ドリーム小説
憑き物
外は――雨だ
夏の通り雨。いわゆる夕立の類であると思われるそれ。
こう蒸し暑い上に雨まで降られたら客など来はしないだろう。
そう思い札をかけ読みかけの本を腰を落ち着けて再び読みすすめる。
――何か声がしたか――
空耳などの幻聴の類はなかったので声がした気のする玄関へまわってみる。
そこには濡れそぼれた少女が立っていた。
「どうしたんだ、君。ずぶ濡れじゃあないか」
傘も持たずに通り雨にあったのだろうを見ると雰囲気が違う気がした。
「まさか・・・先生が・・・」
彼女の父親は恩師であり歳の離れた友人でもあった。
身体の調子が優れないとは聞いていたが――
「・・・・今朝早くに」
息を引き取りました―何かをこらえるような彼女は頼りなく儚げに見えた。
だからなのかもしれない。・・・いやそう思いたいだけなのか。
「泣きなさい。泣かなければ君の憑き物は落ちない」
雨に濡れて冷たい身体を引き寄せる。
しっかりと抱きしめてやると思ったより小さな身体にどきりとする。
「すいません。でも・・・私・・・」
「謝る事はない。今は悲しむんだ。泣き疲れるまで泣きなさい」
それからでもおそくはないよ
そう告げると彼女は小さく嗚咽を漏らしながら泣いた。
胸元を濡らす温かな雫は身体の奥に揺らめいた炎を消すのに充分だった。
「すいません。中禅寺さんの着物汚してしまって」
しばらくして落ち着いた様子のは呟いた。
「この位なら大丈夫だよ」
それよりも風邪をひくから着替えたほうが――と言おうとして妻が出かけていた事を思い出す。
「すまない。妻がいないので着替えは出せないのだが」
とふけそうなものを渡す。
「ありがとうございます」
そういいながらもは受け取らなかった。
「私、帰ります。憑き物も落ちました」
そういって笑った顔が眩しかった。
数ヵ月後
そのときの礼と実は中禅寺さんの事が好きだったのですと書かれた手紙が届き
その手紙を机の奥深くにしまった主の姿があった。