全くいい気分だった。

毎年ハロウィンはとんでもない事件に巻き込まれる。

自らだけならともかくあの少女までも。

どちらかというと自分から首を突っ込んでいるのでは?と思うくらいにはは事件に巻き込まれる。

その上、好奇心が旺盛だ。

それらは厄介なことだと思いこそすれスネイプには迷惑だとは思わなかった。

困ったものだと思うものの切り捨てようとは思わない。

思えないのだ。

自らに躊躇いなく伸ばされる腕。

惜しげもなく笑う姿。

教師と生徒という壁があるはずだがスネイプに対して軽口を叩ける屈託のなさも。

まだまだ子供と思っていればいつのまにか大人の顔を覗かせる不思議な少女。

たわいもない時間を過ごす度に積もりゆくのは好意ばかりで。

幸せというには淡すぎる気もするがそう呼んでも偽りではないような気分である。

渡された些細な贈り物でさえ嬉しいと思う事を自らに許していた。

そんな少々寛いだ気分だったのだが。

「侵入者が出たぞー!!」

暖炉の炎がボッと燃え盛り男の声が叫んだ。

暖炉は魔法界での連絡のシステムをも担っている。

そしてこんな風に連絡が来ると言う事はホグワーツに侵入者が出た、ということである。

多分、それはディメンターか。

それとも。

「チッ」

折角のいい気分が台無しだ。

そういう思いを込めてスネイプは大きく舌打ちをして椅子にかけていたローブを羽織る。

懐には杖。

「全く・・・毎年厄介なことだ」

扉が力いっぱい閉められて足音が遠ざかっていく。

地下室では主の居ない部屋の暖炉が主の帰りを待って轟々と炎を燃やし続けていた。





















スネイプが自室から飛び出す数刻前の大広間。

「今年は何もないといいよねー」

もぐもぐとハロウィンのパーティー料理を食べつつは呟いた。

それは毎年この時期になると降って湧いたような事件に巻き込まれるからだ。

先程までルーピンの部屋で特別補修授業のお礼としてホグズミートで入手したお菓子を持ってお茶を成り行きでしていたら

鬼のようなスネイプに大広間近くまで引き連られるように連行されてしまったのだ。

別に悪いことなんてした無いのになと思いつつもルーピンに菓子を渡した後にスネイプに会いに行くつもりだった少女はさっさと教員席に座ってしまった男を見て溜息をついた。

「これ渡そうと思っていたのに」

袋の中身はホグズミートで売られている品である。

渡せなかったので仕方なくポケットへとなおし込みテーブルへと付く。

スリザリンの席にはもうほとんどの生徒が付いていてその中には大仰な包帯に傷を巻かれたドラコの姿もあった。

「魔法界の治療でまだ治らないの?」

ハリーの骨さえ数週間も掛からず治ったのにと思い言えば隣から冷たい声が返って来た。

「酷いわ!ドラコはとっても酷い怪我を負ったのよ」

パンジー・パーキンソンの言葉にスリザリンの生徒の半分は頷き、一部のものはニヤつきながら頷いた。

グリフィンドール贔屓でもあるハグリットが気に入らない者たちだろう。

「名誉の負傷ってわけ?狡猾と卑怯はイコールではないと思うけど」

肩を竦めて答えれば真っ赤になったドラコ。

馬鹿じゃないのと言いたげなパンジー達。

「お前はあの馬鹿な大男の肩を持つのか」

苦々しそうなドラコの声に首を横に振る。

ハグリットはとてもいい人ではあるけれどそれでもドラコの軽率さを考えて授業の内容を考えるべきだったと思うから。

「私は単にそういう事に興味が持てないだけ」

そう言ってドラコを見つめればフンと不貞腐れたような態度が返って来たのだった。





















「なんか騒がしくない?」

は談話室にいた。

皆が帰ってくる一足先に戻ってきたのだ。

すでに贈り物は贈り主に届けていたので後は無事に今日の日を終えるだけ。

そう思っていたのだが。

いつもなら絵画達も静かな時刻なのに今日はハロウィンのせいか何かヒソヒソと絵画の中、しかも片隅で話している。

怯えているような様子にどうしたのか聞けばお喋り好きなご婦人が恐ろしげに、けれど内心楽しげに話してくれた。

「出たのよ、あの寮に」

「何が?」

普通ならゴーストが出たとかだろうが此処は魔法界でホグワーツ。

出るならゴーストより生きている人間のほうが恐ろしいようだ。

「ヴォルデモート?」

「ヒィ」

名前を告げただけでご婦人は信じられないといった表情をした。

「駄目よ、例のあの方と言わなければ」

スリザリン出身らしくあの人、では駄目なようだ。

「で、何が出たの?ナマハゲ?」

「なま?いいえ。シリウス・ブラックがグリフィンドールに現れたの」

ブラック家の・・・。

ざわざわとざわめく絵画達。

そんな声に慌ててローブを手繰り寄せる。

「ちょっと見てくる」

たった一言告げて風のように去った少女の後姿を絵画達は呆気に取られながらもスリザリン寮が減点などされることのないように誰にも告げ口などしなかった。


















「おーい・・・・クロー」

ブラックーと誰もいない廊下で小声で探す。

夜半である。

こんな所を誰かに見つかれば大変だ。

けれど運良く誰にも会わないまま中庭まで着いた。

グリフィンドールの寮は塔であるしどうやら生徒達は皆、大広間で休むらしい。

そのための準備で慌しく中庭やスリザリン寮のある地下室までもまだ見回りが来てないのだろう。

ぽつぽつと灯された明かりを頼りに夜の闇を歩く。

探し物を探す魔法があったなと小さく呟けば杖は草むらを指した。

「ブラック?」

がさがさと掻き分ければ奥の奥に居た。

「全く・・・」

尻尾は両足の間に挟まれ耳は垂れている。

どうやら怒られると思っているらしい。

「・・・早く来ないと見つかっちゃうよ」

そう言って犬と少女は寮へと帰った。

その時、般若のような(むしろナマハゲ)スネイプが因縁の敵を探し回っていたことを彼らは知らない。