医務室送りになったドラコが出てきたのは木曜の昼だった。
開口一番に
「何で僕の見舞いに来ないんだ!」
とか言われてもなあ。
「えー・・・忙しかったから?」
それ所じゃなかったとつい本当のことを言ってみたら怒ってしまったらしい。
ぷりぷりと腹を立てて背を向けられた。
でも私としては彼のように課題を免除されるわけでなく、山ほど出される課題を仕上げないわけにもいかないし
元気だとわかっているドラコの見舞いは正直面倒だった。
友人とはいえ魔法界でそんなに長いこと寝込む必要のある怪我は多分ない。
苦しみ続ける魔法とか以外はあっさり治るらしいからこんなにも休んだドラコを不審に思いつつも大方何かを目論んでの仮病だろうと見当が付いた。
しかも現在は人が一生懸命縮み薬作っているっていうのに隣でニヤニヤしちゃって。
カンジワルー。
ロナウド・ウィーズリーも可愛そうにと同情の視線で見てしまった。
君はいい仕事をしたよと褒めてあげたかったけれどスネイプ先生のせいでぎったんぎったんな根っこは彼のものとなる。
私ならあんな切り刻まれ方した雛菊の根は怖くて使えない。
ていうかスネイプ先生ってば生き生きしすぎだ。
お前は幸楽の姑か!?と出演するのが鬼ばかりなラーメン屋を思い出す。
こんな人と婚約していて大丈夫?と今更思わずにいられない。
障子の隅を人差し指で埃チェックされた日には離婚届叩きつけるなとか思ったり。
まあスネイプ先生の家には幸いにも障子ないけど。
ハリーにも皮むきとかさせて・・・って試験の時本人できなかったらご愁傷様だけどねー。
ふと横を見ればネビルがいた。
鍋がありえないことになってるんですけど。
これは多分ネズミの脾臓とヒルの汁の入れすぎだろうかとオレンジ色の薬を見つめる。
黄緑になるはずがオレンジなんてポップい色になってしまう才能にはちょっと脱帽だ。
是非とも罰ゲームに使わせて貰いたい感のある薬に仕上がっている。
皆必死で勝ちにいく罰ゲーム間違いなし!!
スネイプ先生の厭味が爆発してハーマイオニーが手助けをと申し出たがあっさりと却下された。
これも相変わらず大人気ない。
仕方ないとばかりに余った材料を寄せ集めてハーマイオニーに近づいた。
このままでは可愛そうな蛙ちゃんは死をもって主人に教訓を知らしめることになりかねない。
「これ、使って」
渡してから自分の鍋に戻って見ればいい感じに黄緑だ。
ネビルの鍋も彼女の手助けがあればオレンジ色こそ変わらないが多分成分はまともになっているだろう。
そう思った瞬間ドラコがハリーをけし掛けている会話を耳に挟んだ。
それはとても近かったから出来たことだが。
「・・・ハリーはまだあのこと知らないんだ」
ブラックの裏切りと両親の死の関わりを。
ルーピン先生の悲しそうな表情が浮かんで消えた。
結局ネビルの薬は成功したらしい。
「グリフィンドール、五点減点」
スネイプ先生の言葉に陰険だなーと呆れてしまう。
もうちょっと心が広くないと駄目じゃないか?と。
でもネビルも自分の力だけで作れるようにならないといけないけどねと思う。
スネイプ先生の真意は汲み取るのが難しい。
自分がわかるのはきっとここ数年で彼の思考と行動を見てきたからだろう、多分。
まあヒキガエルの命が救えたので手伝ったことは先生には悪いけれど別に後悔はしていない。
先生と視線が合ってじっと見つめたらふいと反らされた。
どうやら大人気なかったと本人が自覚しているようだったので今回は文句は言わないで置こうと苦笑した。
闇の魔術に対する防衛術の教室で実地訓練と言われて皆不安そうだ。
多分皆の頭に過ぎったのは前任者ロックハートの無責任な授業だろう。
危険が伴う授業はやはり恐ろしい。
私達が教室を出て向かった先は職員室だった。
そこには珍しくスネイプ先生が居た。
てっきり地下室と大広間往復生活かと思ってましたよ!!
こんな所でフィルチと密会してんですね、と二人きりならからかえたのに!!
