『もし』・・・等という仮定がどんなにくだらないかはわかっていた

『If』という言葉が未来に繋がるはずもないことも

未来へ繋がらなかった糸の一つだから思うこと

それでも願わずにはいられないこともあるのだ

切ないほどに

悲しいほどに








「ハリーが『もし』、女の子だったら好きでした?」

興味津々という表情で尋ねる少女の言葉にくだらないと思いつつ脳裏に浮かんだ少年に苦い思いが沸きあがる。

ポッターに良く似た奴の息子。

憎たらしいグリフィンドールの問題児。

しかしその身体にあの女性の血も確実に流れているのだ。

リリー・エヴァンス。

彼女が『もし』生きていたら。

あいつが『もし』死んでいなかったら。

その息子が『もし』ただのハリーであったなら。

スネイプは自分の左腕にある罪の証を思った。

この重すぎる罪を犯していなかったかもしれないと。

長い間沈黙したスネイプには最初は好奇心に溢れた眼差しで見ていたのだが。

「・・・・・そうだな。母親似であれば今よりはましであろうな」

「・・・・リリーさんて綺麗な方でしたもんね」

思っていた以上の好意的な言葉にかちんときてしまったのだ。

そう、あのチョコレートしか興味なさそうなリーマス先生だってこう言っていたと思い出した。

「『リリーは素敵な女性だったよ。セブルスの初恋の人じゃないのかな』」

「なっ・・・!」

すぐに違うと否定すればいいのだが昔のことを思い出していたスネイプにはすぐに対応できなかった。

「先生の馬鹿っ!ハリーが男の子じゃなかったら付き合ってたんでしょっ」

バタン

大きな音を立てて扉は閉められた。

スネイプは一人残された部屋で呟いた。

「『もし』など考えても仕方ないというのに・・」

自嘲の響きを伴った呟きは誰も聞くことなく消えていった。













「ハリー!あなた女の子だったらスネイプ先生にプロポーズされてたわよ」

残念だったわね、男の子で!!

ハリーはえ!?という表情をした。

どちらかといえば男の子でよかったと万歳三唱だろ?と突っ込むロンの言葉には怖い表情のまま告げた。

「ハリー、ご両親の写真を見せて頂戴」と。

「綺麗な人ね」

渡されたアルバムには様々な写真が貼られていた。

ハリーの母。リリー・ポッター(旧姓エヴァンス)は綺麗な赤毛と素敵な緑の瞳の持ち主だった。

ハリーの父、ジェームズはハリーそっくりで。ただ瞳は青色だったけど。

リリーが綺麗と思ったのは容姿もだがなにより笑顔が素敵だから。

自分に自信を持って愛し愛される幸せを知っている表情だから。

「先生はこんなにしてくれないもの」

写真の中ではジェームズがリリーにふざけてキスして殴られて雪に埋もれてしまったりしている。

「ありがとハリー」

の中で『もし』という仮定がどんどん大きくなっていた。









ボンッ

有り得ないことだが研究中の薬品の製作に失敗してしまった。

大鍋から立ち上がる白煙に咽ながら机の上に置いていた杖を取って一振りした。

一瞬にして消え去った大鍋。

いつもならいるはずの少女がいたならきっと笑っていただろう失態。

普段のスネイプならするはずもない失敗の理由はその少女。

毎日のように入り浸っていたの姿がないだけでどうしてここまでと自分でも思うのだが。

動揺をしているらしい自分にらしくないなと溜息をついた。

あの時、自分は彼らになんと言って別れただろうか。

別れの言葉は言わなかったのだ。

背中越しにまた来て頂戴という彼女の言葉とセブルスは君に言われたら断れないってと笑う奴の言葉。

苛だたしくてでもこんな時代に彼女が選んだ道を守れる手伝いがしたいと思ったのも確か。

だが別れの言葉も言えないまま彼女と奴は逝ってしまった。

幼い子供を残して。

死にたいと思ったことはない。

けれどいつ死んでもいいと思っていたのも事実。

今はその思っていた思いが少しだけ形を変えた。

変えたのは自分の半分も生きていない少女。

エヴァンスは世界が広いことを教えてくれた。

確かに彼女は初恋の相手だったのだろう。

だがそれは終わったこと。

後悔しているのはそれとはまた少し違う。

とりあえず研究を中断して少女を探しに行こうかと扉を開けた。

「・・・・・・何をしている」

「・・・・偵察です」

ころんと背中から転がり込んできたを起こすと扉を閉めた。

カチャリと鍵をかけた。

「・・・なんで鍵かけるんですか?」

「話が終わらないうちに飛び出されても困るのでな」

諦めたのかはいつも座るソファーへ腰を下ろした。

「我輩の初恋は確かにエヴァンスだったのかも知れない」

そういうとの表情がますます硬くなった。

「我輩は・・・彼女と奴に別れの言葉すら言えず残されたのだ」

だから・・・と続ける言葉はによって遮られた。

「先生・・『もし』・・・私と会わなくてリリーさんが生きていたら報われなくても想ってましたか?」








デス・イーターでなかったら

ヴォルデモードがいなかったら

リリー・エヴァンスが生きていたなら

数々の『if』は簡単に想像できたのだが。

「・・・・・・・・・お前のいない『if』は想像すらできない」

スネイプの腕に抱きしめられたはその腕がかすかに震えているのを感じた。

「先生?」

「お前は我輩より先に逝くな」

耳元で囁かれた言葉の重さに驚くと共にこの人の傷を治していきたいとは思った。

「逝きませんよ。先生が死んだら優雅に遊んで飽きたらぽっくり死んであげます」

大体私の方が断然若いんですからと笑って言った。

その言葉にスネイプは安堵しての耳元にそっと愛の言葉を囁いたのだった。













がいるといないとではスネイプの研究の効率が違うと知った校長の画策により

少女が地下室の主の背中を見守ることを頼まれるのはもう少し後。