「貴様、我輩の留守に勝手に部屋に入るなと・・・何をしている」
自室にルーピンを見つけたスネイプは文句を言いかけその場に居たに目を止めて詰問した。
「え・・・別に普通に会話を」
そうですよね?と言えばルーピンも笑ってそうだねと答えた。
「・・・っ!!貴様の用事は夜ではないと無理だ。後で来い。はこっちだ」
出て行けと視線で告げられてルーピンは肩を竦めた。
「ちょっとお茶させてくれても構わないと思うけど・・・今日は止めとくよ」
にっこり。
射殺されそうな視線にルーピンは退出の意を告げた。
ぱたんと閉まった扉の向こうではきっと嫉妬しているセブルス・スネイプなんて珍しいものがみれたのだろう。
「変わったものもあるんだね」
ルーピンの呟きは何処か寂しそうで何処か救われたような呟きだった。
「何をしていた」
「だから、会話を」
さっきもいいましたよ?ボケちゃいました?と言えば睨まれた。
冗談なのに。
「私もさっき来たんですがね。ルーピン先生としたのはシリウス・ブラックの話くらいですよ」
「・・・ブラックか」
ふん、と鼻で笑う様子に馬鹿にしているような気がした。
「もしかして仲、悪かったんですか?」
「もしかしなくともだ」
よっぽど悪かったらしい。
思い出すのも忌々しいという風に眉間には皺。
普段と当社比三倍。
「ルーピンとポッターとブラックは良くつるんでいたからな」
「仲良し三人組ですね」
トンクルピーかと思う。
知ってる人はいないかもだが。
「いや、四人だ」
「え、でも今は三人しか」
「もう一人、ピーター・ペティグリューという冴えない奴が居た」
「ペティグリーチャムみたいな名前ですね」
冴えないと言われてるよと思いつつ素直に返す。
「ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックは愚かだったが友だった。ルーピンの奴もペティグリューの奴もそう思われていた」
続けられた言葉に息を呑む。
「・・・ポッターを殺したのはブラックだった」
「・・・親友、だったんですよね?」
喉に絡む言葉を吐き出した時にはいつものスネイプ先生だった。
「さあな。周りはそう思っていた。だが奴は裏切った。闇の帝王に親友を売った。その妻もだ」
淡々と言われる言葉は鋭い痛みを伴って耳を、心を通り抜ける。
「ペティグリューの奴も吹き飛ばされた。見つかったのは指一本だ」
「・・・それがマグルを巻き込んだ時の事件ですね」
新聞に載っていた記事を思い出す。
十三人の内の一人が友人だったのだろうか。
「そして奴は捕まった。馬鹿な奴だが今はどんな手を使ったかはわからないが脱獄して自由の身だ。くれぐれも一人で動かないようにしなさい」
そう言ったスネイプ先生は机の引き出しから何かを取り出した。
砂時計のような形だった。
「これはタイム・ターナーだ。占い学とマグル学を受けるのにはこれを使うように。一回ひっくり返せば足りるだろう」
ひっくり返す?と首を傾げていたら使い方を説明された。
まるでドラ○もんだなと感心してしまう。
「勉強以外には使わないように」
いいな、と言われて頷いた。
色々詳しいことはそれに書いてあると手渡されて部屋を追い出された。
手の中の不思議な道具よりも先生から聞いた話が頭の中をぐるぐると回っていた。
犯罪者シリウス・ブラックとルーピン先生が親友だったとは・・・。
スネイプ先生が嫌っている犯罪者だからどんな人だったのかなーとてっきり嫌な感じで想像していたのだが。
「ルーピン先生と親友ってことはちょっと我侭な自信家タイプかなあ」
ルーピン先生はどちらかと言えばおとなしい、優等生とは行かなくてもそこそこできる生徒だった気がする。
ただし話題の中心を好むタイプでなくちょっと離れている感じ。
そういうタイプにはきっと話題の中心に居ただろう人に引っ張り込まれていると思われる。
漫画的パターンでは。
「じゃあきっとハリーのお父さんにカリスマ性があってそれに惚れこんでいたのがシリウス・ブラック・・・かなあ」
ドラコに聞いた所によるとブラック家というのは魔法界でもマルフォイと名前を張る程度には名家だった・・・らしい。
シリウス・ブラックがグリフィンドールに入るまでは。
「って言ってるのはドラコだけだから信憑性低いんだけどね」
シリウス・ブラックのイメージ像は天然無自覚な俺様タイプのガキ大将でデリカシーに欠ける正義感が強い感じで纏まった。
うん、なんとなく想像がついたかも。
