ドリーム小説
うつろな私の目から見ても彼女はとても愛されている
順序の基準
その日は妻・雪絵から持っていけと言われたものがあったので神保町の榎木津ビルヂングに向かっていた。
夏の日差しはやけに暑くてたたでさえ朦朧としている私という存在がますます陽炎のようになっていた時である。
「関口さん」
涼しげな格好の彼女。そう名前は・・・・。
探偵・榎木津礼二郎の幼馴染だ。
私は持病の鬱病のせいもあり上手く人とはしゃべれない。
まして彼女のような光そのものといった人物との会話は苦痛であるはずだ。
けれども、なぜか、友人の京極堂を相手にするのと同じらいには彼女と話す事ができるのである。
ひとえに彼女の光が夏の強烈な日差しでなく、春の木漏れ日に近いと気づいたのはかなりあとの事だ。
「ここでお会いするって事は礼二郎の所ですか?」
「これを・・・・・・持っていこうと」
妻に言われてとは言わなかった。
彼女には私がそう気が利くほうじゃないと知っているだろうがあまり口には出したくない。
「まあ。きっと喜びます」
洋菓子は大好きなんですよ、クッキー以外は益田君の分も食べてしまってと笑う彼女に相槌を打ちながら
いつの間にかついてしまった扉を開ける。
「いらっしゃい・・・って関口さんじゃあないですか。先生はまだ寝てますぜ」
私の顔を見るなり開口一番和寅は言う。
そして私の後ろにいた彼女に気がつき
「さんいらっしゃい。先生は奥ですよ」
そういって茶の準備を始めた。
私はすすめられた椅子に座りしばらくすると奇声が・・・・・・・
いや、もうなじみとなった笑い声が聞こえた。
「うははははは。猿が挨拶に来たかッ」
手に持っているのは雪ちゃんからの菓子だなッ
そういってばりばりと音を立てて包みを破る。
中にはゼリーの詰め合わせ。
色とりどりのゼリーは妻・雪絵とその友人であり京極堂の妻君千鶴子さんの友人からの貰い物である。
榎木津は紫・黄・白・橙・赤のゼリーを見てふうんと言った。
私は彼が大の苺好きなので赤を取ると思って見ていたのである。
「。これはの分だッ」
赤い苺のゼリーは榎木津ではなく彼女の元へと行った。
「そして僕はこれだッ」
白いゼリーが榎木津の元へ。
彼は赤いゼリーを取らなかった。
そして私は彼が桃を苺の次に好んでいるのを知っていたのである。
虚ろな私の目からでも彼女は榎木津に愛されている
あとがき
関口さんはなんとなく涙を誘います。