「雨天中止って言葉はないの?」

望んで見たものの最悪としか言いようの無い天候に帰るという言葉の変わりにそう呟いた。












雨は酷かった。

嵐と表現して差し支えない風雨だったがそれでも学校中の生徒が見に来ていた。

全く気が知れない。

クィディッチに対して今だ魅力を理解できてないはこんなことならバタービールの一杯の方が良かったと隣にいる男を見上げた。

約束を取り付けたのは自分である。

だから試合が始まる前に帰ろうとは言い出せない。

スネイプは防水魔法が掛かっているコートをしっかり着ていて他の生徒達のように傘を必要とはしていない。

も出かける前に借りたローブを羽織ってフードを被っていた。

雷鳴が轟き正直このフィールドを箒で飛ぶなんて自殺志願者ではなかろうかと思っていた時にようやく選手が入場した。

歓声の多くは風に消されていたがそれでも生徒らの熱気は消えていない。

フーチ先生の吹いた笛の音で一斉に選手達が飛び立った。

雨風の強さは尋常ではなかった。

解説者の声は聞こえるが選手らの攻防はあまり見えずこんなことなら家のテレビで・・・と言いたくなるような按配だ。

ハリーとセドリックに関して言えば豆粒である。

正しくは豆粒のように見える、だが。

やはり天候のせいで彼らも味方や敵にぶつかったりしている。

さっさとどっちでもいいからスニッチ掴めよと言いたい気分になるのは寒いからだ。

雨に濡れないようにしているとはいえやはり少しは掛かるし季節が季節だ。

手指は冷えて何度も息を掛けるが温まる様子も無い。

「タイムアウトの暇があれば止めて帰ろうよ」

何事か集まって作戦を話しているらしい彼らに呟いても仕方の無いことを呟く。

「寒いのかね」

それまで何も言わなかったスネイプ先生の言葉に頷いた。

帰りましょうという言葉を紡ぐ前に手を取られる。

「これならば少しは温まるであろう」

ふいと逸らされた顔になんと言っていいのか分からない。

というかいいのかこれは、という状態である。

「あの、他の生徒に見られますよ?」

「試合に夢中である上にこの天候なら問題あるまい」

確かに生徒達と少しはなれた席で見ている上に視界を遮る土砂降りの雨では気付かれることはないか。

そう判断して頷いた。

「人間カイロですね」

その言葉にスネイプの顔は複雑な表情を浮かべたのだがは気付かず早く終われーと見えないシーカー二人にエールを送っていたのだった。

















様子がおかしいと気付いたのはその時だった。

背筋に走る寒さを感じて風邪かなと思った時にはひやりと辺りは静寂に満ちていた。

あれほど風雨と歓声があったのに?

疑問の答えは目の前に現れたディメンターにより氷解した。

こいつのせいか!?

目の前のディメンターは何を言うでもなくただ目の前にあった。

だんだんその身体が赤く染まっていく。

まるで・・・。

「エクスペクト、パトローナム!」

スネイプ先生の声が響いた。

それと同時に遠く、遠い何処かから誰かの声が聞こえた。

細く、そして苦しげな。

誰、と尋ねる前にぐらりと身体が傾いだのがわかった。

そして多分スネイプが抱きとめてくれたのも。

銀色の光がディメンターを包んだ後に残ったのは奇妙な脱力感とそれから指先から伝わる熱と視界を染めた赤色だけ。














「あれ?」

目が覚めたのはソファーの上だった。

てっきり医務室でお世話になるかなと予測していたのだがどうやら外れていたらしい。

「気がついたかね」

掛けられた声の方向を見ればマグカップを持ったスネイプ先生の姿があった。

「えっと・・・私は」

「とりあえずこれを飲みなさい」

有無を言わさず差し出されたのは甘い香りのホットチョコレートだった。

寝起きにはキツイと思いながらもゆっくりと熱々のそれを飲めば身体の脱力感は嘘のように抜けていった。

「ディメンターが入ってきたお陰でポッターが落下、その間にディゴリーがスニッチを取った」

「そう、ですか」

「哀れなポッターは大した怪我もなく今頃は医務室で高鼾だろうがな」

フンと詰まらなさそうな様子に困ったものだと首を竦めた。

「お前は担架に乗るのは嫌だろうと連れ帰ったのだが文句はあるかね」

その言葉に盛大に感謝した。

担架で運ばれるとか恥ずかしすぎる。

「ありがとうございます、スネイプ先生」

礼を素直に述べたにスネイプは嗚呼と返事をした後、ゆっくりとその頭を撫でたのだった。