け抜けて行った人。
私はいつもその背中ばかり追い掛けていた。
「そう、彼が…」
口にした一言が何十倍何百倍もの厚みと重さを伴い襲い掛かる。
大丈夫か?、なんて偽善的な言葉をくれないセブルスの優しさに助けられる。
「彼は、シリウスは・・・ジェームズの背中ばかり追い掛けて。また今度こそ行ってしまったのね」
死にたがっていたわけではない。
だけれども私には彼がジェームズの後を走って扉の向こうへと追いかけただけだと思えた。
あの輝くような学生時代と同じ。
「ああ」
苦笑混じりの涙声。
否定せずただ頷いたセブルスは天敵の憎んでいたシリウスが死んだというのに喜ぶ様を見せない。
「奴は馬鹿だからな」
後ろを見もせず走るのだ。
呟かれた言葉にそうねと呟く。
「貴方はいつもジェームズの隣にいたものね」
もうこの世界の何処にもいない彼に向かって囁く。
ジェームズの妻はリリー。
かけがえのない愛情。
ジェームズの親友はシリウス。
かけがえのない信頼。
ジェームズにとっての運命の人ががリリーでもシリウスの運命はきっとジェームズだったのだ。
「いつだって私は置いていかれるの」
悲しみと切なさと諦めが混じる。
憧れて、彼自身を知って、彼の弱さや強がりや嘘も見えたけれど。
それでも好きだった。
「いつだって私は背中しか見てなかった」
ジェームズと笑ってる顔も喧嘩している時も辛くて苦しい時も全て後ろで見守る事しか出来なかった。
「奴はそれを望んだのだろう」
呟かれた声に顔を上げる。
とても苦々しい顔のセブルスが視界に入る。
「にだけは背中を預けたのであろうよ」
あの気位の高いブラックが。
そう言われて驚く。
そんなことが。
そんな都合の良いことが。
そんな解釈の方法があっていいのだろうか。
「我輩とて角度は違うが奴の背中など見たことはない。見たのは下らない悪戯をした時と言いがかりをつけられたくらいだが」
淡々と告げられるないように頷く。
「だがお前といる時はどこか刹那的な部分が消えていたようだがな」
イタヅラを誘わない理由。
アズカバンを脱走しても一度も会いに来ない理由。
騎士団に誘わなかった理由。
「そんな都合のいい考えをしていいのかな」
じわじわとそうであって欲しいという想いが浸透する。
「都合がいいというよりそうなのであろうよ。三日で他の女に手を出していた男が何故自分だけに声をかけないかと考えた事はなかったのかね」
「タイプじゃなかったんじゃ・・・」
そう、確かシリウスが家族と喧嘩して荒れていた時期に言われた気がする。
「タイプなどあの男は一定基準以上なら見境なかったろうが」
思い巡らせて確かに美人が多かったと思い出す。
「お前だけが特別だったんだ、奴には」
「嘘・・・」
優しい言葉に頭を振る。
だってだってだって。
「ルーピンからだが『シリウスは自分の無実を証明してから会いに行く気だった』といってたぞ」
そんな優しい嘘に包まれたら何も言えないじゃない。
「あの男がお前をどう思っていたかはわからん。女とかも知れんし妹かも知れん、ただ大切に思っていたのは確かだ」
そっと囁かれてズルいと思う。
何も言ってくれずに死へ旅立ったシリウスもこうして優しい嘘で包んでくれるセブルスも。
「・・・・・シリウスっ・・・」
ぎゅっと抱きしめられる。
頭上から声がかけられた。
「今日だけあいつの為に泣け。仕方ないから貸してやる」
廻された腕。
胸に頭をつけて泣いた。
溢れて溢れて止められなかった。
「今日だけだぞ」
優しいセブルスの胸で思い切り泣いた後は扉を開ける時まで必死に生きようと思った。
今度は誰かの隣で笑いたいとも。
「いつかシリウスに会って馬鹿って言ってやる!」
そう告げたの言葉にそっとスネイプは髪を撫でてやった。
ごめんなと囁く声が遠くで消えた。