「なんで私が――― 」

些かブツブツと文句を言ってしまうのは仕方ない事だろう。

本当なら歩いて五分の学校に通っていたのだ。

中学校では憧れの制服を着るはずで。

高校では隣のお兄さんみたいなカッコいい彼氏ができるはずだったのに。






「いきなり現れたおじさんが婚約者って・・・・」






はあと吐いた溜息はことの他大きくてスネイプの耳にも届いてた。

おじさんという言葉に腹が立たない訳でもなかったが歳の差を考えると怒るのも大人気ない気がした。

少女にとっては自分は父親と同じ歳なのだから。






「仕方なかろう。我輩とて本気にしてなかったのだが」

友人である少女の父親が冗談のようにいうことがいつも本気だった事を

すっかり(希少価値の薬草のおかげで)忘れていたのだった。








「じゃあまだ法的には無理だけど婚姻届書いておこうか」

そういって出されたのはイギリスの――――書類。

なんでも昔から『花嫁の父』に憧れていたらしい彼は一人娘を嫁に出す事が凄く楽しみであるらしい。

「それにセブルスがお婿に来ても可愛くないだろう?」

言い得て妙な事を言った父のせいではそれ所ではないのに吹き出してしまい

苦虫を噛み潰して飲み込んだような不機嫌そうなスネイプの一瞥を受けてしまったのだった。




そして婚姻届をさあさあと嬉々として差し出す父親を置き去りに二人はイギリスに行くことになった。

の母親はもういない。

幼い頃死んだという。

父方の祖母が亡くなり海外へ仕事上出かける父親の留守をは一人待たねばならなくなった。

「だからホグワーツに行った方がいいんだ」

僕も休みの間はいられるようにするけれど。

頼んだよという友人に不信感を募らせたのもまた事実。

「あ、手を出すのはまだ駄目だからね」

「馬鹿をいうな」

そうはぐらかされてしまったけれど。












「で、先生の家はどこなんです?」

イギリスの町はとても賑やかで人込みに溢れていた。

「こんなに車が多いんじゃあ肺が悪くなりますよ」

埃の舞う道路にげほげほ咳き込む。

「東京よりはましだろう」

「あいにくと家は田舎でしたから」

お互い憎まれ口を叩きつつ歩いた。

「先生は何を教えてるんですか」

「魔法薬学だ」

魔法薬学。

なんとなくイメージは白雪姫の毒林檎。

もしくはヘンゼルとグレーテル。

あれはただの高カロリー料理だっけ?

「毒林檎ですか」

確かにこの真っ黒ずくめなら悪役が似合いそうだ。

些か怪しすぎて騙しにくそうだけど。

「・・・それはただの御伽噺だ」

「じゃあ何つくるんですか。イモリの黒焼き?」

「教科書を読め」

相手にできないとばかりに言われてああそうですかと呟いた。

先行きはどうも隣の人と同じで真っ黒だろうと確信した。









「ここだ」

指し示されたのは小さな家。

ロンドンから郊外へ少し行った場所にその家は建っていた。

「おじゃまします」

恐る恐る入った。

だって何が出るかわからないから。

「何をしている」

不審そうに言われて気がついた。

自分が靴脱ごうとしていた事に。

外国じゃあ土足が普通か。

「習慣って怖いですねえ」

あははと笑ったけれど先生はにこりともせずに中に消えていった。

この不親切!!

きっと日本人なら通知表に『もっと協調性を持ちましょう』と書かれるタイプだ。

私の場合は『忘れ物をなくしましょう』だったけど。

「この部屋を好きに使うといい」

与えられたのは日本で言う六畳よりやや広い部屋。

先生が杖を一振りするとシンプルなベットと机、あと鏡などが現れた。

「明日は必要なものを買いに行く」

さっさと寝る事だなと立ち去る後姿に顔を顰めた。

お礼ぐらい言わせてくれたっていいじゃない、と。

その日の夢は勿論悪夢でした。