その日の夕方。
は与えられた課題をこなしていた。
人狼。
それは忌まわしいとされる魔法界の生き物。
カリカリと集中してペンを走らせる。
二巻きには少し遠いが大体こんなものだろう。
魔法界と離れた生活を日本でしていた事もありは魔法界の不思議生物についての知識は乏しかった。
だが熱心な臨時講師のお陰で人狼に出くわしても死んだ振りはしなくて済みそうだ。
そう思いながらペンを置いた。
その隣には先程スネイプから詫びのつもりなのだろう届いた菓子が置かれていた。
未だに怒っているわけではなかったが夜も遅いということで手を付けずにそのままにいたのだが扉をノックされて視線を戻す。
「開いてるよー」
こんな時間に訪問者とは珍しいと返事をすればゆっくりと扉は開いて其処には意外な人物が立って居たのだった。
我輩は彼女に振り回されすぎていないだろうか。
そんな考えがふと頭を過ぎった。
普通、教師が夜遅くに異性の生徒の部屋に行くことなど殆どない。
寮監としての立場を利用した経験は皆無だったがスネイプは迷うことなくその権限を使った。
生徒達の一部はまだ起きていたのでさっさと寝ろと怒鳴りつけ追いやった。
女子寮の部屋の一室。
頭の中にある地図と照らし合わせてその場所へと辿り着く。
消灯の時間なものの個人で勉強する者がいないわけではない。
寝てはいまいまかと扉を叩けばいつもの声が返事をした。
滑り込むように入れば椅子に腰掛けたが少し驚いた表情で此方を見ていた。
「もう消灯だが、熱心なことだな」
机の上には贈った菓子があった。
手をつけてない所を見ればまだ怒りは解けていないようだと判断する。
「何のようですか?」
「・・・特にない」
謝ることは出来ない。
きっと何度でも相手がグリフィンドールであれば同じ態度を取るだろう。
あの愚かしく、自らの実力を省みることもせず無謀と勇気を取り違える者達相手ならば。
「・・・普通此処まで来たら謝るものですけどね」
呆れられたように笑われてほっとする。
冷たい眼差し、温かみの無い言葉ではない事に。
彼女が笑っていることに。
「特別に我輩が勉強を見てやってもいい」
「勉強より明日クィディッチ観に行かせてください」
駄目、ですか?と尋ねる頬はうっすらと赤い。
その言葉に暫し考えてから自分と一緒ならと条件付けて彼女の許しを受け取った。
やはり振り回されている。
スネイプはそう結論が出た故に溜息を吐いた。
今更。
そう今更なのだが彼女、・と再会して三年。
と言ってもそれまですっかり忘れていたのだから再会というか初めて出会ってと言って良いような気もするがとにかく出会って三年だ。
その間に彼女の存在は我輩の中にしっかりと根付いてしまったらしい。
まあ絆されているような気は薄々としていたのだが。
ついこの前の夏にもよく分からないがの故郷の知人らが婚約者を名乗って出てきた経緯もある。
一人は全くの勘違いだったが一人は我輩に正面切って敵意を示した。
それは不快ではあったのだが元凶の少女自身は全くと言っていいほどに気にしてなかったので此方としても別に気に留めなかったのだ。
いや、プライドが許さなかったのかもしれない。
だが現在婚約者という身の彼女は他寮の男子生徒に興味を持っているらしい。
「・・・頬など染めおって」
スネイプにはの事情(風呂場で裸を見られた)など知らない為に不快な気分になっているのだが知っていたらもっと激怒していたかもしれない。
「これ程、我輩を振り回すなどやはりアイツの娘だな」
気って捨てたいほどの腐れ縁と言ってやまない男を思い出して苛々と毒づいた。
が聞いたら酷いと抗議するであろう台詞を吐いて怒りを静める。
許しを得るために明日は結局クィディッチ観戦だ。
朝も早い。
早く寝るためにもルーピンの下へ薬を持っていかねばならない。
薬瓶を手に取り如何にセドリック・ディゴリーという少年からからを引き離すかと考えつつ地下室から闇の中へと歩き出したのだった。