クリスマスも後一時間で終わる夜更け。

スリザリンの寮では蠢く影が一つ。

「やれば出来るもんだわ」

ぐっすりと眠っていた寮生に朝まで起きないよう保健として苦労して覚えた魔法をかけたのだ。

鼻つまんでも寝返りも打たないし。

「金縛りの魔法の間違いじゃない」

少々の不安には目を瞑り暗い廊下へ出る。

足は真っ直ぐに目的地へ。

通いなれた教室へ。

クリスマスのお祭り後ならと目論んだ通り人一人フィルチすらいない。

きっとミセス・ノリスもクリスマスのご馳走を食べて夢の中。

ようやくついた扉の前で気合を入れるため息を吐く。

ノックをすればギィィと開けられた扉。

「・・・・ミス・!!」

「夜分にすいません。少しよろしいですか」

現れたのはクィレル先生。

頭には少しずれたターバンがちょこんと乗ってる。

慌てて被ったのだろうか。

中に通されると相変わらずのニンニク臭。

すすめられた椅子に腰掛けると単刀直入に問いかけた。

「先生は何か隠してませんか?」

「・・・・何を・・・です?」

どもりもせずに笑って返す目の前の人物は本当にクィレル教授だろうかと思いつつ自分が出した結論を述べた。

「まずはいきなり現れたトロールの件です。あのハロウィーンの日に出たトロールは貴方の管轄だったはず」

闇の魔法に対する防衛術。

その中でもクィレルはトロールが専門分野だとつい先ほどスネイプ先生から聞いたばかり。

「それが何か?」

「いえ。何も言う事が、思うところがなければいいんです」

曖昧な笑みを浮かべる男に挑戦的な笑みを作る。

「もう一つはスネイプ先生が貴方を見張ってる事です」

「彼の方が一部の生徒に疑われているのでは?」

「ええ。グリフィンドール生は、いえ、ハリー達はそうでしょうね」

「でも君は違うと?」

馬鹿らしいという風な言葉にYESと返す。

「あの人は誤解されやすいんです。私の父と何年も付き合える人は貴重ですから」

信じてます、と口にする。

出会ってまだ一年にも満たないけれど自分の父親が婚約者と選んだ人。

無口で無愛想ででも優しい人だ。

答えると同時に空気が濃く、なる。

嗅ぎなれた匂いに記憶が刺激される。

「・・・・あの三頭犬の部屋に行ったんですね」

そう言うとくっくっと喉を鳴らすようにして笑うクィレル。

今までで一番陽気そうで一番不健康な姿。

「君は聡いね。さすがあの方の・・・・ぐうっ」

頭を抱え込んだクィレルに狼狽しつつも弾みで滑り落ちたターバンの影から現れたモノに声を奪われる。

『喋りすぎだ。お前が・・・・・そうか。隣に相応しき者よ』

「・・もうし・・訳ござい・・ませ・・・」

「貴方は誰?」

搾り出した声は酷くひび割れてた。

クィレルが苦しんでる事実がなおさら不安を煽る。

『私は名を捨てし者。お前を見ていると・・・忌まわしき過去と忘れられない妄執が呼び起こされる』

ソレが一言喋るたびにクィレルは震えた。

「何?私と何が関係あるの!?何が起こってるのっ!!」

『全ては終わったときにわかるであろう』

その指輪よく似合っている

何当たり前な事を言ってるんだと思った。

終わった後では遅いのだ。

指輪が目印となるというソレの言葉は耳には届かなかった。

フェードアウトしていく脳裏に誰かの姿が浮かんで消えた。






















「何をうたたねしている」

叩き起こされた。

相手は相も変わらず不機嫌なスネイプ先生。

「あれ?私・・・・」

「試験まで数週間だが勉強は進んでいるかね」

寝ていたのは図書館の机で。

首が寝違えたか少し痛い。

数週間?

顔の下に広げていたノートを見れば確かに知らない事が書き連ねている。

でも思い出せるのは・・・・・クリスマスのテディベアまで。

「アルツハイマーかも」

呆けるにはまだ早すぎると思考を立て直す。

「先生、今日はクリスマスから何日ですか?」

「クリスマスだと?いつの話だ。まだ祭り気分が抜けないのか」

呆れた表情で教えてくれた。

記憶が飛んでいる事実に血の気が引いた。

その間自分は何をしていたのだろうという疑問。

この手が取り返しのないことを起こしてないだろうかという不安。

そして自分の中ですっぽりと抜けた空白の時間が恐怖を誘う。

大事な事を、核心を掴みかけていた気がするのに。

真っ青になったに慌ててスネイプは声をかけた。

「・・・・何だというのだ」

困惑の声に

「先生、私。ここ最近の記憶がないんです」

困惑した声で返す。

ちくりと痛む右手の指輪。

ああ、この指輪の事も話すつもりだったのに。

誰に?

浮かんだ問いに答えはなくて。

ズキズキと痛む現実からしばしの間現実逃避した。