「はあー・・・・なんで出来ないんだろ」

タイムターナーでマグル学を受けた後、ユウコは暇になってしまった。

それもこれも占い学でハリーがいつ死ぬかという風にヒソヒソ話されてて馬鹿馬鹿しいと腹を立てたのが原因だ。

そのせいでうっかりタイムターナーをひっくり返し損ねてしまい気付けば放課後にまでなっていた。

なので一限目の授業までひっくり返したのだが二限目以降は放課後まで隠れる羽目に陥ってしまった。

寮に帰るのは得策でない。

フィルチに見つかりでもすれば私が二人なんてお茶目な双子(ウィーズリーズに非ず)を地で行ってしまう。

占いに傾倒しがちなグリフィンドールの女子が見たらドッペルゲンカーでユウコ・クーガーは死ぬわ!と宣言してくれそうなものである。

じっちゃんの名にかけて!!

候補として挙がったのはスネイプ先生の部屋だがあそこで一人先生が帰って来るのを待つのもなんだか嫌だった。

ルーピン先生に訳を話してボガートと対決をしたいと思ったが彼もまた授業のようでいなかった。

授業中であるしあまりホグワーツ内をうろちょろ歩くのもなあと考えた末にフィルチの管轄外でありそうな学校の外へと足を運んだ。

程よい大きさの石を蹴りながら何度もフラッシュバックする映像を思い出す。

赤い映像。

べったりと赤の、赤だけの風景は異様だ。

ペンキでも零したのかと思ったがそれでは何故恐怖の対象としてボガートが真似たかわからない。

第一怖くもなんともなかった。

胸の奥がズクリと痛むほかは。

苦しくなったのはタイの締めすぎだとそんなことじゃないのは十分承知でタイを解いてポケットに突っ込んだ。

なんだか苛々してしまって足元の石に当たる。

「ボガートとスネイプ先生の馬鹿っ!!」

関係ないスネイプ先生を罵ったのはなんとなく、である。

石は気持ちいいくらいよく飛んだ。

飛んで、そして地球には重力があるのを思い出したかのように落ちた。

草むらに。

「ギャワン!!」

「え!?」

悲鳴が聞こえて慌てて近づく。

がさがさ

石の落ちた茂みが動いた。

覗いたのはギラリと光る瞳。

「・・・・わんちゃん?」

その時はもうハリーに予言されてたグリムなんて言葉はとうに消えててふかふかの毛並みに触りたいなんて考えてしまった。

「待て待て私!狂犬病の注射打ってないかも」

いくら日本で飼い犬は登録と注射が義務化されていてもここ英国では、特に魔法界ではわからない。

「・・・・ま、いっかー!」

噛まれたらスネイプ先生を当てにしようと思ってそっと手を延ばしたらへたりと垂れたままの尻尾。

そういえば何処となく毛並みも悪いような。

「もしかしてお前、お腹減ってるの?」

ぴんっと尻尾がたって千切れるというくらい振られる。

こうまでアピールされると致し方ない。

期待を裏切れるほど悪人でもない。

「これ砂糖も少ないし多分虫歯にならないと思うよ」

差し出したのはローブのポケットに入れていたビスケット。

ペット用ではないがチョコレートやキャンディよりはいいだろう。

少し離れた場所に置いて食べるのを見ていると貪る様に食べている。

石が当たったとしてもそこまで当たった場所は悪くなさそうでほっとする。

「ごめんね。何かいるなんて思わなかったんだけど・・・お前飼い主はいないの?」

ワン!

威勢の良い返事に笑う。

「それだけじゃ足りなさそうだけど・・・部屋に来る?」

来たら食べ物あるよと誘うと耳まで立った。

しかしホグワーツに持ち込めるペットは猫とフクロウとカエルのみ。

「じゃあまずは綺麗にしよっか」

人の少ない廊下を選んでまずはトイレへと向かったのだった。




























ギャワン!

「ごめん、冷たいよね」

二度目の悲鳴をあげさせてしまったなと反省する。

怪我の部分は単なる打撲で冷やせば数日で直るだろう。

けれど、どうしようと石けん片手に戸惑う。

蛇口からはふんだんに洗える水が出るのだが冷たい。

動物といえども辛いだろう。

でも汚れたままの犬を部屋に上げるのはちょっとだけ蚤とか蚤とか蚤とか心配だし。

お風呂というかシャワールームは使えない。

生徒がいるから使えるわけがない。

けれど長時間という程でもないが外に居た自分も些か寒気がしていた。

「あら、犬ね。私あまり犬は好きじゃないのよねえ」

ふわふわと現れた幽霊はこの女子トイレに住み着いてるマートルだった。

「マートル!何処かお湯が出てこの子をこっそり洗える所知らない?」

「あら。うふふふ、知ってるわよ。じゃあねえ取引しましょ」

少し驚いたようなマートルはくふくふと嬉しそうというか恥ずかしそうに笑った。

「取引?私に出来ることなら努力してみるけど」

「ハリーの写真が欲しいの」

キャー言っちゃったとマートルが騒ぎ立てたら奥のトイレからゴボリと水が溢れた。

「後で持ってくる!」

道順を聞いた途端叫んでトイレを飛び出した。

トイレを壊したとフィルチに叱られるのを免れる為に一人と一匹はすばやくその場を後にしたのだった。


































「ここかあ・・・・凄い広いー!!」

マートルに聞いたのはある場所にある大浴場だった。

何でも知る人が少ない場所だという。

「じゃあ洗ったげようか」

するりと服を脱ぎ捨てて見ればギャワンと騒ぎ立てられる。

「何よ。男の子だからって私と一緒に入りたくないっていうの?」

失礼なと思いつつあんまりに鳴くのでセーターを脱いだ格好で靴下だけ脱いで早々に洗う。

ザバリと湯を掛けて大きめのタオルを掛けて放り出すと犬はブルブルと身体を震わせている。

「じゃあ私もちょっと入るから其処にいてね」

ワン!

