ハロウィンは盛大なご馳走が去年と変わらず机上に溢れてる。
そういえば去年はこの日に三頭犬と遭遇して先生に助けてもらった。
・・・・・・・というか私が吹っ飛ばしたんだっけ。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
こっそり浮かぶカボチャランタンに魔法をかける。
ボゴン!!
カボチャはくるくる廻った後音を立てて大破した。
ありえないよ、これは浮遊魔法であって攻撃魔法じゃないのに。
相変わらずこの魔法は上達していないみたい。
ご馳走を食べている間に思うのはあの日会ったはずの誰かとあの悲しんでいた声の持ち主。
「・・・・う」
頭痛だけじゃなくて吐き気まで込み上げてきた。
流石にパンプキンパイと日本円で30円の梅干は相性が悪かったみたい。
口を押さえて慌ててトイレへと走ったのだった。
「・・・・・すっきりした」
口をすすいでようやくパイと梅干のハーモニーから開放される。
スルメとホームランバーを食べた時並だったと溜息を吐く。
これで酸っぱいもの欲しがったら妊婦さんぽいよねと自分の事を思う。
妊娠時アメリカ人はアイスを食べたくなると聞くけど英国人はどうだろうかとか。
魔法界では違うのかなとか素朴な疑問。
もし自分が妊娠したと思われるなら相手は誰?とか。
「一位はやっぱりスネイプ先生かな?仮にも婚約者って感じで・・」
呟きと共にふと床に視線を向けて慌てて飛びのく。
「水が溢れてる!?」
トイレが壊れた!?
びっくりして回れ左して扉から出てフィルチを呼ぼうとしたら声が聞こえた。
「ここまで私の悪口を言いに来たのね?」
「・・・マートル?」
一番奥から出てきたのは女子トイレに住んでいるという幽霊の少女。
年中泣いてトイレが水浸しだと聞いていたけどここのトイレに住んでいたなんて。
「マートル、あなたはパーティーに行かないの?」
の行ったら楽しいわよという言葉に泣き声は少しだけ小さくなる。
「・・・・・もう行ったわ」
「そうなの?カッコいい幽霊の彼氏ができるといいわね」
第二の人生万歳じゃないと言えば泣き声はすっかり止まっていた。
「あなたって変わっているわね、でもいいこと教えてあげる。私、ここにいてもいい男はちゃんとチェックしてるのよ」
勝ち誇ったような言葉に興味を覚える。
「誰が一番?」
「そうね・・・今はセドリック・ディゴリーがおすすめかしら」
パッフルバフの子よと言われて知り合いがパッフルバフにはいないなあと記憶を辿る。
マートルのタイプは一度確認しておきたいものだと思う。
「昔はもっとカッコいい子が多かったわ。ビルを筆頭にグリフィンドールのウィーズリー家は特にね」
今のパーシーって子はタイプじゃないんだけどというマートルは饒舌に捲くし立てた。
「スリザリンは?」
「スリザリン?そうね、最近は駄目ね。いい年と悪い年の差が酷いのよ。ルシウス・マルフォイは最高だったわ」
何が?とは聞けなかった。
いきなり様子の変わったマートルを見て。
「でもね昔私を殺した子がやっぱり一番よ。でも・・でも私を殺したのよぉ」
マートル!と名を呼んでもマートルの気分は収まらなかったみたいで溢れ出た水を避けて扉から出た。
扉の向こうで泣くマートルの声に少しだけ心が痛む。
殺されたというのは本当のことだろうか。
廊下まで水が溢れ出したので仕方なく廊下を歩き出す。
大広間へ帰る途中、角を曲がったらとんでもないものに出会った。
「・・・ジニー!」
べったりと手についた赤い液体。
ミセス・ノリスが銅像みたいに固まって吊るされていた。
「どうしたの?」
ガタガタと震えるジニーの瞳を覗き込んでびくりと固まる。
−見つけた−
ジニーの瞳は赤い光を灯していた。
「・・と・・とにかく逃げよ!」
手が汚れていたからローブを脱いで渡す。
「それ使って隠して!」
寮の入り口まで送り届けると太った貴婦人に見つからないよう手を隠させて。
手と服を洗うように注意した時には赤い光は消え失せてただ震えるジニーの姿。
「大丈夫よ」
なだめようとしていたら手を強く握られた。
「誰にも言わないで!私じゃない」
その瞳には恐怖の色はあったけれど嘘はなかった。
「わかった。でも落ち着いたら説明はしてね」
こくりと頷くジニーを残して大広間へと戻ったのだった。
去年に続き今年もかぁ。
溜息の後にポーズを取る。
「事件は会議室で起きてるんじゃない、ハロウィンに起きてるんだ!」
カメラがないのが少しだけ残念なだった。
「スネイプ先生・・・っていないか」
ノックの後返事がないので扉を開けた。
中に入ってみるとやっぱり不在。
勿論鍵はかかっていたからいないと思っていたんだけど。
鍵は
「アロホモラ!」
魔法で簡単に開いちゃったし。
流石にスネイプ先生の部屋にピッキングできる犯罪者はいなさそうだと思ったり。
それより以前に物理的に鍵をかけているのを魔法で開けるのはわかるんだけど魔法でかけた鍵をピンで開けれるのかな?
ちゃっかりソファーに座って緑茶を最後の一滴まできっかり注ぐ。
「美味しいなあ」
バタン
背中で大きな音がして部屋の主の帰還を扉が伝えたのだった。
「!何故ここにいる」
うんざりとした表情はきっとさっきの壁の落書きとミセス・ノリスが固まっていたことの犯人が捕まらないから。
「先生はハリーが犯人だと思っているんですか?」
「聞いていたのか!?」
驚いていたような表情にまたかと溜息をわざとついてみる。
「聞いてません。先生もっと視野を広くしないと老眼より先に精神的近視になっちゃいますよ?」
見たいことだけ見て、聞きたいことだけ聞く。
そんな人間は人生が楽しい事だって気がつかない。
「教師に向かって暴言が過ぎると思わないのかね」
疲れて呆れ果てたという表情でどさりと身体を椅子へとかけた。
「そうですか?暴言ていう感覚はないんですけど」
どちらかと言えば本音でトークしてるんだからいいじゃないですか!
朝まで生バトルしますか?
そう言ったが注いだ緑茶をスネイプは黙って受け取った。
「全く・・・・。で何を知っている」
ぎく
「あははははー・・・何のことですか?」
目をきょろきょろと彷徨わせている様は怪しんでくれと言ってるようなモノだ。
「そこまで言っておいて、言うつもりはないんだな?」
「はい」
今は言えません。
詳しい事は何も知らないんでというにスネイプは苦々しい表情。
「全くもって寮監にすら隠し事をするとはけしからん」
深々と溜息をつくスネイプにあっさりと
「女には秘密の一つや二つあった方が魅力的なんですよ?」
と笑う。
「ミステリアスな女ってカッコいいですもん」
にこりと笑う少女にそっと告げた。
「言える時になったら我輩にすぐに言うのだな。今日は送ってやるからもう寮に戻りなさい」
そういって差し出されたのはローブ。
「ありがとうございます」
「風邪を引かれるとこっちが困るからな」
倒れていた少女の姿が瞼から離れない。
駆け寄った時にまだ間に合う。
そう安堵した。
二度目はもう繰り返さない。
そんなスネイプの思いも知らずはローブに顔を埋めた。
羽織ったローブは持ち主と同じ薬草の匂いがした。