とてつもなく嫌だが目の前の男は私の師だ。

幼い頃より薬に興味を持ちマッドマジカリストなどと恐怖の二つ名を貰った私はすくすく育ちホグワーツからも無事入学ライセンスが届いた。

ホグワーツでは魔法薬学の素晴らしい教授がいると聞いていただけに入学前から楽しみだった。

なのに。

なのに、である。

「こんな奴なんて思わなかったわよ」

ゴリッとすり鉢に磨り潰す根を押し付けた。

「丁寧に扱え」

間髪いれずに注意が飛ぶ。

くそー!!

天秤で粉末に精製した薬草のエキスを計っている男をにらみつける。

髪は黒で少しだけ粘ついているような雰囲気だ。

鼻は日本人では有り得ない鷲鼻で眉も彫りも深い濃い顔だ。

しかも目つきも悪い。

眉間の皺はない方が珍しいし薄い口唇は怒りの頂点に達したら捲り上がるという本当に怖い人物だ。

最初に会った瞬間、私は火が付いたように泣いた。

『妖怪が出たーぁぁぁ!!』

ぎゃーと泣き喚いた私は座り込んで泣きじゃくりいつの間にか眠ってしまっていた。

恥ずかしいが多分ホームシックや新しい環境(しかも異国)への不安なんかがスネイプ先生の顔で噴出したのだろう。

気付けば皆居なくて隣には何故だか黒い怖いと思っていた男がソファーで眠っていた。

慌てて離れれば左手に違和感。

どうやら泣き疲れ眠った私は彼の服を握り締めていたらしい。

ふわりと泣き疲れてうとうとし始めた身体を抱き上げてくれた人が居たのを思い出す。

そして一人遅れた組み分け式でなんでだか見事スリザリンを引き当てて、元々あった興味はあの衝撃後も費えることなく、

結局いつの間にか師として仰ぐことになってしまっていたのだ。

この男を。

「もっと爽やかで親切な人だと思ってたのに」

持っていた名高い薬学教授のイメージはとっくの昔に粉々だ。

ぶつぶつと文句を言いながらも慣れた手際で着々と薬壜に出来上がったものを詰めていく。

「ハッ!勝手に期待するほうが甘いと何度言えばわかる」

鼻で笑ってくれる相手にこういう所が嫌なのよと心の中で不平不満。

大人ならさらりと聞き流す度量くらい持ち合わせて頂きたい。

「で、なんで私はこんな天気の良いしかも休日にこんな場所で薬草の処理を手伝っているんでしょうね?」

いくらなんでも休日は休日として過ごしていたのだ今までは。

なのにホグズミートへ行こうかと計画を立てていたら急に呼び出され、手伝いを命じられた。

勉強になるからと引き受けたのだが。

もっと楽しい相手なら良かったと作業自体は嫌いでないので思いつつ次の壜の蓋を閉める。

「まあ彼氏など作らせるつもりはないからそのつもりでいるのだな」

その言葉にはあ!?と聞き返す。

誰が彼氏?

誰の彼氏?

さっぱり訳がわからないと顔を向ければ面白そうに笑われた。

むかつく。

「杞憂だったようだが・・・まあいい。ユウコ、お前には我輩を選ばせてやるから安心していろ」

「だ・・・誰がっ!?」

教師でもないその浮かんだ表情に慌ててしまう。

動揺したせいで蓋がカラカラと床を転がる。

「絶対に選ばないからっ!!」

宣言した少女は数年後、絡め取られるかのように彼にプロポーズを無理矢理受けさせられることになるのだがそれはまた別の話。