ユウコ!あんた、このレポート落ちてたわよ」

差し出されたのは一枚の羊皮紙。

隅っこについたインクの染みに嫌な予感がしたのよ。

思わず恐々と確認するあたしに親友はあっさりと情け容赦ない一言をおっしゃってくれたのだ。

「それって今日までのスネイプのレポートでしょ?早く出さないと進級単位貰えないわよ」

「う・・・・嘘ー」

慌てて開けば確かに二mレポートの多分五分の三辺りくらい。

「ハッフルバフが一昨日最後の束出しに行ったらもうほぼ採点し終えてたんですって」

もう一人の親友が追い討ちをかけてきた。

「私、今から出してくる」

時計を見るとまだ消灯まで僅かだが余裕がある。

「フィルチに見つからないようにねー」

背中にかかる親友の声援に一緒に来て欲しいとは言えず寒い廊下へ降りたのだった。
























カツン

静かな廊下は音がよく響く。

フィルチに見つからないように足早に地下室へと走る。

何回かこけそうになったが酷く転ぶ事は運良くなかった。

「怖い・・・・」

寒い・暗い・怖い。

三重苦ってこんな感じ?とローブを身体に巻きつけるようにして問題の部屋へと辿り着く。

ノックをしようとして隙間から薄く月明かり程度の灯りが漏れている事に気がつく。

「スネイプ先生・・・いますか?」

恐る恐る出した声は小さかった上にタイミングよく窓に吹いた突風でかき消された。

中から何かゴソゴソと物音が聞こえた。

そーっと覗いてみると灯りもつけず大鍋が火にかけられていた。

グツグツグツグツグツグツグツグツ

そしてユウコはその隣に求めていた人物を見つけた。

スネイプは影のようにその黒い姿を保っていた。

「スネイプ先・・・・」

呼ぶ声は途中で消えた。

まな板の上の物体を出刃包丁のようなものでダンっ!と切ったスネイプを見た瞬間に。

そしてスネイプは薄く・・・・・・・薄く嬉しそうに微笑んだのである。
















「ぎゃああああああああああああ」

「なっ・・なんだっ」













走り去った生徒の背中を見失ったスネイプは扉の前に落ちていた紙を拾い上げた。

「調度いい」

にやりと笑ったその姿をユウコが見なかったのは幸いだったかもしれない。



















「ミス・クーガーは残るように」

ざわざわとざわめきが遠くなっていく。

一刻も早くこの凍えるような地下室から逃げ出そうとしているのだろう。

「私も帰りたいよ」

「無理だな」

呟いた独り言は一刀両断されてしまった。

「さて、何故残されたのかわかっているのかね?」

ハリーを苛める時のような猫なで声にびくりと竦む。

「・・・わかりません」

「では教えて差し上げよう。我輩が出したレポートの規定にミス・クーガーは残念ながら届かなかったようだ」

30cm足りなかったようですなと言われて言い訳をしようと口を開く。

「実は我輩の部屋の前にこのレポートの一部が残ってましてな」

口を開く前に目の前に差し出されたのはあの夜ユウコが落としたレポートだった。

「そっ・・それ私のです」

「ほう・・名前がなかったのだがミス・クーガーのモノだったとは」

「はい。廊下で落としたんです」

きっと。

嘘ではない。

嘘はついていない。

「ではもう一つ尋ねるがこのレポートを落としたときに何か見なかったかね」

「ええええっ・・な・・何も見てませんよっ」

声が裏返ってしまった。

「強情ですな。ではこのレポートはミス・クーガーのものではないということになる」

「そんなっ!」

「では証明できますかな?」

「端についたインクの染みは見覚えがあります」

「その程度では証明できまい?」

「書いてるのはマンドラゴラと朝鮮人参の・・・」

「証明するのに手っ取り早くこれを飲んでもらおうではないか」

目の前に差し出されたのは薄桃色の液体が入ってる瓶。

「これってこの前作っていた・・・・」

「やはり見ていたのだな」

しまった!と口を押さえても遅い。

口は災いの元というのは本当らしい。

「この薬はなんですか?」

「自白剤とその他様々な混ぜれなかったものの副作用を失くした薬だ」

調度人体実験がしたかったのだよと薄く笑われてぶんぶんと音が出そうなほど首を振る。

「遠慮させてもらいますっ」

飲んでもらおう。

ぐぐっと掴まれて無理矢理瓶を近づけられる。

「むぅー」

唇を噛み締めて抵抗したらちっと舌打ちが聞こえた。

「仕方ない」

諦めてくれた?

ほっとして力を抜いた瞬間スネイプ先生は口に瓶をつけるとその後私の唇に口付けた。

「・・・・・・・・・・・んっ・・・・」

ゴクリ

嚥下した液体を吐き出したかったけれどその前に言わなければならない事がある。

「何をするんですか!」

叫ばなかっただけ偉いぞ自分と褒めたいくらいだ。

「素直に飲まないお前が悪い」

そんな理由で私のファーストキスを奪ったんですか!?と言いたかったのに舌が廻らない。

「薬が効いたようだな」

ふむと取り出したノートにサラサラと書き記しているスネイプ先生。

「ミス・クーガー。このレポートは君のかね」

「はい。私が落としました」

「ではそうなのだろうな。薬を作っているところも見たのであろう?」

「はい。スネイプ先生が童話の悪い魔法使いみたいに嬉々として作っているのをみました」

「では最後の質問だ。その・・・恋人はいるのかね」

「いいえ。でも・・・・・」

「でも何かね?」

「スネイプ先生みたいなキスの上手い人がいいなあとは思ってます」

ユウコは遠くで自分が喋っているのを聞いていた。

嘘です、嘘!

と言いたかったけれどその答えの後スネイプが満足げな笑みを浮べているのを見てどういうことだろと不思議に思った。





























「目が覚めたかね?」

頭がくらくらしたけれど差し出された水を飲むとすっきりした。

「・・・・・レポートは私のってわかったんですよね?」

「ああ。証明できた」

それじゃと立ち去ろうとしたら呼び止められた。

「ミス・クーガー。証明できてもまだ問題は残っているのだよ」

「まだ何かあるんですか」

「期限が切れているのはどうするのかね?」

意地悪く笑うスネイプ先生が視界に入る。

「・・・・・・・・何をすればいいんですか?」

「利口だな。Give and Takeという言葉を知っているかね」

「・・一応」

「我輩は身内には些か甘くてなそれが恋人だとレポートの期限をまけてやるのもやぶさかではない」

どうかねと耳元で囁かれる。

「スネイプ先生とお付き合いですか」

「ああ」

「それじゃあ・・・私が欲しい言葉をくれたらいいですよ」

少し考えたスネイプ先生はわかったとこう囁いた。

「ずっと好きだった、我輩と付き合ってくれるかね。ユウコ」

「・・・・・・遠慮します」

「なっ・・!」

「嘘です。ちょっとさっきの仕返しですよ」

にっこり笑って告げる少女にスネイプはしてやられたと苦笑しつつ噛み付くようなキスをしたのだった。