鳴いた犬の声に笑いつつぽいぽいっと服を脱ぎ捨てて久々の大浴場を満喫したのだった。
















「こういう時誰かに見られるのがお約束よね~。ありえないけど」

だって此処は普通の生徒なら知らない監督生専用風呂だから。

「特別待遇はいいよね~・・・一般生徒な私は無関係ですが」

気持ちのいいお風呂というのは独り言が多くなるよねとゆったり浸かっていたら

キャン!

鋭い泣き声がして慌てて出る。

「ど、どうしたのっ!」

一応タオルで前を隠していてたが其処にある光景に口から悲鳴が出そうになる。

「キャ・・・・むがっ!!」

自分の手より少し大きくて骨ばった手のひらが口を押さえた。

「静かにっ!叫んだら誰か来るから」

むがむがともう叫ばないからとジェスチャーして手を下ろさせる。

「あ、僕はちょっと出てるよ」

逃げないからとくるりと背中を向けて出て行く。

黒ワンコは隅に小さくなっていて恐がっているのかわからないけど、見ないように気を使っているようにも思えて面白い。

「あー・・・お約束にも見られちゃったか」

鍵掛けとけば良かったなと思いつつ慌てて服を身に着けたのだった。




















「えっと驚かせてごめんなさい」

ぺこりと謝ればこちらこそと謝罪された。

「僕も悪いんだ。此処は監督生の浴室だから友人にこっそり聞いて来たんだけどね。女の子が入ってるとは思わなかったよ」

名前はセドリック。ハッフルパフのセドリック・ディゴリーと名乗る姿は苦笑しつつだがその笑顔は何処か憎めない。

普通なら痴漢よぉーと言いつつ袋叩きだろうけれど。

一人では袋叩きは難しいしなと目の前の少年を観察する。

爽やかな感じは好印象でセドリックという名前も何処かで聞いたようなと必死で思い出すが浮かばない。

「入る気はなかったんだけどこの子を洗っているうちに久しぶりにゆっくりお風呂に浸かりたくなっちゃって」

「次に入るときは女の子の所か、・・・それか鍵を掛けた方がいいよ。可愛いから」

さらりと言われた言葉にうわーと思う。

日本人にはまず無理な褒め殺しテクニックは只者ではない!!

天然たらし体質なのかと思うがその頬は微かに赤くてつられてこっちまで照れてしまう。

「・・・っ!あ、あの私はユウコ。ユウコ・クーガーでスリザリン生だから・・・あのっさっき見たので動悸・眩暈・吐き気がしたら文句言って頂戴」

じゃっと訳のわからないことを言って黒ワンコを連れて脱出したのだった。

「あー・・・・照れるってば!!」

廊下で叫んだ少女に黒犬は慰めるようにワンと鳴いたのだった。





























ガツガツガツガツガツ

皿まで食べるんじゃなかろうか?

そんな事を心配してしまうほどの勢いだ。

一応最初に与えたのはミルクと薄いオートミールでその後に消化の良さそうなものをチョイスして現在に至る。

部屋が一人で良かったと苦笑して最後にと取っておきのご馳走を出してやる。

「これなーんだ!!」

ワンワン!!

大興奮、である。

それもそのはず普通の犬なら大好物の肉を用意したせいだ。

「チキン、骨のない部分にしたけど気をつけて食べてね」

ハフハフと尻尾を振る犬の背中を撫でてやる。

ブラシを掛けたせいか毛並みも少しは良くなった気がする。

「私はユウコ・クーガーつていうの、貴方は?」

食べ終わった黒犬は何故だか驚きと困惑のような瞳で見上げてくる。

「名前はないの?勝手に付けちゃっていいかな?」

フリーズ状態から解き放たれたらしい。

尻尾は盛大に振られている。

「セブルスってのは・・・・・・嫌なのね」

真っ黒だからと思い出すあの人の名を出せばつんと背中を向けられた。

良い名前だと思うけど。

自分が呼ばない名前だし校長先生くらいしか使ってないからいいかなと思ったけど。

「リドル・・・は猫だしなあ。黒、クロ・・・・ブラック・・・は単純かなー」

うーんと悩むユウコの前にはハタハタと振られる尻尾。

大きい足は肉球が当たり前だが付いてて触ると結構気持ちいい。

「お前ブラックがいいの?」

見つめてくる瞳が頷いた気がしてじゃあブラックでいいやと命名したのだった。

「ちょっとブラック!!あんた何私のタイ噛んでんのっ!!」

この犬なんだかアンチスリザリンみたいです。

「あーあ、そんな所までスネイプ先生にそっくりかあ」

の一言でギャワンと鳴いてプルプル震えてたけど。

ま、先生はアンチグリフィンドールなんだけど。

全く変な犬を拾っちゃったよねと言うユウコの思考にハリーを狙う"ブラック"という男の事は綺麗すっかりさっぱりぽんと消えていたのだった。