男なら麺を残すな、名を残せ!!

じゃあ女は何を残すのよッ!!

少女は旧体制過ぎる差別発言に拳を握り締めた。
















起きた時にはもうシリウスの姿はなかった。

もしかしたら、と犬の姿でいるかもしれないとベッドの下やゴミ箱まで覗いたが姿があるはずもない。

「おーい、チキン・・・はないけど昨日の残りのスクランブルエッグなら・・・」

もう悪くなってると思うけど。

勿体無いけどお腹を下すのも嫌でゴミ箱行きだ。

杖は―――あった。

無造作にベッドの隣のサイドテーブルに置かれていた。

「持って行っても良かったのに」

本心からの言葉だった。

彼は目的を果たすために此処に来たのだ。

彼がハリーを親友の息子の話をどんな瞳で聞いていたかをは知っていたから。

「目的だけでも教えて欲しかったなあ」

一宿一飯の恩を返せと次に逢ったら言ってやろうと心に決めて制服の袖に腕を通したのだった。













人気の無い廊下にの姿がある。

ハロウィーンは毎年ロクな事ないとホグズミートから一足先に帰ってきてしまったのだ。

足は自然と地下室へと向かった。

「入りますよー」

最近お邪魔してなかったし何か変わっているだろうかと覗けば部屋の主は微塵も変わってない表情を向けてくれた。

多分、一ミリも皺の間とか変わってないのではなかろうかとは定規を持ってないことを後悔する。

彫りの深さとか睫毛の長さとかメジャーリングしたら楽しそうだとか不埒なことを考えつつ主とは違って幾分変わっているものに近寄る。

火に掛けられた鍋が其処にはあった。

「珍しいですね、これはなんていう毒薬ですか」

「毒ではない。が常人が飲めば毒にもなる薬だ」

薬とはそういうものだがという言葉にそれはそうですねと頷き返す。

毒を薬としてしまうのも人間の知恵である。

毒としたままにするか使い方を考えて薬とするか。

それはきっと医療に関する者たちの努力の結晶。

しかしゴボゴボと鍋一つ分もこの薬を煎じるなんてインフルエンザの特効薬か?などと思う。

苦そうで不味そうな薬は多分幼児用のココア味のゼリーとか使わねば飲めそうに無い。

これならまだ蓄膿症を患った時分に飲まされた甘ったるいシロップ剤の方がマシではなかろうか。

「我輩はこれを届けに行く。座っていろ」

帰れと言われなかった事にほっとしつつも届け先が気になった。

愛のお薬配達人に教授自らなるとは!!

な心境だ。

恐いものみたさという奴である。

「お届け先は何処ですか?」

「ミスタ・ルーピンだ」

毒でも入れてそうな表情にやっぱり付いて行きますと慌てて背中を追いかけたのだった。
















「ハリーったら絶対先生が毒を盛ったって顔してましたね」

こっそり扉から渡す様子を見ていたはソファーで寛ぎながら笑った。

家政婦は見た!の気分であったのだが違ったらしい。

「ふん、我輩が手を下すというのならもっと狡猾にやる」

完全犯罪を宣言されてはなんとも返しようも無い。

反対に言えばこの薬を飲んでいる間はルーピン先生には手を出さないという意思表示か。

手を出すだったら浮気宣言されたようでなんだか嫌だなとか全く素直じゃない人だなあと苦笑したのも束の間だ。

「ブラックが近くに現れたという。気をつけたまえ」

お前は危険に飛び込む素質があるようだからなと言われては何もいえない。

ましてや、つい昨夜まで彼を匿っていたなんて!!

誤魔化すためについ先日の日本からの届いた映像を口に出した。

「先生ー、男なら麺を残すな名を残せってどう思います?」

「は?」

いきなりな話題転換だったかなとちょっとまずったかもと思っていたらなんだか教授はふむと考え込んでいる。

ここ辺り律儀だなと感心すると同時に父親に漬け込まれている原因ではなかろうかと思う。

自分の父親に対して漬け込むという表現を使ってしまう自分も自分だけど。

「麺を残すなという辺りはよく分からないが要するに好き嫌いはするな。という事であろう」

偏食を是正するのはいいのではないか。

まあその後の格言は納得できるがという言葉にそんなものかと頷いた。

どうも男の人というのは功名心が強いようである。

まあそれが自らを高めるのであれば文句は無いのだが。

「でも男に限る事ではなくないですか?」

差別発言もいいところだ、この男女共働きの時代に!とちょっと憤慨したんですよと言えば仕方ない奴だと笑われた。

「女は名じゃなかったら何を残すんですっていう感じですよね」

つい思っていた考えを問えば暫く考えていたスネイプ先生は少しだけ顔を赤らめていた。

何か思いついたらしい。

「何考えたんですか?」

「何も。さっさと帰って寝たまえ。危険にくれぐれも飛び込むな」

「あははー、信用無いんですねえ」

幾分慌てた様子にごめんなさいと謝りつつも元に戻ってしまった話題を誤魔化した。

嗚呼、私ってば危険にもう飛び込んじゃってますなんていえないよねー。

笑って誤魔化した後はお茶を濁して早々と大広間へと向かったのだった。

「・・・子を残せなど誰が言えるかッ」

彼女が帰った後、一人悶々と思いついてしまった馬鹿な内容に振り回されてしまったスネイプが居たことには全く気付かなかったのである。