「・・・・・・・っ!」

遠くから声が聞こえた。

鼓膜の震えからではないかもしれない。

ただ聞こえた気がしたのだ。

悲痛な声が。

身体は水底で揺らめくよう。

ゆらゆら揺れて――――――――――

瞼は閉じているのに光を感じた。

温かい水に包まれているように心地がよくてずっといたいと思えるのに。

聞こえた声があまりに悲痛の色を帯びていて。

その人の傍らにいて何かをできるならと思った。

自分を呼んで欲しい、求めて欲しいと思ったかはわからない。

ただ、声の持ち主が誰かのことで悲しんでいる。

その隣に居てあげたいと思ったのは確か。

「悲しまないで・・・・」

の思考は其処で途切れた。



















視界に映ったのは白い天井だった。

「ここ、何処?」

消毒液の匂いが鼻をついた。

背中には柔らかいベッド。

「あら、目が覚めたのね」

マダム・ポンプリーがカーテンを開けて入ってきた。

自分がいる所が保健室であると気付いて差し出された体温計を受け取りながら尋ねた。

「あの・・・私、どうして保健室にいるんでしょう?」

随分間抜けな問いだと自覚していたが口にするとますますそう思えた。

「あなたは空き教室で倒れていたらしいわ」

作業の手を止めずに説明してくれたマダム・ポンプリーの言葉を要約すると

『スネイプ教授がミス・の不在に気付いて空き時間にホグワーツを探してくれた』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・らしい。

「大丈夫なら寮に戻る前にスネイプ教授の所へお礼を言ってくるといいわ」

ここまで運んでくれたのもスネイプ教授ですよという言葉にはいと返事した。

体温計を取って見ると三十六℃ジャスト 。

平熱だ。

ピーコさん、ファッションチェックお願いします。

辛口が面白いんだよね、あれはー。

「お世話になりました」

ぺこりとお辞儀をして保健室を出る。

その足は廊下を踏みしめながら地下室へ向かったのだった。















「先生ー?入りますよ」

ノックなしで扉を開けた。

どうせ授業のサボったことを怒られるんだしと度胸を決めた。

女は度胸だ!!

男が愛嬌ならスネイプ先生は男失格ですなとか思っちゃったのは内緒。

・・・」

「「ノックをしろ」」

言われる言葉を予測して口にすると先生の眉間にまたしても新たな皺が出現。

・・・・・・ミステリー?

「そこに座れ」

言われたとおりソファーへ腰を下ろす。

これは座らなければならないほどのお説教かなと思うと溜息が出そう。

座ると目の前に置かれたのは魔法薬学の教科書。

「補習だ」

「えー!・・・・すいません」

睨まれたしまあ好意と思って教科書を開く。

あまりというか全く受け付けない好意だけど。

それから三十分はスネイプ先生のワンマンショーだった。

マツケンサンバUくらいのサービスして欲しかったかも。


















「終わった〜」

ばしり

本を力いっぱい閉じるとまた睨まれた。

いいじゃないですか。私の本なんだし。

「これに覚えがあるか?」

目の前に差し出されたのは赤色の金属輪。

・・・・・・・・・・・・・・・・・何これ?

どこかで見たなあと記憶を探る。

「これはお前が倒れていた所に落ちていた物だ」

「ああ、金だらいですね?」

「魔法界の道具でペンシーブという」

スネイプ先生の言葉に再度見つめた。

銀色だった色は今は赤く染まっている。

「・・・・・しかも底がないし」

使えないとふざけて環を覗いてみる。

見えるのは苦々しい表情のスネイプ先生。

「それに水を入れたのではないか?」

「入れましたよ?・・・・確か杖を持って覗き込んだ?」

いきなり頭の奥でツキンと痛みがはじけた。

何処かで見た赤い光。

僅かの間に出会って分かり合えた誰か。

「もういい、考えるな!」

肩を掴まれて我に返る。

それと同時に気がついたこと。

「先生、私何処かで誰かにあったみたい」

思い出せないですけど。

そう告げるとますます苦い表情で告げられた言葉。

「これは闇の魔法の類がかかっている」

我輩もその分野に詳しいわけではないが条件が揃えば発動する類だったのだろう。

その言葉にまじまじと金属輪を見つめて見る。

何処かで見た赤い色。

「これはもう何も起きないんですよね?」

「わからん」

身も蓋もない言葉に先生に愛嬌を求めたのが間違いだったと知る。

・・・・・求めてはないけど。

「思い出すまで持ってます」

今手放すと全てが消えそうな心もとない思いがした。

「何かあれば我輩に言え」

そう言ってくれた先生が自分を見つけてくれた事実を思い出す。

「先生、見つけてくれてありがとうございました」

空き教室で倒れているを見たときのスネイプをは知らない。

スネイプも何も言わなかったから。

「絶対思い出します」

そう言っては扉を閉めた。

金属輪を握り締めて。

赤い色が誰かを思い出させてくれる、そんな気がした。