「ありゃ?」

部屋に入って一言。

中にはスリザリン生は一人もいない。

というか人っ子一人いない。

彼ら一斉に授業放棄したのだろうか?

それとも選択を誰もしなかったとか?

ぐるぐると回る思考は先生の言葉で無に帰した。

「もう一クラスのほうが人数が多かったので此方へ私の占いで振り分けさせて頂きました」

アンタのせいかよ!?

だから占い学とマグル学がかち合う結果になったのかと溜息を吐きたくなる。

しかし相手は教師で今から長い付き合いになるかもしれない先生だ。

打算を考えるのは仕方ない。

狡猾を誇るスリザリン生なら我慢すべきだよねとぐっと喉元まで来た文句を飲み込んだ。

もう少し申し訳なさそうだったらこんなに腹も立たなかったと思うのだけど。

「あら、他の方が来たようね」

いそいそと占い学の先生は暗がりの中に入っていく。

上ってきた生徒達はただ呆気に取られているようで静かさが部屋に充満する。

ハリーと視線があって驚いた表情の彼に片手を上げて挨拶した。

「先生はどこに?」

其処と指差して言う前に声が落ちた。

「ようこそ」

確かに神秘的な雰囲気作りは成功だ。

補聴器をつけていないと聞こえそうにない声以外は。

確か暗い中で明かりを付けてマインドコントロールする方法があったなーとか思っているうちに滔々と先生の自己紹介は終わっていた。

の感想は未来の神秘の帳よりも次の試験の答えを知る方がよほど有意義ではなかろうかという即物的なものだった。

「では二人一組で葉の模様を見ましょう」

さっと二人一組に別れてしまって誰も相手がいない。

こんな時スリザリン生一人だと困るなあときょろきょろと辺りを見ていたら一人出遅れたネビルがいた。

「よろしく」

にこりと笑ってくいっと紅茶を飲み干した。

まあまあかな。

飲みなれた紅茶よりやや蒸らし方が足りないけれど不味くなかった。

はい、と差し出した紅茶のカップには残った葉がわけのわからない模様を描いてる。

ネビルは熱心に『未来の霧を晴らす』をめくっている。

「ええと・・・君のは歪んだ・・・亀が見える」

「という事は亀だから万年生きるってことね」

「違うよ。そう、これだ、大変だよ!大事なものを失くすって!」

真っ青になったネビルには悪いけどとは内心盛大に溜息が吐いていた。

紅茶の葉で未来がわかるならどの株が上がるか教えて欲しいものだわ!と。

いいもの、いい結果しか信じないお目出度い楽天家の自分ならではの考えだとは思いつつ、教科として役に立つのかと不思議でならない。

自分にはとてつもなく不向きだと一回目の授業の開始五分で悟ってしまった。

これは何か対策を立てないとちょっと一年間大変かもしれない。

ぼうっと対策を考えている間に目の前では占い大会が始まっていた。

「まあ、あなた・・・」

火曜サスペ○ス劇場で悲劇の主人公の友人Aで最初に殺される女性が出すような悲鳴をトレローニー先生が出した。

隣では驚いたネビルが二個目のカップを割っていた。

あの悲鳴はこのことを指している訳ではないのだなとはやや皮肉気に様子を見守った。

「あなたにはグリムが取り憑いてます」

「グ○コ?」

それは嫌だ。

あのテープカット目前の白いタンクトップの人物が憑いてるのは食い倒れ人形を背負って歩くくらいには嫌だ。

カーネルのおじさんの振りしてケン○ッキー前に立つより嫌かもしれない。

大体ゴールまで死ぬ気で走れよと毎回思う余裕っぷり笑顔には幼い頃から不満が募っていたのだ。

衝撃的な内容だと知ったのはトレローニー先生の説明的な言葉からだった。

「死神犬ですよ!」

人面犬の方がよっぽど怖いなと思ってしまったのは内緒である。















「ハリー、グリ○・・・じゃなかったグリムって言われても気にすることないわよ」

「・・・うん。ありがと」

すっかり憔悴しているハリーに苦笑する。

多分何処かの公園で腹ペコになった犬でも見かけたのだろう。

しかし悪い占いしかしなかったなと半ば呆れてしまった。

確かに人は些細な悪いことを何かに結び付けたがる。

良いことがあっても当たり前だと受け流しがちでもある。

「やっぱり占いって些細な下らないことを微妙に当ててるほうが面白いよね」

一年学ぶ身としては最低な意見を述べていたのだった。










































「スネイプ先生ー入りますよ?」

入室を断って入ればいなかった。

後で来いとか言うから来たのになあと勝手知ったるナントカでソファーに荷物を置くとお茶の準備をする。

お茶菓子にと色々買っておいた物を出して綺麗に並べる。

コンコン

ノックが聞こえた。

「はーい」

返事してからヤバイと慌てる。

いくらなんでも生徒がスネイプ先生の留守中にお茶の準備してたら変だ。

スリザリン生でさっき先生は貴重な薬草を見つけに旅立ちました、帰るのは不明ですと言おうと瞬時に判断する。

「あれ、だけかい?」

ひょこりと顔を覗かせたのはリーマス・J・ルーピン先生だった。

「ルーピン先生、どうかしたんですか?」

朝の事を思い出しじいっとその平べったい胸を見つめる。

「どうしたんだい????」

なんだか慌てたような声にやはりと重い溜息が零れた。

「スネイプ先生って貧乳が好きだったんですね」

幼女好きの男好きなのかと呟けばぽかんと口を開けているルーピンの姿。

「・・・結構冗談に命を掛けるタイプみたいだね」

「いえ、半分本気ですけど」

ルーピン先生はスネイプ先生とどういう関係なんですかと聞けば困ったような顔をされてしまった。

「私とセブルスは同級生なんだ」

「ドラコから聞きました。えっとルシウスさんの息子の」

マルフォイって言えばわかりますかと言えば少し顔を曇らせてああと言った。

ルシウスと仲が悪いのだろうかと首を傾げる。

「彼は魔法界の名家出身だからね。私とはあまり親しくなかったんだよ」

「へえ」

確かに同性に慕われる兄貴タイプではなかったなと筋肉マッチョなルシウスを想像してしまって慌てて消した。

うん、殿下は今のままの方が色々と良い気がする。

「私はグリフィンドールだったしジェームズ・・・ハリーの父親とも仲がよかったからね」

嫌われていたみたいだよと苦笑している。

「あ、じゃあシリウス・ブラックっていう人は知ってますか?」

口にした瞬間ルーピンの顔からさっと血の気が引いた。

ぎゅっと噛み締められた口唇からは今にも血が滲みそうだ。

「・・・親友、だと思っていた男だよ」

今は?そう聞く前に扉が開いた。