遠くから聞こえた声と浮かんだアノヒトの血に塗れた姿。赤い血は押さえても止まらなかった。
「いやぁぁぁぁァァァ」
自分の叫び声で気がつく。
一人で座っていたせいか悪夢を見たようだ。
いつのまにか座席で寝てしまったのか。
さっきのディメンターとかいうゴミ袋は夢だったのだろうかとまだ残っている悪夢の断片を払い除けながら胸を撫で下ろし
足元を見て視線が動かせなくなる。
―パキン―
澄んだ音と共に床に張った氷は割れて溶けていった。
「イッチ年生はこっちだ!」
ハグリットの声がプラットホームに響いていた。
身体の芯が凍えるような寒さが嫌でポケットにあったチョコを口に放り込む。
暖かさが急速に戻ってきた気がした。
「腹が減っては戦が出来ぬなんて昔の人は上手いこと言ったものよね」
はディメンターの治療法であるチョコレイトを食べるという行為を知らずに行っていたのだった。
「おい、。久しぶりだな」
荷物と格闘していると後ろから声が掛けられた。
振り向けばつやつやと光る髪とおデコ・・・・でなく前髪がおろされていた。
「あれ?ドラコの声がした気がしたんだけど。ねえ、グラップとゴイル。ドラコは?」
「馬鹿か!?僕は此処だ!?」
ぐいっと右手で髪をかき上げドラコは額を見せた。
「ああ、ドラコだったの」
知らない人かと思ったわと笑う少女にコイツは髪型というか額で自分を判断していたのかとしばし落ち込んだドラコだった。
「ねえ、船には乗らないの?」
「僕らは馬車だ。ほら、行くぞ」
すっかりこの少女といる時は打たれ強くなったマルフォイ家のお坊ちゃまはの荷物の一つを無理矢理奪った。
「ありがと、ドラコ」
「ふん、そう思うなら早く来い」
話があるというドラコに慌てて付いていくと馬が馬車を牽いていた。
「うわー・・・・壮観。私、馬の牽く馬車に乗るのって初めてだわ。この不気味さも初めてだけど」
「何を言っている。馬なんて何処にもいないし牽いてもないぞ。馬鹿言っていないでさっさとしろ」
「・・・わかった」
自分の目がおかしいのかなと思いつつ何度瞬きしても馬は消えない。
自分だけ飛び出す絵本用3D眼鏡を着用しているわけでもないのに。
「魔法界って不思議」
心の底からの感想をぽつりと漏らす。
そしてホグワーツに着くまで馬車に乗っている間にドラコからかのハリー・ポッターの臆病ぶりを滔々と聞かせられたのだった。
「ディメンターが出ただと!?」
「ハリーは気絶したけどルーピン先生がいたから追い払えたらしいですよ。私も気分が悪くなりました」
ドラコから仕入れた話と自分の体験をすり合わせた結果スネイプ先生に一応報告しておいた方がいい気がした。
まあ自分が気を失ったことはちゃっかり省いてだが。
も一時気を失ったらしいのだがハリーのように騒がれはしなかった。
何も無かったしあんな風に気絶してしまったことをからかわれてるハリーに私もだよと言うべきかそれとも黙っているべきか迷うところだ。
今回は今更騒ぎの中心に飛び込む勇気も目立とう精神もなかったので黙っていた。
ディメンターってなんですか?というの問いにスネイプ先生は汚らわしいものを口にするように告げた。
「アズカバンを守る番人だ。彼らにキスされたものは廃人となる」
「き・・・・キスですか」
ディメンターを思い出しあんなばっちいのにキスされたくないなと思う。
するなら清潔感溢れる格好で出直してこいといった相手は皆無だったんだろうか。
次の機会には是非言ってやりたいと思いつつ質問する。
「見境はつかないんですね」
「あれらは仕事に忠実だ。邪魔すれば魂を食われる」
の中でディメンター=キス魔という図が出来たのは言うまでもない。
まるで忘年会のセクハラ親父だなと思う。
魂を食うとは一体どういうことだろうと思いつつも考え込んでいるスネイプ先生の様子に深く追求できない。
「さっさと大広間に行かねば食事を摂り損ねるぞ」
話は終わりだとばかりの台詞に空腹を訴えるお腹に気が付いた。
「私のパンプキンパイが無くなる!」
「馬鹿者。そんな訳があるか!」
足早に二人は大広間へと向かったのだった。