帽子と父親を恨んだけれど実際スリザリンで良かったかもと思った初めての魔法薬学の授業。
あの、スネイプ先生の授業の時だった。
それまではそこそこに聞き流しつつ授業を受けていたが今回ばかりはそうはいかなかった。
クィレル先生なんてお天気の話とかだったのにさあ。
あいかわらずニンニク臭かったけど。
「ていうか地下牢って趣味悪」
寒いし壁に並べられてるホルマリンもどきがぎょろりと睨んでるし。
「静かにしろよ」
横にいたドラコに文句言われて素直に黙る。
扉がすごい勢いで開いたから。
バンッ
絶対、今、脚で蹴ったよ!!!
花嫁修業だったら楚々と三本指で開けるんじゃないのと思ったがここが英国だと思い黙る。
「では、出席を取る」
てきぱきと事務的に取り終えて直に授業に入るのかとそう思った。
「ハリー・ポッター。我等が新しい――――スターだね」
猫なで声だよ!!
そんなにハリーにメロメロ!?
忘れかけていた疑惑、『出会った瞬間一目ぼれ、咲いたのは禁断・恋の花!』が脳裏に浮かんだ。
それからはスネイプ先生の大演説の後、ポッター攻め。
「ポッター!」「ポッター!」「ポッター!」
グリフィンドールはことごとく注意されてしまっていて。
スリザリンもだが。
ドラコはお気に入りなのか褒められていた。
「、この茹で方は何だ!茹で過ぎじゃないか」
私も例外ではなく。
ちょっとナメクジ出すのが遅れただけなのになあ。
いいじゃない、八割溶けても。
菜箸がないのが悪い!!!
こんなお玉で掬えるかっ!!!
その後ネビルというカエルを探していた子が保健室送りになって散々だった。
零れた薬がローブから出してた腕にかかったし。
後でマダム・ポンフリーの所へ行こうとズキズキ痛んだけど我慢した。
結局グリフィンドールは二点も減点されていた。
ご愁傷様。
「やっと終わった〜〜!」
寮に帰るかと荷物を持つと呼び止められた。
「、少し話がある。残りなさい」
生徒も殆ど帰ってしまった地下牢にスネイプ先生と二人きり。
あんまり有難くない状況・・・・である。
ああ、寒いっす。
ナニがってこの薄暗い地下室でスネイプ先生と二人きりというこの状況。
ぐいと腕を掴まれた。
「何っ・・・・・・痛っ」
セクハラと叫ばなかった自分に拍手したい気分。
「何故早くに言わない」
捲られたローブから右腕が見えた。
かかった薬のせいで腫れ上がった皮膚。
呆れたという響きを含んだ声が頭上からかかった。
「・・・・なんとなくです」
へらっと笑ってみれば苦虫を潰したような表情をして棚からどろりと紫色の液体の入った瓶を取り出した。
「それ、ブルーベリージャムってわけじゃないですよね?」
希望的観測を多大に含んだ問いはあっさりと却下された。
「これは痛み止めの薬だ。成分はアオム」
「いいですっ!!教えてくれなくて結構ですっ!!!」
嫌な予感がして慌てて止めた。
その後シとかついたら私、腕触れませんよ。
自分の腕だって!!!
ああ、チキン肌全開。
スネイプ先生の指が器用に薬のかかった部位にその成分が不明の薬品を塗りこんでいく。
くるくる廻る指はとても不思議な感覚で。
痛みはいつの間にか消えてった。
「減点などに同情せずに怪我をした時は直に言え」
迷惑だと言外に込められた響きと考えを読まれたことに溜息ついた。
その後の言葉は意外だったけど。
「でないとお前の父親が煩いからな」
目の前に差し出された手紙の差出人は確かに自分の父親で。
カサリと音を立てて紙を開いた。
『元気かい?セブルス、僕の娘と仲良くしてるかな?相変わらずこっちは忙しい毎日です。
そろそろ二人ともファースト・ネームで呼ぶようになったかな。
っていい名前だろう。僕がつけたんだ(威張り!!)。
照れて呼べないって?そんなことは言ってないっていう君の姿が浮かぶよ。
僕としてはの花嫁姿は直にでも見たいところなんだが。
セブルスも見たいだろう?いや、想像するだけで我慢してくれよ。
きっとは綺麗だろうなあ。そう思うだろう?なんたって僕の娘だしな!!!
まだ結婚できないのが実に残念だ。まあ、運良くホグワーツという場で過ごせるのだから愛を育んでいくように。
毎日は無理だろうけどに他の虫がつかないように頑張るんだよ、セブルス。
P.S ニックネームで呼び合うのはやめた方がいいと思うよ、皆の幸せのためにも、ね』
「・・・・・・・・・・」
「お前の父親にもう手紙を出さないように言ってくれ」
いつもより数段上のウンザリ声に無理だと思いつつも努力してみますと返事した。
もう一度読み返しスネイプ先生にこんな酔っ払いの親父のような内容の手紙を送れる父親にちょっと呆れた溜息を送ったのだった。
こんな人をどうやってニックネームで呼べっていうの!!!って感じで。
セブとかスネちゃまとかスネイプンとか?
・・・・・・ありえない!!!!
「ところでその成分って何だったんですか?」
気が抜けて聞くつもりなかった問いが口から滑った。
「ああ、青紫蝶の燐粉と」
セーフ。
まだシよりはマシだ。
「イモムシの分泌液だ」
それが何か?といいたそうな表情の男を残し。
うぎゃと近くの紙で薬を懸命にふき取ったのは数秒後。
「日刊預言者新聞」が目に留まった。
イモ・・・・ああ口にしたくもない。
そのブツから出たもので作った分泌物で作られた薬を拭き取った紙がソレだったのだ。
止まったのは憶えのある場所が書いてたから。
「・・・・・グリンゴッツってコースターのあった所ですよね?」
何者かが侵入したがその日に中身は空になっていたという。
何が入っていたのだろうかと拭き取ったと思われる辺りを持たないように気をつけながら読み耽っていた。
だからスネイプ先生が苦々しい表情をしていた事にも気付かなかった。
腕がインクで汚れた事も。