人より勘は良い方だという自負があった。
なんというか空気が違っていたりするのだ。
だからそれにもすぐ気がついた。
何処からか向けられてる視線。
薄っすらと気付かれないように送られている。
それを送り続ける人物は余程用心深いらしいと察するのに時間は掛からなかった。
そしてもう一つ気付いたことはその視線を送られている相手、だ。
私が気付いたのも道理でその視線は私の隣に居る友人に向けられているようだった。
友人にそれとなく誰かに好かれてるんじゃないかと水を向けてみたが全く心当たりもない様子で。
視線の主に可哀想にと少々同情するくらいには鈍感そうだ。
そしてとうとう数ヶ月私を悩ませてくれた視線の持ち主を見つけ出すことに成功した。
それはとても意外な、意外過ぎる人物だった。
「貴方でしたか」
用心深いのも道理である。
彼、視線の持ち主は、同じ寮の少年でも他寮の先輩でもなく、教師だったのだから。
しかも彼はスリザリンの寮監であり我がグリフィンドールを憎んでいるとも思える魔法薬学教授セブルス・スネイプだったのだ。
気付きたくはなかったと後悔を十二分にしながら対峙していた。
「何かね、ミス・」
「・・・別に何も」
嘘を吐いた。
驚いたし、この他人から距離を置くようにしている男が何をきっかけで友人に好意を持ったのか。
気になる。
けれどの平和によって退化したであろう獣が従来持ちえる危険信号が今回ははっきり鳴っているのが理解できた。
聞いたらヤバい。
好奇心は猫をも殺す。
雉も鳴かずば打たれまい。
つらつらと浮かぶ先人の残した言葉に内心で同意する。
知りたい、がまだ死にたくない。
そんな心境であった。
「嘘を吐くな」
ドッキン!
心臓が一瞬動きを止めたような気がした。
見透かされているようでその視線が恐い。
「ななな、何が嘘だと」
馬鹿、私。
動揺しすぎだ。
こういう時こそポーカーフェイスが必要なのだと思った。
蛇に睨まれた蛙の気分である。
「それはお前がよく知っているであろう」
上手い言葉廻しだ。
何を私が知っているのか。
何を私が気付いたのか。
何を、という部分を決して自分で肯定はせずにいるのだ。
狡猾な男だと改めて対峙して気付かされる。
多分こんなやり取りは相手にとっては駆け引きなんていうレベルではなく普通のことなのだろうが。
「・・・先生が一生徒に視線を送り続けていたこと、ですかね」
諦めた。
この場を上手く逃げたとしても相手は大人で教師でスネイプだ。
最悪、禁術を使って記憶を奪われるかもしれないと覚悟した。
「視線自体に気付いたのが何時からというなら数ヶ月前でスネイプ先生だと知ったのは今さっきです」
スネイプの強い視線が向けられてくる。
嘘はないと確認したのか男は一つ息を吐いた。
「バレたならば致し方ない。これもいい機会だ」
男の台詞にそれはそうだろうと思う。
スネイプの視線が向けられていた相手は私の友人だ。
ちょっと卑怯と思わなくもないが将を欲せばまず馬からだ。
馬って嫌だなと思うがこれは自らの安否に関わる事である。
だからごめん、とこれからスネイプに差し出すつもりの友人に向かって謝った。
「・、お前を愛している」
「・・・はい?」
暴いた恋のお相手はどうやら私だったようです。
(え、嫌だ!と告げて逃げたのも驚いたせいだと許して欲しい)