リドルに再会した日からは手帳を通して会話をするようになった。
会話といっても筆記。
しかも書く内容によっては魔力を吸い取られるというルールつき。
リドル曰く「僕は過去の残像だから」・・・・だそうである。
スーファミのゲームで「残像だ」と技をかわす某キャラクター。
リドルには彼のような第三の眼はないのだろうかと自分の額へ手をやった。
そんなことを考えるのも目の前にある殆どが真っ白な羊皮紙のせい。
スネイプ先生が山のように出した課題が手に付かず手帳で喋っていたら身体がダルくなって思い出に捕らわれる。
昔から家には母の写真は一枚だけだった。
マグルの写真で今ではどうしてマグルの写真一枚だったのかと思う。
その写真の母親は笑っていた。
父親は自慢げに僕が撮ったんだと言っていた。
そして私も小さい頃はこんな笑顔を向けられていたかと思ったのものだ。
今は違ったのだと知ってしまった。
「なんで私は愛されなかったのかな」
ポタリと落ちた涙が手帳に染みた。
慌てて拭くとそこには書いていないのに文字があった。
『真実を教えてあげるよ』
目の前がぐにゃりと歪んだ。
机の上の手帳が僅かに光って辺りは闇へと包まれた。
暗闇の中声が聞こえた。
『君は?』
『私は・・・・・・』
リドルと自分によく似た少女。
映像はどんどん過ぎ去りリドルは青年に少女は女性へと成長していた。
『君は・・・・・とは違う』
『リドル・・・・』
『さよなら・・・・・・・』
杖をその人の額に当ててリドルは低く呪文を唱えた。
女性はゆっくりと倒れていった。
くるくると廻りの様子が映画のように変化していく。
走馬灯ってこんな感じだろうかと思っていたらいきなり止まった。
『この子の名前は決まった?』
にこりと笑う今より若い父は隣の女性をいとおしそうに見つめ優しくその僅かに膨らんだお腹を撫でた。
『ええ、。っていうのよ』
綺麗な名前でしょう?
にっこりと笑うその人は父の手の上からその細い指で自らの腹を撫で何かを囁いた。
遠くなる声と姿に叫んだ。
「お母さん!」と。
通り過ぎた過去の出来事でも今見たものが嘘であったとしても望んだモノが確かにあった。
「今のが本当のこと」
近くでリドルの声がした。
「この前、君へ送られてきたものとどちらを信じる?」
試されているのを直感した。
どう探しても出てくる答えは一つだけだった。
「前のは私の祖母・・・・からだった。私はそれを信じた。だって父さんは何も言わない。
ただ写真を見て笑うんだもの。でも今のを見た後では少し違うわ」
「そう」
リドルの声は何の感情も写してない。
「単に自分に都合がいいからじゃない。愛された子供って思いたい自分は確かにいる。でもそれとは違う」
自然と背筋が伸びた。
この一言は信じられる直感。
「だってリドルは友達だもの」
その一言で暗闇の中で彼が、リドルが笑ったのを感じた。
「リドルは私の友達。あの手紙が本当に血の繋がった祖母が送ってきたものだとしても優しい嘘はつかない」
優しい嘘なんてつかなくてきっと黙って隣にいてくれる。
慰めてくれるはず。
そう思った。
スネイプ先生みたいに。
ゆっくりと暗闇に灯りが灯る。
リドルの表情がそれまで嬉しそうだったのに「スネイプ先生」という呟いた言葉で不快気になる。
「僕がいない間に虫がついたみたいだね」
は誰にも見つからずスネイプの部屋へと辿り着く。
ノックを二回すれば不機嫌そうな声。
「失礼します」
―――――――とも言わず入ってきた少女にスネイプは小言を言おうと口を開きかけて差し出された羊皮紙に驚き言葉を失くす。
「もう・・・・・出来たのかね?」
レポートはグレンジャーとて今夜一晩はかかるであろう内容で一般の生徒なら早くて二日。
遅ければ一週間かかってもおかしくないと思っていたのだが。
夜中に出歩いてはいけないと注意をしようとスネイプが口を開いた矢先爆弾は落とされた。
「これはついでです。―――――――婚約解消することを伝えにきました」
それだけです、用は。
そう言って扉の向こうへ立ち去る少女の背中をスネイプは止められなかった。
背中が彼を拒絶していたから。