結局、ハロウィンの夜は生徒一同大広間にて就寝という目にあった。
先生たちは今から山狩りではなく城狩り、つまりホグワーツ内を総出でブラック捜しをするという。
無事だろうかと思うと同時にこんな周りに迷惑を掛ける理由もしっかり聞き出さなくちゃと心に決めた。
頭に血の昇っているとしか思えない捜索隊に彼を渡す気は生憎なくて。
申し訳ないと思いながらも黙秘を貫く。
校長の出してくれた寝袋は暖かかったけれど何故こんなことをしたのだろうと思えばなかなか寝付くことなど出来ずその日見たのは悪夢だった。
聞く所によればその夜はやはり大変だったらしい。
三階、四階に地下牢、果ては天文台の塔に教授陣の私室にふくろう小屋。
全てを確認しても怪しい男の影はなかったという。
スネイプは侵入するには難しいホグワーツへ入り込んだブラックについて内部の協力者の有無を危惧していたらしい。
それはとある伝手からの情報だった。
ウィーズリーズである。
彼らは頭も聡いし耳も良い。
人脈も多様なので本当に情報通だ。
報酬のお菓子を手渡し礼を述べて別れる。
彼らから離れた廊下で立ち止まると貰った情報を省みて困ったなと頭を掻いた。
全くスネイプ先生は用心深いというか疑り深いと思いつつも当たらずとも遠からずかと苦笑した。
だって自分が彼を逃がす手助けはしたのだから。
侵入したのは彼自身の力なので半分当たりという程度であるが。
捕まらなかった事に安堵する。
やはりあの場所は安全地帯だったようだ。
部屋に帰り着いて部屋の片隅に置いてある小さな籠の前で足を止めた。
ガサガサと洗濯物を掻き分けて見えた黒い物体に息を吐く。
洗濯物に溢れた籠の中には小さくなっている黒犬の姿。
流石にいくらなんでもこんな小さなしかも下着畑と化した洗濯籠に潜む者の存在を悟る人間がいるのなら変態としか言わないはずだ。
いい仕事した、自分!
そんな気持ちで下着畑から助け出してやったのだが。
「・・・洗濯洗剤の匂いがキツ過ぎる」
人間の姿に戻って開口一番に言われたのがコレですか。
もうちょっと他に言いようがあるのではなかろうか。
「あのゴミ袋キス魔に突き出してあげましょうか?」
ニコニコ笑って言ってみせればすまんといわれた。
このへたれ犬ーと可愛らしいと思ったのは内緒だ。
今は人の姿に戻っているがぺたっと落ち込んだ尻尾が幻覚で見えそうだ。
そこで謝るのだね、いい年した大人の男がと思うのはきっと私だけではない・・・はず。
「匿ってもらったのは感謝している。けど他に隠す方法はなかったのか」
真っ赤になってそれでも小声ながら破廉恥なと騒ぎ立てそうな勢いに一喝する。
「やかましい!乙女の下着に囲まれて助けられたんだからラッキー、でもやっぱり申し訳ない・・・くらい思っていなさい」
洗ったばかりだったのにと幾分獣臭くなってしまった下着を手にして溜息つけばシリウスは視線を泳がせた。
「いや・・・俺だって嬉しくないわけじゃないけどそういう場合じゃないというか。それよりお前は女の慎みって奴をだな!」
持てよ!と言い放ったシリウスは目の前の少女の姿に固まった。
般若だ。
笑顔で、とんでもなく可愛らしい笑顔の鬼がいる。
恐怖で混乱しているシリウスの頭はぐっちゃぐちゃだ。
「慎みなくて悪かったですね!別に人を助けられるならそんなもの犬にでもくれてやりますよ」
確かに犬を助けるために使っているよね、とは流石のシリウスも言えなかった。
唯一の救いは下着や洗濯物達が使用済みでなかった事くらい・・・か。
そう思っていた事は少女には全く通じていなかったようである。
そんな些細な問題に気付かない程には彼女は怒っていたのである。
「で、太った婦人を傷つけてこんな大騒ぎをして"何"を貴方は捜してるんですか」
あの時間、彼は狙ってあの場所に行ったのだろう。
生徒の居ないあの寮に。
それはどういう意味を指す?
の言葉にシリウス・ブラックは一瞬睫毛を伏せてそれから小さく謝罪した。
「全く、救えないですよね」
はルーピンの部屋で管を巻いていた。
「男って色々・・・本当にいろっいろ巻き込んで迷惑掛けるくせに勝手に自己完結するんですよ」
堪ったものじゃないですと言えばそうかなと苦笑された。
その笑みは寂しげでやはりこの人も閉じているようだと思う。
スネイプはここ数年共にいた分僅かに閉じて、閉ざされていた部分を開けてくれたように思える。
けれどシリウス・ブラックやリーマス・J・ルーピンという男にはその場所はあまりに少ないように思えた。
「はそれをわかっていてどうしてそのままでいるんだい」
不思議そうに言うルーピンには笑った。
「好きな人・・・大事な人に掛けられる迷惑は迷惑に思えないからですよ」
なんでそれがわかってくれないのかなあと笑う少女にルーピンは眩しそうに笑ってそうだねと呟いた。