ドビーから手渡された手帳とその中に挟まれた手紙。

見覚えがあるその手帳は年季が入った古いもので。

けれど大事にされていたのが一目でわかるもの。

「・・・・・・私のだ!」

いつの間にかなくなっていた手帳がなんでルシウスさんちのドビーが持ってくるの?

やけに古くなった手帳の表紙を撫でてみる。

「やけに古いものだな」

ぽつりと言われた言葉に堰き止めていた疑問が口をついた。

「これ・・・私の手帳です。あのペンシーブとかいう変なのが届いた日に失くしたんです」

パラパラと中身を見て書いた覚えの無い文字を見つける。

「1日目、ダンブルドア校長が若い時も髭があるなんて詐欺。リドルと一緒に校内を廻ったら女の子に無視される?」

「・・・・・どういう意味だ?」

「まだあります。2日目、リドルが無視する。奴は二重人格だ」

黙ったままの先生に私はなおも読み続ける。

「21日目。今日で三週間、そろそろ帰りたい。・・・・・・っ!」

いきなり読むのをやめ頬を染めたを不審そうに見るスネイプ。

「なんでもないです・・・ってこれは私が3週間どこかに・・多分過去に飛んだってことですよね?」

「多分な」

些か不機嫌そうなスネイプに気を止めずはページを捲った。

「・・・・・これを読むことがあるかはわからない。ただ僕は君を見つけてみせる――リドル」

静寂が部屋を包む。

「リドルというのは友人かね?」

その言葉は何か隠されているような気がした。

「わかりません」

いくつもある記憶の襞に隠された記憶。

失われた扉。

促されるようにゆっくりとは手紙を開いた。

浮かび上がったのは自分に良く似た女性。

その女性はこう話した。

『これを読むという名の者へ――――――

私は多分、貴女の祖母です。貴女がホグワーツを去り彼、リドルの元から去って一年後の春、私はホグワーツへ編入しました。

彼はいつも何かを探しているような目をしていました。私は・・・・いいえ繰り言は止めておきます。

彼と会うとき貴女はいくつかの選択をしなければならないでしょう。

貴女の母親は・・・・・・・・スクイブでした。

私は彼と別れた後ある人と出会い結婚しました。生まれた娘、貴女の母親がスクイブだと知りその人は去って行きました。

貴女の母親は魔法使いが好きではありませんでした。

私の夫、あの子の父親にスクイブという理由で捨てられたから。だから貴女の父親と結婚した時は本当に驚きました。

そして貴女を産みました。

貴女は魔法使いだった。それも酷く力の強い。

あの子の心は狂っていたのかも知れません。

貴女に力を奪われたのだと病のせいか繰り返し衰弱しました。

私は貴女が好きではありません。私の運命を選んだのは私自身ですが貴女によって一番選びたかった道の一つが塞がれた事。

そして娘を安らかに死へ贈ってやれなかったこと。最後に貴女が彼の傍を離れた事。

勝手な言い分で酷い祖母だと思うことでしょう。

けれどこれだけは言っておきます。

彼を選ぶときはよく考えなさい。

これは祖母としてではなくかつて彼を愛した者からのお願いでもあります。

一番に彼を思えないときは選ばないで・・・・・・・・』

「どういうことだ?」

「・・・・・・・・・母さんがスクイブ?」

いきなりの情報に思考がまとまらない。

わかったのは自分が母親に愛されなかった事と祖母に好きでないといわれた事実。

「結構・・・キツイですね」

ぽろりと涙が零れた。

ぎゅっと後ろ頭を抱えられ抱きしめられた。

「気にするな・・・・お前はお前だ」

「・・・・・センセっ!」

溢れ出す嗚咽と涙が全てを洗い流してくれれば良い。

抱きとめてくれる腕があったことがただ嬉しかった。

















泣き止んだのは涙も鼻水も出なくなった数時間後。

じっと見つめられて見ないで下さいと視線をそらす。

「今は・・・って常に可愛くないですけど今はもっと可愛くないから見ないで下さい」

スネイプ先生の膝に座り背中に腕を廻されている。

こんな様を見られたらホグワーツに激震が走るだろうなんて思う余裕さえ出てきた。

「そうか?・・・・・・・」

「え・・・?」

呼ばれた名前に顔を向けると振ってきた唇。

触れ合った唇はすぐに離されたのだけど。

「・・・・・・何をするんですか!」

「別にしたいと思ったからしたまでだ」

服のクリーニング代とでも思いたまえというスネイプに

「ファーストキスはクリーニング代程度なんですか!?」

食って掛かる

スネイプが泣いているよりは怒っている方がましだと思ったのは少女は知らない。

「婚約しているのだからその位はいいのではないかね」

一緒に寝た仲であろう?

にやりと浮かんだ笑みに腕を飛び出した。

「ね・・寝たってそこら辺で雑魚寝と変わらないじゃないですか!」

真っ赤になった少女に笑うスネイプ。

「そんな手紙より自分の記憶、自分の知ってる者から聞いた事を信じればいい」

「先生は優しいですね」

ハリーが聞いたらとんでもないというだろうけれど。

「気にしない事にします」

親に愛されない子供は世界にたくさんいる。

少し悲しいけれどそれは自分の責任じゃないのだから仕方ないのだ。

「先生、このページ私が帰ったら見てくださいね」

渡された手帳と扉から出て行った少女。

「・・・・・・・・っ」

手帳には綺麗な字でこう書かれていた。

『今日で三週間、そろそろ帰りたい。スネイプ先生に会いたいなあ』

赤くなったスネイプは全く仕方のない・・・などとぶつぶつ呟いてその手帳を大事に机にしまったのだった。