夜も更けたホグワーツの廊下は寒くてそして静かだ。

ミセス・ノリスが石になってから一時期狂ったかのようになっていたフィルチも落ち着きを戻しつつある。

それでも落書きされた場所をぐるぐる廻っている。

まるで犯人は犯罪を犯した場所に帰ってくるという刑事モノの定説を信じてるみたいに。

犯罪者は北へ逃げるというのも定説らしいが。

耳へ入るのは自らの足音と絵画達のいびきや寝言。

そしてときおり窓を叩く強い風。

廊下を足早に歩くのは人に見つからないためと寒さと不気味さから。

スリザリンの継承者が襲ってきたらという不安よりもマグゴガナル先生と廊下で出会うほうが恐ろしい。

マグゴガナル先生のお説教とスネイプ先生の不機嫌付きバリューセット。

サイドメニューは眉間の皺で。

おまけがついてもいりません。

大広間に戻るとそこは閑散としていて。

当たり前だがとっくの昔にパーティーはお開きとなっていた。

そこにはご馳走もなければ生徒もいない。

ちらりといつも不機嫌教師がいる席へ視線をやってから踵を返す。

スリザリン寮へと足を向けるため。

そうする前に何かのいびきが聞こえた。

「何?」

好奇心につれられていびきの先を見つければホールの反対側の物置に眠ってるジャイアンズ。

・・・・でなくクラッブとゴイル。

バケツやモップのベットがいつからお気に入りになったのだろう。

そんな事を考えながら気持ちよさそうに寝ていたので開いてた扉もしっかりと閉めてやった。

これで彼らの安眠は守られるだろう。

良いことをしたと足取りも軽く改めてスリザリン寮へ向けて歩き始めたのだった。

















地下牢への入り口へ足を踏み入れようとした時大きな足音が聞こえた。

近くにあった甲冑の後ろへ隠れたのはなんとなく。

バタバタバタ

髪の赤いクラッブと鼻の伸びたゴイルが目の前を走り抜けた。

日頃の鈍重さは微塵もなくて押さえ切れない好奇心によっては静かに走り出した。

二人はどんどん縮んでウィーズリー家のロナウドという男の子とハリーになった。

そして先ほどがきっちり閉めた物置の扉の前に靴を仏前に供えるように置くとまたしても走っていった。

「どこまでいくんだろう?」

はドンドンと叩かれている物置を無視して二人の後をつけて行った。

階段を上り終えると二人の姿は消えていた。

「あれ・・・・ここは」

嘆きのマートルのトイレ前だと思ってそっと中を伺うと当たりだった。

「医務室に連れていって・・・・」

そういうハリーの言葉が聞こえた。

だれかマートルのトイレで溺れたのかなあ?

それとも転んで歯をタイルで折ったとか?

耳を扉に当てて聞いていたら間が悪いことにピーブズがやってきた。

「おおぅ、これはスリザリンのじゃないか!?そんな時化たトイレの扉に耳をつけて何を聞こうとするんだい?」

しぃー

口に指をあてて静かにしてと頼むがこの悪ふざけの好きな幽霊には逆効果だった。

「何をしてるのかなー?誰かいるとか?」

『ピーブス・・・・私の言葉でも静かにできないか』

どこからともなく声が聞こえた。

ピープスはしゃきりと背を伸ばし震えた声で答えた。

「こ・・・これは血みどろ男爵閣下!どこにおいでです?」

『お前には関係なかろう・・・。静かに去れ』

「は・・・・はいっ」

慌てて逃げるように去ったピーブスの後にふうと溜息をつく。

「腹話術の練習しててよかった」

ありがとう一○堂!

ブームの時の練習が役に立ったと思いながら耳を再び当てた。

「みんなあんたの尻尾を見つけて、なーんていうかしらー!」

マートルのゲラゲラ笑う声と共に出てきた三人組。

「・・・・っ痛・・・・」

勢いよく強打した鼻の痛みで滲む視界の端、ハーマイオニーのローブの裾から見える紐に視線が止まる。

「・・・・・・にゃんこ!?」

三人はに気がつかないまま去っていったのだった。

















キィィィィ

開けた扉の向こう珍しく機嫌の良さそうなマートルがいた。

「あらあなただったの?あの子猫かと思っちゃったわ」

うふふと笑うマートルは私はちょっと出かけるからといって奥のトイレに消えていった。

「えっと・・・留守番してろってこと?」

帰ったらまずいかなあ。

どちらかといえばこんなトイレで留守番よりは医務室に行ったらしいグレンジャー嬢の尻尾を愛でていたかった。

そんな猫スキーな思考を断ち切って手を洗おうと洗面所へ向かう。

さっき物置の扉を触ったからと蛇口を廻しても水の気配は欠片もない。

「壊れてる・・・・」

フィルチさん、こんな所こそ修理すべきでしょうと嘆いているとばさりと懐へ入れていた手帳が落ちた。

「あ・・・!」

覚えているのは落ちた手帳が勝手に開いたこと。

そして溢れ出た光。

赤い光に包まれて意識を失ったこと。













「いらっしゃい」

その声は何かとても渇望と絶望と希望とその他の色々な感情の全てを集約した声に聞こえた。

「そしておかえり」

ゆっくりと瞼を開けるとついこの前会った青年が立っていた。

「・・・・・・リドル」

口を出たのは手帳にあった名前。

失われていたものの欠片。

「君が僕と会うまで少しだけ記憶を消させてもらったよ」

そう告げる彼の瞳は50年という年月が感じられない。

「なんで今も・・・・」

「僕は君が帰った後魔力の欠片を使って封印された過去の僕の一部だよ」

頭のよく切れる彼はの言葉が全ての質問の形をとる前に応えていた。

「会いたかった」

にこりと満面の笑みで言われてはやや驚く。

そんな風に感情を露わにすることが出来なかったししなかったのがリドルだったのにと。

「君は特別だよ」

またしても心を読んだかのように応えたリドルは50年待ったんだよと付け足した。

「私はもっとおじいさんのリドルと会うと思ってた」

頑固で偏屈ででも知性的な老人。

魔法省のお偉方とかになっていそうだと思っていたのに。

「生きてる・・・・よね?」

「ん?生きてるよ。彼は」

リドルは彼、と表現した。

もその答えで少しだけ理解した。

リドルであった人は50年の年月を経ての知ってるリドルとは少しずつ違う人となったことを。

「リドルは50年間何をしてたの?」

「君を待っていたんだ」

延ばされた手。

延ばされるのを待っている手。

どうしてこんなにもスネイプ先生を思い出すんだろう。

「僕の手を取ることを考えて欲しい」

期限は少ししかあげられないよ。

「嫌だと言えばどうなるの?」

「そのときになればわかるよ」

そう告げてそっと微笑むリドル。

「またね」

今度はずっといるために。

用意しておくよ、そう聞こえたのが最後。

はゆっくりと覚醒した。

マートルのトイレで手帳をしっかりと握り締めていたことに気がつく。

去っていくの後ろで蛇口の蛇が赤く光ったことには誰も・・・・マートルでさえ気がつかなかった。