ハリーは病棟に居る、らしい。
ドラコの楽しそうな声に何故お前はそんなことまで知っている!と突っ込んでも良かったが五月蝿そうなので止めた。
ストーカー疑惑も浮上しかねない。
むしろ『ちょっと家のお祖父ちゃんギックリ腰で救急車に乗ったのよー』的な近所の親戚への伝達よりも早い情報速度に半ば感心しつつさえあった。
君の将来は井戸端ネットワークのオバちゃんだ!?
勝手にドラコのある意味華々しいというか騒がしい将来を脳裏に描きながら耳を傾ける。
いやねぇオホホと言い出さないかと心配したわけでは、決してない。
ハリーの箒はどうやら大破した・・・らしい。
暴れ柳と呼ばれる物騒な木が校庭の真ん中にあるのだがそれに突っ込んだとの事である。
そんな危ないデカ・・・ならぬ、危ない植物は駆除は出来なくとも植え替えればいいのでは?と思うのだが魔法界ではしないようだ。
日本とは生徒の安全についての考え方が違うのだろうなとぼんやりと考えながら廊下を歩く。
なんたって頭が吹っ飛ぶような危険があるクィディッチでさえ公認スポーツなのだから。
まだまだ未知な魔法界の教育界へと思いを馳せていた時である。
前から上級生らしい二人組が歩いてきた。
その一人がおや、という表情で足を止めた。
「やあ、」
「あ、セドリック。試合おめでとう」
スネイプ先生と比べると真逆だなーと思える爽やか青年はの言葉に一層爽やかに笑い返した。
友人に先に行っててくれ等言ってる辺り気遣いも出来る。
スポーツ出来る子というのは大抵人気者の必要条件なのだが、これはモテるなぁと感心しつつ眺めていれば困ったような視線とかち合う。
「僕の顔に何かついてるかな?」
「ううん。ただスゴイなあって感心してただけ」
スゴイの後に『爽やかだ』が密かに入っていた事はだけの秘密だ。
入ると入らないのでは結構な違いが発生するのだがセドリックが照れたのにも半分の意味でしか気付いてなかった。
「褒められて嬉しいよ。でもこの間のはディメンターがポッターに何かしたみたいだし正直勝ったとは素直に思えないけど」
「いや、うん。その謙虚な所も好感度だよ」
普通この年の少年、青年と言えば人にも寄るだろうが功名心のようなもの、もしくは利己心が強いようなイメージだった。
だからこんな謙虚な台詞をさらりと嫌味なく言える姿に本当にカッコいいなあと思ったのだ。
「あはは、それって褒めてる?」
「勿論!」
次は邪魔なしに勝つよと宣言したら多分ファンの子はメロメロだなとも思いながらだったが。
「あのさ、今度の試合も見に・・・」
「あ、ごめん。私これから約束があったんだ」
言葉を遮る事はこの気持ちのいい相手に対してしたくなかったのだが先約があった。
セドリックは嫌な顔もせず、むしろ引き止めてごめんと謝りさえして分かれたのだが。
「凄い出来た人だなあ」
この日の中でセドリックという人物に対しての好感度は最初から最後まで上がりっぱなしだった事を明記しておく。
「おーい!シ・・・じゃなくってワンコー」
出ておいでと叫べば少し時間を置いて茂みから黒い犬が出てきた。
良かったとは息を吐いた。
約束の時間ギリギリだったのだ。
逢引、というわけではないが相手が相手なだけに逢えない可能性すら頭をよぎったのだ。
知らない人間にはちょっと大きい犬であるがこれはシリウス・ブラックの世を忍ぶ体である。
「はい、これはご飯」
用意していたチキンサンドを出せばガツガツと食べる姿に笑みが零れた。
毛並みを撫でてやれば食べながらも嬉しそうに尻尾が振られる。
ぶんぶん音が出そうな様子に苦笑してしまうのも仕方ないのではなかろうか。
「で、話って?」
は呼び出されたのである。
何の伝を使ったのか不明だがの前に誰か生徒の飼い猫だろうと思われる猫が手紙を咥えて持ってきたのである。
猫の宅急便かと某宅配のプロとかジ○リの名作アニメだか色々混ざって間違った事を考えたのはしか知らない事だ。
読んだら頼みがある、黒犬とサインがあり場所と時間のみの簡潔な文だった。
黒犬で浮かぶのはただ一人でそれは間違ってはなかったのだが。
「・・・その箒を用意すればいいのね」
コクコクと頷く姿にわかったと返事をする。
でもこんな頼みをするならやっぱり過去の事件の犯人ではないのだろうと確信を深めた。
「自分の事にも気を使ってよね」
余計な一言と知りつつ声を掛ける。
分かっているというように頷く犬の様子に分かってないよなぁと溜息を吐く。
心配するのはその生気の失われつつあるやせ細った彼自身であるというのに。
毛並みだってもっと艶々であるだろうと思いながら頭を撫でる。
「じゃあクリスマスに届くよう手配するから」
そう約束すればありがとうと礼を言うかのように手を一舐めして茂みへと姿を消した。
その日の部屋では慣れない魔法通販で箒を注文する少女の姿があったのだという。