ジャイアニズム溢れていそうでスネイプ先生とは天敵って臭いが凄くするかも。
けれど、とルーピン先生が垣間見せたの笑顔を思い出す。
何処か遠くの大事な思い出を切なそうに過去として言い切った時。
ふと、思う。
残した方と残された方のどちらが辛いのだろう、と。
ハリーの父親はどんな顔をして親友だった敵と対峙したのだろう。
そして知らせを聞いたルーピン先生はどんな表情をし、何を思ったのだろうかと。
鉛を詰め込んだように重い胸の奥にちくりと刺さる何かが悲しくてちょっとだけ泣きそうになった。
昼食の後は外での授業ということだった。
ドラコと取り巻き二人とは教科書を片手に歩いていた。
「なあ、あのハグリッドの奴が何の授業をするのか楽しみじゃないか?」
げらげらと笑う三人にウンザリしつつ後ろを振り返ればハリー達がいた。
グリフィンドールと合同授業なのかとちょっとだけ心配になる。
スリザリンはドラコを初めとしてグリフィンドールを目の敵にしている所がある。
なにかしでかさないといいけれど。
若いのに刺激のない生活に憧れるってどうよと思うけれどこれは多分日本で培われた平和精神というかまあ性格なのだろう。
懸念しながらも惰性で歩いていればハグリッドに誘導されて広い放牧場のような場所に連れてこられた。
「教科書を開くこったぁ」
その声にドラコが真っ先に不平を漏らした。
それに併せるように周りの生徒もそれぞれにテープやベルト、紐などで固く閉じられた本を取り出している。
「え・・・皆、擽れば良いのに」
「撫ぜりゃーよかったんだ」
の声に被るハグリットの声。
スネイプ先生とルーピン先生は確かに撫でていたなと思い出す。
店の店員にルーピン先生は扱い方を聞かれていたけど皆には上手く伝わらなかったらしい。
「・・・これはちぃーっと役に立たんかも知れんなあ」
の教科書を見てハグリッドが呟いた。
それもそのはず擽ってみたら大笑い?をして本が壊れたのだから。
訳のわからない分泌物で湿っているために文字は読めたり読めなかったりする。
ちょっと汚いのは致し方ないと目を瞑って頂きたい。
「えー・・・折角動かなくなって安全にするまで二時間擽り続けたのに」
ご・・・拷問だよとハリー達、の言葉を耳にした者達はこっそりこの厄介な本に同情したのだった。
結局その後ヒッポグリフのバックビークの乗り方を説明された。
教科書使わないじゃん!!
の突っ込みをよそにハリーは見事にヒッポグリフにお辞儀を返して貰い撫でる事に成功した。
それから空中散歩にまで行ったハリーに続けとばかりに皆がお辞儀をしだした。
ここは礼儀作法教室かよ!!
ちょっと不貞腐れつつバックビークにお辞儀をして触れる。
ドラコが触れた時に調子に乗った一言にはもう呆れるしかなかったのだけど。
「醜いデカブツの野獣君」
・・・えーと怒っていらっしゃる?
すばやく逃げたので助かったが鋭い爪の一閃でドラコのローブに血が滲んでいる。
「馬鹿っ!注意聞いてなかったのっ!?」
「死んじゃうよっ」
喚くドラコに一喝する。
「五月蝿いって!黙って見せなさい!」
ローブを剥ぎ取ろうとしたらますます丸まってしまった。
ダンゴ虫ドラコって呼んでやろうか。
「僕、死んじゃう。見てよ!あいつ、僕を殺した!」
何処にそんな元気な死人がいるよと思いつつホグワーツにはいたかもと思い直す。
うん、首なしニックは元気な死人だし血みどろ男爵は元気は良くないけど死人だ。
今日も無言で隣にいたし。
ドラコの怪我は確かに腕をぱっくりいったみたいだけど魔法で直せるだろう、大概はとその馬鹿馬鹿しい喚き声に冷静になってしまった。
どうもこういう時には心配する半分、突っ込み心が半分となってしまう。
そしてドラコの様子で心配するつもりなんてこれっぽっちも失せてしまった。
男なら腹に電車の痕の一つや二つ!!
ブラック・○ャックファンとしては手術痕も素敵だと主張させて貰いたい。
結局おろおろするハグリッドがドラコを抱えて城へと戻っていった。
それからが大変といえば大変だった。
パンジー・パーキンソンは泣き喚くしクラップとゴイルは正論を言うグリフィンドールを脅してるし。
「付き合っていられないって」
パンジーにドラコの見舞いに行かないかと誘われたが行かないと断ってスネイプ先生のいるであろう地下室へと向かった。
全くハグリットの授業初日から波乱の幕開けで今年も凄い一年になりそうな予感がひしひしとしたのだった。