何でも開けます
そんな広告が手紙の隙間に挟まっていた
マグルならではの職業
「魔法界ならアロホモラで一発だし」
だけどそんな魔法の呪文でも開けられないココロのトビラ
ローブのポケットにお守りみたいに忍ばせているモノ。
今日もそっと安っぽい紙面を撫でた。
新学期が始まってからずっとスネイプ教授の機嫌は宜しくない。
ハリー・ポッターはいつもの如く減点され、スリザリン生ですら減点の対象にされているのだから。
どれ程のものかはわかるだろう。
その原因は一人の少女にあった。
黒髪の少女。
グリフィンドール生である少女の瞳を何日見ていないだろう。
その瞳に自分だけを写したいと思うようになったのは少女に惹かれ始めている自分に気がついた時。
その気持ちは海の泡のように消えることなく、それ所か会えない休暇中に独占欲と呼べるほどにまでスネイプの胸を占めていた。
「ミス・!左手はどうしたのかね」
斜め後ろから問えばびくりと竦む華奢な肩が揺れる。
それほどまで嫌われているのかと自嘲の笑みを心に浮べながら言葉を紡ぐ。
「何が入っている。出したまえ」
「嫌です」
地下室を静寂が包む。
馬鹿なヤツだという顰められた声が聞こえた。
「今、喋った者は10点減点、はこの後残るように」
俯いたまま顔を上げない少女に舌打ちする。
またしても見えない。
黒い瞳が。
「授業中に何を持っていたのかね」
その声は酷く冷たい。
手間を取らせてと苛ついているのだろう。
グリフィンドール生の一生徒にこの男性が心を開く理由なんてなくて蔑んだ瞳で見られるのが怖くて手をポケットの上に乗せたまま俯く。
「好きな男の写真でも隠しているのかね」
くだらないと言い捨てるような響きに顔を上げた。
瞳が―――――交わる。
「好きな男の写真でも隠しているのかね」
頑なな態度に最悪な想像が浮かぶ。
この年齢の少女ならそんな事をすると思ったのか。
くだらない想像は言葉にした瞬間、明確な事実へと姿を変えそうに思えた。
否、という言葉が欲しくて答えを待つ。
の顔が上がる。
久々に見た瞳は記憶の中よりずっと綺麗だとそう思った。
「違います」
そういって取り出した紙。
ローブのポケットに入れていたせいか端々が折り曲がってるソレ。
あの日入ってた鍵の広告。
「これは?」
日本語のわからないだろうスネイプ先生に説明する。
「どんな扉でも開けますって書いてるんです。マグルの鍵製造会社の広告です」
もうずっとポケットの中にあってボロボロの紙。
「何故、こんなものを」
わけがわからないという表情のスネイプにそれもそうだろうとは思う。
これは単に自分の中の不安と連結するものだから他人が見ても意図は汲み取れるはずもない。
説明を待つスネイプには口を開いた。
溢れ出た気持ちと共に。
「私は・・・ずっと悩んでました。どうしたら人の心は開けるのだろうって。
無理矢理抉じ開ける事なんて出来ないし魔法界にもアロホモラっていう呪文はあっても心までは開けられない。
心の鍵があればいいのにって」
スネイプを魅了してやまない黒い瞳からぽたりと大粒の涙が零れた。
「泣くな」
肩を抱き寄せていた。
彼女が他の男を思い泣く事は辛かったがそのまま泣かせる事などできるはずがない。
「優しくなんかしないでください」
拒絶の言葉に心が凍る。
それも直にの言葉によって溶けるのだが。
「期待してしまいます」
そっと呟かれた言葉が浸透するのにやけに時間がかかった気がする。
もしかしたらという期待、違っていたらという不安。
失うものは何もないと言葉を唇へと乗せる。
「開けたいのは我輩の心だと自惚れてもいいのかね」
臥せられた瞼の下の瞳に真実を見出したくて覗き込む。
長い睫毛がふるりと震えて瞳がスネイプだけを映し出していた。
「どうしたら開ける事ができますか?」
まだしっとりと濡れた黒い瞳が不安げに見詰めていた。
「ではお前だけに教えてやろう」
我輩の心を開ける呪文を。
耳元で囁かれた言葉に驚いてそれから嬉しそうに少女は瞳を輝かせた。
「スネイプ先生が好き」
「我輩もだ」
魔法界では扉を開ける呪文がある
アロホモラ
その一つだけでほぼ全ての扉は開かれる
スネイプ先生のココロのトビラを開ける呪文だけは特別
アロホモラじゃ1cmだって開きもしない
―お前にしか使えないものだ、我輩を好きだと言えばいい―
私にしか仕えない呪文
手に入れたからこの広告はもういらない
・のポケットには翌日からスネイプ教授の写真が忍ばせていたことは彼と彼女しか知らない事