管理人フィルチ氏とミセス・ノリスに会ったのは偶然だった。

寝付けなくって寮から出た。

折角だから探検してもいいでしょうと。

遠くからガラガラガッシャーンといういかにもな音が聞こえた。

そして「逃げろ」っていう誰かの声も。

音がした方へ脚を運べば廊下の真ん中に猫が居た。

ギロリと睨む猫にローブに入れてたいりこを取り出す。

日本のつまみ百選のピーナッツと一緒に入ってるやつだ。

手のひらに乗せてそっと差し出せば警戒しながらも近づいてきてニャーと愛想笑いみたく鳴いてポリといりこを齧った。

「猫ちゃん、可愛いねえ」

あまり光沢のない毛並みをゆっくり撫でてやれば気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

「ミセス・ノリス?」

信じられないという表情でこっちを見ているのは愛猫家フィルチ氏。

私は愛猫家には一番の言葉を言った。

「可愛い猫ちゃんですね」

にっこり

いりこをもう一つだしてやれば気に入ったのか直に食べた。

「その・・・お前はさっきここにいなかったか?」

「ええ。今、来たところです。猫が居たので脚を止めた所で」

擦り寄る猫を一撫でしてローブから小袋を取り出した。

「これ、少しですけどいりこが入ってるのでミセス・ノリスに上げてください」

今、全部あげるとお腹壊しそうですからと言えばビックリした表情をされた。

「・・・その・・・もう遅いから気をつけて寮に帰りなさい」

私はまだ仕事があるからといわれた。

ポツリと言われた言葉に素直に返事をする。

人の好意は受け取れという親の教え。

「ありがとうございます」

愛猫家の管理人とミセス・ノリスに手を振ってその場から離れた。

減点されなかったのはきっとミセス・ノリスにあげたいりこの力。

「カルシウムは大事だねー」

足はそのまま言われたとおり寮へ・・・は向けず階段へ。

ゴゴゴゴゴ

人の気配のない場所でも気まぐれに階段は動き続ける。

「あともう三十分で帰ろうっと」

鼻歌まじりに夜の散策を楽しんだ。

















翌日、昨日の散策で幾分寝不足だったが機嫌は良かった。

ドラコはまたしてもハリーを見ていて。

「まさかあいつ・・・・」

「何?ハリーは何処からどう見ても男の子だと思うよ?」

女の子と勘違いしてるわけないよね?と問えば怪訝そうな表情をされた。

いや、もしかして女の子と思っているかと思っただけよとは言えなかった。

やっぱりドラコは禁断の恋に堕ちたみたい。

「何をしてるっ!!」

これからの恋の行方が上手く行くといいねと手を合わせて拝んでいたら怒鳴られた。

ジャパン式の呪いじゃないからと説得するのには骨が折れた。

ああ、文化の違いって難しいわ。























ハリーに箒が送られてきたと言う。

これもドラコからの情報だ。

「別に箒くらいいいじゃん。そんなに掃除がしたいの?」

「掃除!!ニンバス2000だぞ!!」

とんでもないというドラコの表情に飽き飽きした。

ポッターポッターってどうしてこうスリザリンにはいうのが多いのだろう。

ドラコやスネイプ先生が筆頭だし。

こんな事ならレイブンクローとかハッフルパフの方が良かったとソファーの上でだれていた。

!!レポートはまだ?」

せかす友人にレポートがまだ部屋に置いていたのを思い出し渋々立ち上がった。

「ゴメン。部屋だわ」

「貴女が最後だから持って行って頂戴ね」

ばさりと置かれた闇の防衛術のレポートの山。

またニンニクかと部屋に戻る足が重かったのは言うまでもない。

















コンコン

です。レポート持ってきました」

中から小さく返事が聞こえた。

微かに・・・・だけど。

「失礼します〜」

中に入るとたちまち臭うニンニク臭。

「・・・・グィレ゛ル゛先生窓開げでぐだざい・・・・」

ああ、もう駄目だ。

皮膚呼吸すら止めたくなるようなニンニク臭さにいっそ失神しようと思った。

クィレル先生は慌ててあちこちぶつけながら窓を開けてくれた。

あれは痛いね。

脛に直撃だったよ。

クリーンヒットでバッター二塁ってとこ。

「・・・・・・だだだ大丈夫ですか?」

いや、それは私の台詞ですとは言えなかった。

まだニンニク臭さに酔っていたから。

「だ・・大丈夫です」

鼻が麻痺してきたのでもういいやとレポートを机の上に置いた。

蓄膿症治さなければ良かったと心底思ったなあとさっきの瞬間を思う。

あのシロップ剤嫌いで二か月分貯めて自力で直したんだっけ。

「おおおお茶でもいいいいかがですか?」

その言葉にニンニク入りの紅茶は遠慮しますという言葉が喉から出そうになる。

危ない危ない。

「先生、ファブ○ーズしたらどうですか?」

「ファ○リーズ?」

ああそっかここは日本じゃないからわからないかと思う。

ついでにニンニク臭が消えたら吸血鬼には意味ないかと思い出し慌てて前言撤回。

「いえいえ、なんでもありません。ではレポートも届け終わったので失礼しまーす」

愛想笑いを振りまきつつ慌てて扉を閉めた。

「・・・見つけた」

だからその声は届かなかった。