色々なことを思いつつ見つめていればスネイプ先生の口からネビルについていじめなのか本当のことと割り切るべきか迷う辛辣な言葉が出た。
ハリーなんて確実にいじめって取ってるよね。
本当に言葉の足らない人だと感心する。
まあ、わざとやっている所もあるから溜息しか出ないけど。
いつか刺されそうだよねとスタスタと出て行く後姿を見送っていればルーピン先生の説明が始まった。
「まね妖怪、ボガートとはなんでしょう?」
謎々を出す保父さんみたいな笑顔だった。
ボロボロのローブにきゅんとしてしまう年上の女性がいるのではなかろうかと変に邪推してしまう。
癒された〜いと世間の荒波に揉まれてるキャリアウーマンなお姉さま、奥様に言われて人気になるホストな感じ?
馬鹿なことを考えていたらすっと手が挙がる。
「形態模写妖怪です」
答えたのは例にたがわずハーマイオニーだった。
ネビルが宣言どおり一番手に指名されて世界一怖いものとして答えたものを聞いて爆笑しそうだった。
「スネイプ先生」
多分授業中じゃなければ笑い出していただろう。
指差して大笑い確実だ。
しかしスリザリンの身としては笑ってはいけない。
お腹の中は腹筋がひっくり返りそうだった。
やるな、ネビル!!
でもちょっと待って?
世界一怖いとか言われる人が婚約者っていうのも微妙だ。
笑っている場合じゃないぞと我に返る。
やはり婚約破棄すべきかもしれない。
そんな取りとめのないことを考えていたらルーピン先生がとんでもないことを言い出した。
「すべてうまくいけばボガート・スネイプ先生はてっぺんにハゲタカのついた帽子をかぶって
緑のドレスを着て赤いハンドバックを持った姿になる」
想像して見た。
・・・駄目だ。
またしても腹筋がひくつきだした。
なんだかルーピン先生達とスネイプ先生があわなかったという理由がなんとなくわかった気がした。
こんな風に人生を楽しむ方法をスネイプ先生は知らなそうだよねと。
其処が可愛く思え出した身としては悩むよなあと一人ごちた。
まあ馬鹿にされたと思うのはきっと彼が真面目で誇り高い人だからといいように解釈してみる。
うん、大丈夫。
私の中の知っている彼は微塵も揺るがず其処にあった。
「では皆も怖いものを想像してみて?」
言われてはた、と困ってしまう。
怖いもの。
直ぐには思い浮かばない。
零点のテストなんての○太みたいなのは嫌だなと考えながら見ていた。
ていうか零点のテストならそれ自体笑われるからボガートの意味は全くないだろう。
本人が恥をかくだけ・・・・ってかくのは私か!?
物思いから冷めて洋箪笥から現れた人物を見ればどこからどうみても先ほど出て行ったスネイプ先生だった。
眉間の皺までも。
立ち方も口唇の吊り上げて皮肉っぽく笑う方法も全て。
ネビルを睨みつけながら歩いている。
「リ、リ、リディクラス!」
スネイプ先生が躓いたかと思えば其処には物凄い格好のスネイプ先生がいた。
一同爆笑だ。
ドラコすら笑いをかみ殺すのに必死。
ルーピン先生は大爆笑で酔っ払っているかと思うくらいにご機嫌だ。
あの隣にある瓶は水と思っていたけれどお酒だったのかもしれないとレコードまで掛けて踊り出した先生に呆れてしまう。
今、授業中ではなかったろうか?
やっぱりスネイプ先生とはあわないかもと思う。
シムで踊っている先生は異様だったと某サイトのプレイ記録を思い出す。
「パーバティ、前へ!」
次々に現れては消えるボガート。
「、前へ!」
零点のテストは嫌だな、と思った瞬間だった。
の前に来た時ふっと乱れたノイズのような映像が掛かる。
見えるのは赤、赤、赤。
「リディクラス!」
訳がわからず馬鹿馬鹿しいと叫んでも変わらない映像にルーピン先生が杖を振ってくれた。
結局ハリーと私だけが出来なかった。
でも、と思う。
あの見えたものはなんだったのだろう。
一面の赤。
何も思い出せないのにそのことが切なく思えて胸が苦しくてしかたない。